イギリスでは10月末から冬時間となり、日本との時差は8時間から9時間に変更。午後4時頃には真っ暗となる季節が到来しました。来年の春に向けてチューリップや水仙の球根を植え終えた今は、家の中でガーデンニング専門誌を見たり、イギリスガーデンの歴史について調べるのにぴったりの時間です。
さて、イギリスのガーデン史といえば、今年はとても重要な年にあたります。そのため、「イヤー・オブ・ザ・イングリッシュ・ガーデン(Year of the English Garden)」と銘打ったキャンペーンが行われ、特に春以降、イギリス各地のガーデンで多くのイベントが開催されてきました。
なぜ今年がこのガーデニング王国にとって重要かといえば、世界的に著名なランドスケープ・デザイナー(造園家)であるランスロット‘ケイパビリティ’ブラウン(Lancelot ‘Capability’ Brown)の生誕300周年にあたるからです。 ブラウンについて日本ではあまり知られていないかもしれませんが、イギリスではガーデニングに全く興味がない人でも必ず知っているというほど有名な人物です。というのも、ブラウンは、18世紀に人気となった「風景式庭園」をイギリス中に広めた第一人者だからです。
彼がデザインを手がけたのは超リッチな人々の邸宅だったため、「庭」といってもそれぞれの規模は巨大です。それがイングランドとウェールズで250にも及ぶ(総面積にしてサッカー場約1000個分にあたる)というのですから、イギリス庭園の歴史に与えたその影響の大きさは大変なものでした。そして現在、人々が「イギリスらしい、自然な風景」と思って見ているその景色の多くは、実は彼によって「人工的に生み出された」風景なのです。そのため彼は「イギリスの庭園史上、最も偉大なランドスケープ・デザイナー」とか「庭園の魔術師」などと評されることもあります。
ブラウンのデザインした庭は「自然な風景」のように見えるのが特徴ですが、すでにあった樹木を取り除いて、新たに多くの木を植えつけたり、もともとなかった池や湖を作り上げたり、ときにはお屋敷からの景観を邪魔する近隣の村ごと移動させてしまう、ということさえ行った大規模な事業でした。
1764年にはハンプトン・コートのロイヤル・ガーデナーとして指名され、名実ともにイギリストップのランドスケープ・デザイナーとなったブラウン。ひとつの庭園づくりに早いもので2年、長いものでは30年もの年月を要しました。その間、彼は各地を馬に乗って訪ね、指揮をとりながら美しい景観をつくりあげていったといいます。
特にユニークなのは「ハハー(ha-ha)」と呼ばれる地下に埋め込んだ形の壁です。この面白い名前は「ハハーン!」「なんと!」といった感じで、これを見た人たちが感心することからつけられたといいます。というのも、現在のような電動芝刈り機がない時代には、広大な庭園に生える芝生管理のために、牛や羊などの動物を飼っていました。ただし、それらの動物が一定の距離以上、屋敷の建物に近づくのを避けるためにフェンス(壁)が必要でした。ところが芝生の途中に高い壁を立ててしまうと、屋敷から見る風景が台無しになってしまいます。そこで、庭園の持ち主が住む建物からはまるでそのまま芝生による緑のカーペットが続いているかのように見えるけれど、動物たちには登ることのできない壁を作りました。それがこの「ハハー」なのです。
イギリスのガーデンに興味をもたれたら、緑豊かで穏やかなこの国の田園風景を形作ったといわれる、ブラウンの手がけた庭を訪ねてみてはいかがでしょうか。
ケイパビリティ・ブラウン生誕300周年記念ウェブサイト
http://www.capabilitybrown.org/
さて、イギリスのガーデン史といえば、今年はとても重要な年にあたります。そのため、「イヤー・オブ・ザ・イングリッシュ・ガーデン(Year of the English Garden)」と銘打ったキャンペーンが行われ、特に春以降、イギリス各地のガーデンで多くのイベントが開催されてきました。
なぜ今年がこのガーデニング王国にとって重要かといえば、世界的に著名なランドスケープ・デザイナー(造園家)であるランスロット‘ケイパビリティ’ブラウン(Lancelot ‘Capability’ Brown)の生誕300周年にあたるからです。 ブラウンについて日本ではあまり知られていないかもしれませんが、イギリスではガーデニングに全く興味がない人でも必ず知っているというほど有名な人物です。というのも、ブラウンは、18世紀に人気となった「風景式庭園」をイギリス中に広めた第一人者だからです。
ランドスケープ・デザイナーとしてだけでなく、起業家、ビジネスマンとしての能力にもたけていたブラウン ©Portrait of Lancelot ‘Capability’ Brown, c.1770-75, by Richard Cosway (17421821)/Private Collection/Bridgeman Images.
