ロックダウンのイギリス。その暮らしの中で見えてきたもの | BRITISH MADE

English Garden Diary ロックダウンのイギリス。その暮らしの中で見えてきたもの

2020.04.16

イギリスの自然 ロックダウン後のイギリス。自然は今も美しい。
この原稿を書いているのは4月の初め。現在、イギリスはロックダウンの状態にあり、外出が規制されています。ロックダウンといっても、都市機能が完全に封鎖されて外にまったく出られないというわけではなく、政府の発表では、以下の理由での外出は許可されています。

• 食料品や薬といった必需品の購入(ただし、できる限り回数を減らす)
• 1日1回のエクササイズ(ランニング、ウォーキング、サイクリング:一人または同居の家族とのみ)
• 医療に関する必要性がある、怪我や傷害の危険を避ける、介護やケアをする
• 在宅勤務が不可能な仕事のための通勤

3月なかばから、イギリス政府は、70歳以上の方、妊婦、既往症のある方などへの自主隔離を呼びかけていました。その後、パブやレストラン、ジムなどの閉鎖、そして学校の無期限閉鎖、さらに学校閉鎖が始まった3月23日の夜には、ボリス・ジョンソン首相からロックダウンがアナウンスされました。

外出規制は、感染の爆発的な拡大を避けるために行われています。「自分が感染しないため」という理由だけではありません。症状はでていないものの、もしかしたらすでにウィルスに感染している可能性のある人が外出して、そのことによりさらなる感染が広がることを避けるため、というのも、政府が国を挙げて人々の外出を規制している大きな理由です。

住んでいる地域によっても人々の暮らしに違いがあるとは思いますが、私の周囲で見聞きした、ロックダウン後のイギリスでの暮らしをお伝えしましょう。

1. ソーシャル・ディスタンシングを守りながらの外出は1日1回

ソーシャル・ディスタンシング スーパー内でも、ソーシャル・ディスタンシングをとって買い物をするように注意がなされている。
まず、ジョギングやウォーキング、サイクリングをする人の姿をいつもよりたくさん見かけるようになりました。

1日1回、エクササイズのための外出を認められているため、私はほぼ毎日、子供たちとジョギングをしています。すると、同じように家族連れのランナーや、サイクリストとたくさん行き違います。

日本でもよく聞くようになった「ソーシャル・ディスタンシング」の指示に従い、お互いは2メートル以上近づかないようにしていますが、それでも、歩道のむこうとこちらで「ハロー!」と笑顔で声をかけあいます。

私から積極的に声をかけるようにしているということもありますが、普段、道ですれ違っても、あまり目を合わすことのないイギリス人たちも、今の時期はいつも以上に「人との交流」を求めているような気がします。顔見知りの人に出会えば、2メートルの距離を保ちつつ、お互いの近況を伝え合います。皆、家族以外との会話に飢えているせいか、ほんの1~2分のつもりが、気づくと10分くらい立ち話をしていた、ということも。

また、「ソーシャル・ディスタンシング」はスーパーなどのお店でも、きちんと守られています。ロックダウンが始まって1週間後に、はじめてスーパーに生活必需品を買いに行ったときには、入り口に並ぶ時には、人々は約2メートルの間隔をあけ、買い物中も、レジに並ぶときも、同様のスタンスをとっていました。

(今後、物流システムへの影響などで変化があるかもしれませんが)現在のところ、卵、牛乳、生肉などがやや品薄だった以外、商品は豊富に揃っていて、価格も、とりたてて急高騰しているという印象はありません。ロックダウン前にはパニック買いで、どこのスーパーに行ってもなかったトイレットペーパーも、現在は十分ストックがありました。

2. ボランティアと助け合いの輪が広がる

人々の助け合い、やさしさを、いつも以上に感じているというのも、お伝えしたいことのひとつです。

イギリスでは、メディアやSNSなどでも、ウィルス問題の最前線で働く、NHS(国民医療制度)に携わる人々への感謝を伝え、目にすることがたくさんあります。3月26日を始まりに木曜日には、午後8時にイギリス全土で、NHSで働く人々への感謝を込めた拍手が響き渡ります。各地で起こった鳴り止まない拍手の様子はBBCをはじめとするニュース番組でも紹介されていました。

