私の自己満足にお付き合いいただいてもよろしいでしょうか。
私は約2年前から青山店で勤務しておりますが、以前はBespoke shoe makerとして働いていましたので、Bespoke shoesとはこのように作られていますという内容をただただ書いてみます。イギリスへの関りは……私が習った靴作りの製法、手順がイギリスの某Bespoke shoe meker出身の方という縁でしょうか?ご興味ありましたらお酒のおつまみにどうぞ。
まずBespoke shoesで一番の特徴といってもいいのが木型だと思います。木型は”LAST”と呼ばれています。なぜなのでしょう。私が靴作りを習っているときに最後まで靴作りに必要なパーツだからと言われたことがありましたが、調べたら『靴の良し悪しは最終的に木型できまる』ことからLASTと呼ばれているみたいですね。
では、何が特徴的なのかと言いますと、Bespoke shoesの木型はお客さまの足を両足採寸し、必要なデータを取り、それらを元にお客さま一人のために木型を作製します。
こちらを見ても全く違うのがわかりますね。足の長さや、幅、甲の高さ、踵の形、土踏まずの高低などなど……(笑)
木型は本当に奥が深くて、足医学の分野も入ってきますので難しいです。私は今も勉強していますが、本当に簡単ではありませんので、義肢装具士の方々はすごいなと常々思います。
あ、ちなみにですがつま先の形って割と自由です。足の形状によって向き不向きや、shoe makerのハウススタイルはありますが、ラウンド、エッグ、スクエア、チゼルなど好みを反映させることができるのもいい点ですね!
そして木型が完成したら、次はアッパーと呼ばれる甲革を作っていきます。ここはお客さまが一番楽しめる内容ではないでしょうか。好みのデザインはあるけど、足に合わなかったから断念したなんてこともあるはずです。私も以前に、どんなデザインでもできますか?って聞かれたことがあり、もちろん大丈夫ですって言いながら、心の中で作ったことのないデザインもあります~って焦っていたこともありました。
デザインが決まったら、両足からパターンを作成します。木型が左右で違うため、パターンも左右から作り、革を裁断してミシンで縫っていきます。Bespoke shoe makerの方のほとんどはハンドソーンウェルテッド製法を採用していると思いますが、機械を使うのはこのアッパーを縫うミシンだけで、その他はすべて手作業です。
時代にあっていないと思われるかもしれませんが、細部へのこだわりの中では手作業でしかできない工程もあるのと、技術継承の意味あいもあるのかなと思ったりもします。
こちらは割とシンプルなデザインですね。私も好みのデザインです。ちなみにですが、使用している革はドイツのタンナー、WeinheimerのBOX CALFです。個人的に黒のBOX CALFでは一番好きなタンナーさんの革です。あとはHAASのCALFもいいですね。
次は、インソールの癖付けと加工です。インソールは靴の中で皆さんが足を乗せている革のパーツですね。このインソールもとても大事なパーツで、海外のBespoke shoe makerでは、このインソールだけ使いまわしてその他すべてを修理もしくは交換することもあると聞いたことがあるようなないような。
インソールには木型の底面の形状を記憶させたいという思いから、実は水につけて木型に癖付けしています。この辺りもBespoke shoesの?手製靴の?特長ですね。え?革靴って水は良くないんじゃないの?って思いますよね。しかし、作る工程の中で水につけて革を柔らかくして形成する作業は意外にもあります。
そして、癖付けが完成するまで待ちます。待ちます。待ちます……ここは職人さんにもよりますが、私は約1週間ほど寝かせていました。そして、インソール加工ですね。ハンドソーンウェルテッド製法ではWeltを手縫いで行うためグッドイヤー製法で使用されるリブテープは使用せず、インソールに穴を開けて手縫いで縫いつけられるように加工します。実はハンドソーンウェルテッド製法のそり返りが良いと言われるのは、このリブテープに関係します。
こんな感じです。このインソール加工が終わると、靴になっていく様が強く感じられ、個人的にはとても好きな作業であり見た目です。そして工具が美しい!こちらはイギリスの柄にドイツのすくい針です。この針はとても良いのですが、デッドストックであまり出回っていないので大切に使っています。たまに、無理な方向に力がはいるとポキって折れます……私の心も一緒にポキってなります……内踏まず、外踏まずのラインがなんかだいぶ内側に入っていると感じたあなたは相当、靴がお好きですね。こちらは後編で紹介しますヴェヴェルドウエストのためのラインなのです。
そしてインソール加工が終了したら、いよいよつり込みと呼ばれる作業です。これも機械で行うとあっという間に終わると聞いたことがありますが、手作業でつり込みをしていきます。
写真だとあっという間ですが、実際は大変な作業です。楽しくもありシビアな作業です。つま先の芯材加工をしている写真は、ピンぼけして使えなかったですが、厚みのある革を加工して左右で同じつま先に見えるように加工したり、すべての場所で木型にピタッと沿うようにしないといけませんし、もちろんデザインバランスが左右で変わらないようにするのも当然です。そしてつり込みの最後は、きれいに磨いたハンマーで叩きます。叩きます?そう、叩いて木型の形を革に記憶させていきます。叩く方向もあったりして、面白いんです。靴作りって。
ここらで私が思う前編が終わりますので、一旦私も終わります。お付き合いいただきありがとうございました。いつになるかは分かりませんが、次は後編でお会いしましょう。
青山本店 厚井(こうい)
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