あれはちょうど20年前。映画「スナッチ」を観て、あまりにクール(でもちょっとおバカ)な“ワルたち”の共演に惚れ込んだのを覚えています。私にガイ・リッチー監督を印象づけた最初の映画でした。
そして今日5月7日、ガイ・リッチー監督最新作「ジェントルメン」が公開初日を迎えました!
公開に先立ち、試写会にご招待していただきましたので、今日は私の感想もまじえながら、映画の見どころについて書かせていただきたいと思います。
あらすじ
ロンドンに緊急事態発生。長年にわたる大麻の大量栽培/販売で財を成したアメリカ人のミッキーが、ビジネスを売却し、引退するという噂に暗黒街に激震が走った。その利権総額なんと500億円。目の色を変えた強欲なユダヤ人大富豪、ゴシップ紙の編集長、ゲスな私立探偵、チャイニーズ&ロシアン・マフィア、さらには下町のチーマーまでもが跡目争いに参戦。一筋縄ではいかないジェントルメン=一流のワルたちによるダーティでスリリングな駆け引きが始まった!公式サイトより
ガイ・リッチー監督は、映画「スナッチ」(2000年)でロンドンに生きるマフィア、チンピラ、パイキーといったワルたちを最高にかっこよく描き出し、ファンの心をわし掴みにしました。しかしその後は、きれいめな映画を製作するようになります。ロバート・ダウニー・Jr とジュード・ロウ主演の爽やか「シャーロック・ホームズ」、洒落た演出が小綺麗なスパイ・アクション「コードネーム U.N.C.L.E.」、ディズニーの実写版「アラジン」など。どれもストレートに楽しめるエンターテインメントには違いないのですが、刺激を欲する「スナッチ」ファンにはちょっと物足りなかったかも。
「スナッチ」から20年の時を経て公開された映画「ジェントルメン」は、そんな古くからのファンを裏切りませんでした。ロンドンのワルたちが再び脚光を浴びたからです!
メディアも「ガイ・リッチー原点回帰!」「下品なユーモアが戻ってきた!」と歓迎ムード。また、本編では「スナッチのオマージュか⁉」とにおわせるシーンが散りばめられており、ファンを何重にも喜ばせてくれます。
イギリスの複雑な社会を面白おかしく描き出す!
少し話は変わりますが、私はロンドンに4年間、留学していたことがあります。この間、イギリス社会の複雑さに触れる機会が多々ありました。
まず感じたのは、イギリス人の「階級意識」の強さです。階級は法律で定められているわけではありません。それなのに、階級ごとに言葉のアクセント、ファッション、嗜むスポーツ、読む新聞の種類までもが細かく異なり、そういった共通点を持つことで同じ階級にいる人々との結束を強めているようでした。逆に、階級の枠を越えてこようとする人を毛嫌いする傾向があり、特に下の階級に生まれた人が上の階級へ上昇するのは簡単なことではないようです。
だからでしょうか、イギリスではよく階級上昇物語が人気になります。例えば、下町生まれで育ちの悪い花売り娘がレディになっていく「マイ・フェア・レディ」。炭鉱町で生まれた少年がロンドンのロイヤル・バレエ学校を目指す「ビリー・エリオット」。最近なら映画「キングスマン」も、チャヴ(Chav)だった不良エグジーが、教育を受けてジェントルマン・スパイになるという階級上昇物語といえるでしょう。
この階級意識に加え、イギリス人は、自分のルーツとなる民族や、宗教、コミュニティへの高いプライドも持ち合わせているようです。例えば、俳優ショーン・コネリーは、スコットランド人としての誇りが高く、映画「007」のジェームズ・ボンド役を引き受ける際にも、スコットランド特有のアクセントを矯正することを断ったのだそうです。2000年に英国王室からナイトの称号を授与されましたが、スコットランド独立を最期まで支持していました。
このように、多民族国家イギリスは、階級だけでなく、さまざまな思想が入り混じり、大小多くの集団が存在する複雑で面白い社会を形成しています。
こうした背景を踏まえて映画「ジェントルメン」を観てみると、次から次に登場する個性豊かなキャラクターは、イギリスのリアリティをよく表していると思います。
アメリカの貧困家庭から成り上がり、イギリスで上流の暮らしに陶酔するマリファナ王。強欲なユダヤ人大富豪。屋根の修理費用さえままならない貧乏貴族。ゴシップをネタに地位ある人たちを貶める新聞編集者。金で寝返る私立探偵。チャイニーズ&ロシアン・マフィア。野心的な新勢力から、ストリートギャング、小さなボクシングジムまで。映画「ジェントルメン」は、ロンドンという街を構成するあらゆる階級・人種・コミュニティを複雑に絡ませることで、最高にイギリスらしいクライム・サスペンスへと仕上がっているのです。
ファッションは生き方!こだわり抜かれた衣装にも注目
ガイ・リッチー監督は、それぞれの役柄が属する階級の違いがはっきり分かるように、衣装や嗜好品にもこだわりを見せています。衣装デザインを担当したマイケル・ウィルキンソンのスケッチやコメントと共に、クールでジェントルメンな着こなしを紐解いてみましょう!