また、そのNHSに協力するためとして、自宅で自主隔離をしている高齢者などのために買い物や薬を届けることなど、いくつかの項目でボランティアを募ったところ、全国から2日間で約67万人を超える応募があったと言われています。

それ以外でも、全国の各地域では、サポート&ボランティアグループがいくつも立ち上がっています。そういう中では、自主隔離を行なっている高齢者に食べものを届けるサポートをする人が大勢います。また、サポートグループのFacebookで誰かが「うちの90歳になる母の誕生日が今週末なのだけれど、一人で誕生日を過ごさなければならない母に、誰かお祝いのカードを書いてくれませんか」と投稿すると、100人を超える人が「カードを送るから住所を教えて!」と返信したりもしています。あるいは、孤独に暮らしている高齢者のためにと、毎日クイズやジョークを投稿して、オンラインでのコミニュケーションで人々を慰めようとしている友人もいます。

こうしたボランティアグループの投稿には、やさしいメッセージや、助け合いのための行動が、いくつもいくつも連なっていて、まるで「愛のバケツリレー」のようにも感じられます。

イギリスは世界的にみてトップクラスの慈善活動大国というイメージをもっている方も多いと思いますが、こうした状況をみていると、まさにそれを実感します。この国では、ボランティアや助け合いは特別なことではありません。日頃から「自分のできる範囲でできることをやる」という気持ちでボランティアに気軽に参加している人がたくさんいます。なので、今回のような非常時であっても、まずは「自分にも何かできないか」と、それぞれが身近なところから助け合いをしているのが素敵だな、と感じます。

3. ホーム・ベイキングの時間を楽しむ

ロックケーキ 『ハリー・ポッター』にも登場したロック・ケーキは、紅茶によくあうお菓子。
ベイキングも、ロックダウン中のイギリス人たちが楽しんでいることのひとつです。家でベイキングをする人が増えたせいか、一時期、スーパーの棚から小麦粉がすっかり消えてしまいました。今でも品薄になっているスーパーも多いと聞きます。

ベイキングというのは、パンを焼くというだけではありません。紅茶には必ずビスケットやケーキなどのお茶請けを添えるイギリス人ですから、お菓子作りに精を出している人もいます。

学校閉鎖で毎日家に子供たちがいるので、親子で一緒にケーキを作ることで、子供たちがデジタル製品に向かう時間(スクリーン・タイム)を減らすことに役立っていると話してくれた友人もいます。

もちろん我が家でも、ベイキングは子供たちと共に時間を過ごす時のお気に入りのアクティビティです。イギリスの子供たちが幼いときに初めてベイキングをするときに選ばれることの多い「ロック・ケーキ」は、作り方も簡単なうえに、とてもおいしいので、すでに3回作りました。レシピを載せますので、よかったら、ぜひ試してみてください。

ロック・ケーキの作り方(約12個分)
材料
• 小麦粉 … 220g
• グラニュー糖 … 70g
• バター … 120g
• ベイキング・パウダー … 小さじ1
• 干しぶどう … 130g
• ミックス・スパイス(なければシナモンでも) … 小さじ1
• 卵 … 1個
• 牛乳 … 大さじ1

作り方
①小麦粉、グラニュー糖、ベイキング・パウダーをボウルに入れて混ぜる。
②さいの目に切ったバターを①に入れ、そぼろ状になるまで全体を混ぜる。
③②に干しぶどうを混ぜる。
④別の器で混ぜ合わせた卵と牛乳を③に入れ、木べらで混ぜ合わせる。
⑤ベイキング・シートを敷いたベイキング・トレーの上に、スプーン2つを使って、ゴルフ・ボール位の大きさに生地を置く(それぞれがあまりくっつき過ぎないように間隔をあけてください)。
⑥190℃に予熱したオーブンで15~20分焼く。表面がき つね色になったら出来上がり。