当時、富裕層の間では、庭園を改良することが流行っていました。そして、その機にあわせ、それまでは幾何学的なデザインのフォーマル・ガーデンが主流だったイギリスの庭を、まるで自然の景色そのままのような風景に作り替えてしまったのがブラウンだったのです。彼がデザインを手がけたのは超リッチな人々の邸宅だったため、「庭」といってもそれぞれの規模は巨大です。それがイングランドとウェールズで250にも及ぶ(総面積にしてサッカー場約1000個分にあたる)というのですから、イギリス庭園の歴史に与えたその影響の大きさは大変なものでした。そして現在、人々が「イギリスらしい、自然な風景」と思って見ているその景色の多くは、実は彼によって「人工的に生み出された」風景なのです。そのため彼は「イギリスの庭園史上、最も偉大なランドスケープ・デザイナー」とか「庭園の魔術師」などと評されることもあります。
壮大なスケールのブレナム宮殿
©Blenheim Palace
©Blenheim Palace
石造りの橋もブラウン・デザインの特徴のひとつです
©Blenheim Palace
ところで彼の名前の「ケイパビリティ」というのは、本名ではありません。彼が依頼を受けた庭園の持ち主であるクライアントに対し「この庭はもっと素晴らしくなる可能性(ケイパビリティ)がある」と言うのが口癖だったため、このようなニックネームがつけられたと言われているそうです。©Blenheim Palace
ブラウンのデザインした庭は「自然な風景」のように見えるのが特徴ですが、すでにあった樹木を取り除いて、新たに多くの木を植えつけたり、もともとなかった池や湖を作り上げたり、ときにはお屋敷からの景観を邪魔する近隣の村ごと移動させてしまう、ということさえ行った大規模な事業でした。
1764年にはハンプトン・コートのロイヤル・ガーデナーとして指名され、名実ともにイギリストップのランドスケープ・デザイナーとなったブラウン。ひとつの庭園づくりに早いもので2年、長いものでは30年もの年月を要しました。その間、彼は各地を馬に乗って訪ね、指揮をとりながら美しい景観をつくりあげていったといいます。
ハンプトンコート・パレスにはブラウンが住んでいたことを示すブループラーク(青い銘版)がかけられています ©Historic Royal Palaces
「ダウントン・アビー」の舞台となったハイクレア城。レバノン杉はブラウンの庭園によく植えられている特徴的な植物です © Highclere Castle
イギリス内には、人気テレビ・ドラマ「ダウントン・アビー」のロケ地として知られるハイクレア城や、ウィンストン・チャーチル生誕の地であるブレナム宮殿、イングランド北部のチャッツワース・ハウスなど、現在でも一般公開され、彼の手がけた庭園を見ることができる場所がいくつもあります。特にユニークなのは「ハハー(ha-ha)」と呼ばれる地下に埋め込んだ形の壁です。この面白い名前は「ハハーン!」「なんと!」といった感じで、これを見た人たちが感心することからつけられたといいます。というのも、現在のような電動芝刈り機がない時代には、広大な庭園に生える芝生管理のために、牛や羊などの動物を飼っていました。ただし、それらの動物が一定の距離以上、屋敷の建物に近づくのを避けるためにフェンス(壁)が必要でした。ところが芝生の途中に高い壁を立ててしまうと、屋敷から見る風景が台無しになってしまいます。そこで、庭園の持ち主が住む建物からはまるでそのまま芝生による緑のカーペットが続いているかのように見えるけれど、動物たちには登ることのできない壁を作りました。それがこの「ハハー」なのです。
「ha-ha」の様子 ©National Trust Images, David Levenson
「ハハー」自体はブラウン以前に考案されたものですが、こうしたしかけを使いながらブラウンが作り上げた庭園は、間違いなくその後のイギリスの景観を作り上げたのです。イギリスのガーデンに興味をもたれたら、緑豊かで穏やかなこの国の田園風景を形作ったといわれる、ブラウンの手がけた庭を訪ねてみてはいかがでしょうか。
ケイパビリティ・ブラウン生誕300周年記念ウェブサイト
http://www.capabilitybrown.org/
マクギネス真美
英国在住20年のライフコーチ、ライター。オンラインのコーチングセッションで、人生の転換期にある方が「本当に生きたい人生」を生きることを日本語でサポート。イギリスの暮らし、文化、食べ物などについて書籍、雑誌、ウェブマガジン等への寄稿、ラジオ番組への出演多数。
音声メディアVoicy「英国からの手紙『本当の自分で生きる ~ 明日はもっとやさしく、あたたかく』」にてイギリス情報発信中。
ロンドンで発行の情報誌『ニュースダイジェスト』にてコラム「英国の愛しきギャップを求めて」を連載中。
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