マリファナ王 ミッキー・ピアソン(マシュー・マコノヒー)
Courtesy of Michael Wilkinson
“独特で個性的なルックスを作り上げたいと思っていた。そこで、彼の着用するスーツは、オーダーメイドのスーツを発注することにしたんだ。伝統的な英国風の仕立てを取り入れつつ、モダンな仕上げにしてくれた。非常に質の高いスーツだが、若々しい発想の伝統に縛られないデザインだ。” -ウィルキンソン
Courtesy of Michael Wilkinson
“ミッキーは、自分の地位を楽しんでいるような人間だ。英国風の仕立てを強調するためにも、美しい羊毛やカシミアや絹の贅沢な生地を選んだ。” -ウィルキンソン
ピアソンの右腕 レイモンド(チャーリー・ハナム)
“チャーリーに関しては、英国風でありながら、もう少しカジュアルなスタイルを作り上げたかった。仕立てた服に、キルト地のバブアーのジャケット、ニットのネクタイ、ツイードのベスト、厚手のニット、そして、美しいオーダーメイドのブーツなどを合わせた。チャーリーの演じるレイには、生まれつき服装のセンスがある。法に触れる活動をしているからといって、仕立てのいい、ウェルメイドの服を着ないとは限らない!” -ウィルキンソン
ミッキーが溺愛する我の強い妻 ロザリンド(ミシェル・ドッカリー)
Courtesy of Michael Wilkinson
“ロザリンドは、堂々とハイブランドの服を着こなすタイプだ。彼女が生まれた育った境遇は今の状況とは全く異なるとは思うが、彼女が今の特権的な境遇に馴染んでいるように見せたかった。ファッションの小さな詳細にまでこだわり、大胆かつ自然になんでも着こなす。古風な英国スタイルに、モダンでドラマチックなテイストが加わる。黒と白がベース。くっきりと見せる肩の形、鮮明なストライプに、大胆なシルエット。パール、ブーツ、毛皮、カシミアを使い、シャープな仕立てを心掛けた。“ -ウィルキンソン
若いはぐれ者たちのグループを率いるボクシング・コーチ(コリン・ファレル)
Courtesy of Michael Wilkinson
“コリン・ファレルと彼の率いる集団のために、一からトラックスーツを作成した。典型的な英国風のスーツ用生地を、モダンなキルト地にし、更にプリントを施して鮮烈な印象に仕立てた。属す階級によって、『英国風』の解釈が異なることを見せたかったんだ。この集団の衣装に関しては、ストリートウェアやカジュアルなスポーツウェアのテイストを加えた。” -ウィルキンソン
ミッキーからお金をだまし取ろうとするゲスな私立探偵 フレッチャー(ヒュー・グラント)
“ヒューが演じる役は、1970年代の偉大な映画監督たちがモデルになっている。あの時代の映画監督を、もっと好色で怪しい雰囲気にしたのがヒューの役柄だ。ヒューもとても気に入っていたよ!…彼のためにレザージャケットを作り、長年着古して見えるように手を加えた。さらに、ハイネックのセーターとワニ革でできたブーツを合わせたんだ” ― ウィルキンソン
ブリティッシュスタイルと聞いて、私たちが真っ先に連想するのは、上流階級の文化に影響を受けたトラッドやノーブルといったスタイルかもしれません。しかし、イギリスという国の奥深さは、階級や民族の多様性にもあるのではないでしょうか。「属す階級によって、『英国風』の解釈が異なる」と語るマイケル・ウィルキンソンが言うとおり、多様なブリティッシュスタイルの着こなしにも、ぜひご注目ください!
『ジェントルメン』
5月7日(金)より、TOHO シネマズ 日比谷他全国ロードショー監督・脚本・製作:ガイ・リッチー
撮影監督:アラン・スチュワート
美術デザイン:ジェンマ・ジャクソン
衣装デザイン:マイケル・ウィルキンソン
編集:ジェームズ・ハーバート、ポール・マクリス
音楽:クリストファー・ベンステッド
出演:マシュー・マコノヒー、チャーリー・ハナム、ヘンリー・ゴールディング、ミシェル・ドッカリー、ジェレミー・ストロング、エディ・マーサン、コリン・ファレル、ヒュー・グラント2020年|英・米合作|カラー|スコープサイズ| DCP5.1ch 113分|字幕翻訳:松崎広幸|原題: THE GENTLEMEN PG12 配給:キノフィルムズ 提供:木下グループ
配給:キノフィルムズ
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