また、日本でも人気のジェイミー・オリバーは、テレビのインタビューや、自身のYouTubeチャンネルでも、ロックダウン時に簡単に作れるレシピを積極的に紹介しているシェフの一人です。

彼が息子のバディ(Buddy)くんと紹介している「ソーダ・ブレッド」は、イーストの代わりに重曹で作れるパンの簡単レシピ。アイルランド発祥といわれるパンは、スープなどに合わせてもぴったりです。こちらも、親子で一緒に作ることのできる、実用的でおいしい、おすすめのベイキングメニューです。

*Jamie and Buddy making SodaBread  #stayinside

4. 自然と触れ合う機会が増える

ガーデニング 外出規制のおかげで(?)イギリス人のガーデニング熱はますます高まっている!
外出しての娯楽がなくなった分、自然に触れる機会が増えた人も多いと思います。

街がロックダウン状態になっても、自然はいつもと同じようにそこにあります。いえ、むしろ、自動車の排気ガスが減ったせいか、自然が息を吹き返しているような気がします。タンポポやチューリップの花も咲き始め、ネトルも若葉をぐんぐんと伸ばしています。ジョギング途中では、いつもよりたくさんの野鳥たちの歌声を聞くことができます。

また、もともと園芸好きで知られるイギリス人ですが、ガーデニング、とくに野菜を育てることに熱心になっている人が増えているというのも、インターネット上の記事やSNSでの人々の投稿からも感じます。

私も義母からたくさんの野菜のタネをわけてもらったので、さっそく庭に蒔きました。この野菜たちが収穫を迎えるころには、新型ウィルス問題が落ち着いているよう願いをこめて、ひとつづつ、大切に土に埋めました。
種 義母から送られてきた野菜の種。実りの季節には、きっと私たち人類もやさしさと思いやりを実らせていることを信じて。
イギリス内の植物園も現在は閉園になってしまっていますが、ケンブリッジ大学のボタニックガーデンのYouTubeチャンネルでは「ガーデニング・クラブ」という名前で、ビギナー向けの野菜の育て方を紹介しています。字幕は自動の英語字幕のみですが、画像を見ながらならわかりやすいですし、せっかくなら、これを機会に庭やプランターで野菜を育ててみてはいかがでしょう?
さて、普段、私はこのコラムで、イギリスのガーデニングや自然にまつわるストーリーをご紹介しています。日頃から庭いじりで土を触ったり、ウォーキングで季節ごとに咲く花々や木々の緑を愛でたり、庭に来る鳥たちの歌声を聞いたりと、自然に触れる機会は少なくありません。

でも、今ほど、自然を身近に感じ、その存在に感謝したことはなかったような気がします。そして、それは私だけでなく、家族や友人、オンライン上でつながっているイギリス在住者の多くが同じようなことを感じているようです。
われわれの状況がいかようであれ、春は確実にやってきている。
1日に一度、わずかに許される外出の時間には、家のドアを出ると、まず大きく深呼吸をしてみます。草の匂いを吸い込んで、春の芽吹きを目に焼き付けます。そんな時、今日、生きていること、美しい花を見られることに感謝せずにはいられません。

この美しい自然とどう共生していくのか。今は、あらためてゆっくり考える機会なのかもしれません。

Photo&Text by Mami McGuinness


plofile
マクギネス真美

マクギネス真美

英国在住20年のライフコーチ、ライター。オンラインのコーチングセッションで、人生の転換期にある方が「本当に生きたい人生」を生きることを日本語でサポート。イギリスの暮らし、文化、食べ物などについて書籍、雑誌、ウェブマガジン等への寄稿、ラジオ番組への出演多数。
音声メディアVoicy「英国からの手紙『本当の自分で生きる ~ 明日はもっとやさしく、あたたかく』」にてイギリス情報発信中。

ロンドンで発行の情報誌『ニュースダイジェスト』にてコラム「英国の愛しきギャップを求めて」を連載中。

▶︎ mamimcguinness.com
▶︎ twitter
▶︎ Facebook
▶︎ Instagram
▶︎ note

マクギネス真美さんの
記事一覧はこちら

同じカテゴリの最新記事