ついに公開されましたね、『007 スペクター』。私はもう三回観ました(笑)。“好きこそものの上手なれ”ではありませんが、方々でミーハーだファンだと言い続けていたら、女優の栗山千明さんとプレミア試写会に登壇させてもらえるわ、WOWOWのスペシャル番組の監修をさせてもらえるわ、阪急メンズ東京のクリスマスナイトでDJ TAROさんとボンド・トークショーをさせてもらえるわ……もう、ファン冥利に尽きるここひと月でした。
このSTORIESでは第一回でサム・スミスが歌った主題歌について触れましたが、今回はサウンドトラックに注目してみます(※以下、若干のスポイラー(=ネタバレ)を含みます)。
『スペクター』のサウンドトラックを手掛けたのはトーマス・ニューマンです。これまでに『ショーシャンクの空に』、『アメリカンビューティー』などのサントラを手掛けている有名なアメリカの作曲家で、前作『007 スカイフォール』からの続投です。
『スカイフォール』のサントラで驚いたのは、シーンと音楽との絶妙なシンクロでした。「そんなの映画なら当たり前だろう」という声も聞こえてきそうですが、いえいえ、冒頭のボンドの登場シーンから始まって、登場人物の動きや場面の展開(=飛ぶ、殴る、走る、壊すといった一連のアクション)との精密なシンクロはまさに神業クラスでした。
このスキルはもちろん『スペクター』でも健在。メキシコで撮影されたオープニングシークエンスにおけるボンドの登場シーンから神業モノのシンクロが淡々と炸裂しています。
ただ、私、まんまと騙されましたが、今作はかつてのシリーズでおなじみだった宿敵“スペクター”という最強カードを切りつつも、実際には『スカイフォール』のようにシリアス一辺倒ではなく、むしろかつての荒唐無稽でスットコドッコイだった(※特に三代目ロジャー・ムーアや五代目ピアーズ・ブロスナン後期のような)エンターテインメント作品としてのユーモアが復活しています。
もっと言えば数々の過去作オマージュも含め、言わば音楽でいうところのベスト盤やリミックス盤といった内容なのです(とは言え、ダニエル・クレイグの三作品さえ観ておけば話には十分ついていけますが)。
それもあってか、劇中では007サントラや主題歌ではお約束である、かのイギリスを代表する音楽家のひとりであるジョン・バリーがスコアを手掛けた「ジェームズ・ボンドのテーマ」の主旋律アレンジが、前作よりも“増し増し”です。もっと言えば音楽によるムードの“盛り上げ感”も、ちょっとベタいかなってくらい(笑)前作よりも“増し増し”なのです。
ですので、まずは劇場で純粋にストーリーを楽しんで、気に入ったら、2回目の鑑賞もしくはおそらくは来年リリースされるであろうDVD/Blu-rayでは、このあたりのポイントや過去作との比較をしながら観てみるのもオツだと思います。
もうちょっとだけクレイグ・ボンドのサントラについて触れておきます。
クレイグ・ボンドの出世作となった『007 カジノ・ロワイヤル』と、二作目『007 慰めの報酬』のサントラは。やはり映画界隈の人気作曲家であるデヴィッド・アーノルド(※彼はイギリス人ね)でした。
この方、ブロスナン・ボンド時代のサントラや『ナルニア国物語』などのサントラを手掛けているのですが、私は彼のスコアも結構好きです。特に『カジノ・ロワイヤル』でリファインされた、アーノルドによる「ジェームズ・ボンドのテーマ」(=『ザ・ネーム・イズ・ボンド…ジェームズ・ボンド』)は秀逸な出来栄えで、制作側もそう思っているのか、この曲のみ、クレイグ・ボンドではシリーズ通して使用されています。
とは言え、全ての007シリーズの音楽は、やはりは1965年公開の第一作『007 ドクター・ノオ』に参加した御大ジョン・バリーによる「ジェームズ・ボンドのテーマ」が決定付けたと言っていいでしょう。様々な作曲家が入れ替わり立ち替わり参加しても、全てのマナーはこれなのです。やっぱり、このテーマがかかると、否応なしに盛り上がるもの。いやはや、恐れ入ります。
ちなみに今回の『スペクター』、初期段階の予告編トレイラーでは、本編用のサントラと異なる音楽が使用されていたのですが、何とこの2曲、iTunesでひっそりと単体販売されていました(商魂たくましいぞ制作陣!(笑))。もちろん、私は公開前に購入して、自身のボンド・カー(アストンマーティンではなくBMWですが(笑))で流しながら盛り上がっていました。
でもね、これがまたナメると怪我するクオリティなのです。特に『スペクター』の大いなる“下敷き”となっていると言っても過言ではない『女王陛下の007』のサントラスコアが大胆に引用されているあたりなど、実はきっちりと『スペクター』のプロットを暗示していたわけですから。つくづくニクいぜ(笑)。
James Bond Band
「Music from the Spectre Trailer (Cover Version) – Single」
https://itun.es/jp/eWCy8
Vivo Di Diamanti
「Music from the “Spectre” James Bond Full Length Movie Trailer (Copy Version)-Single」
https://itun.es/jp/YOsb9
……と、言うわけで、これから『スペクター』を観る方もすでにご覧になった方も、もし未見でしたら『女王陛下』は観て頂くと『スペクター』の面白さが倍増します! そして、仮にクレイグ・ボンドによるシリーズが今作で最終回でも比較検討の対象となり、逆に次作があったらあったでその展開を予測する上での材料となる作品だと思います。
現在、007シリーズのサントラは作品毎に全てCDの購入が可能です。そしてベスト盤も様々リリースされています。とりあえず、という向きには『ベスト・オブ・ボンド(50周年記念盤)』があればまずは事足りるはず。「ジェームズ・ボンドのテーマ」を聴けば、その瞬間から、あなたもボンド気分に!
そんな問答無用の記名性と説得力を持つ007シリーズの音楽、映画本編のストーリーやファッション同様、ぜひともチェックしてみて下さい。
このSTORIESでは第一回でサム・スミスが歌った主題歌について触れましたが、今回はサウンドトラックに注目してみます(※以下、若干のスポイラー(=ネタバレ)を含みます)。
『スペクター』のサウンドトラックを手掛けたのはトーマス・ニューマンです。これまでに『ショーシャンクの空に』、『アメリカンビューティー』などのサントラを手掛けている有名なアメリカの作曲家で、前作『007 スカイフォール』からの続投です。
『スカイフォール』のサントラで驚いたのは、シーンと音楽との絶妙なシンクロでした。「そんなの映画なら当たり前だろう」という声も聞こえてきそうですが、いえいえ、冒頭のボンドの登場シーンから始まって、登場人物の動きや場面の展開(=飛ぶ、殴る、走る、壊すといった一連のアクション)との精密なシンクロはまさに神業クラスでした。
このスキルはもちろん『スペクター』でも健在。メキシコで撮影されたオープニングシークエンスにおけるボンドの登場シーンから神業モノのシンクロが淡々と炸裂しています。
ただ、私、まんまと騙されましたが、今作はかつてのシリーズでおなじみだった宿敵“スペクター”という最強カードを切りつつも、実際には『スカイフォール』のようにシリアス一辺倒ではなく、むしろかつての荒唐無稽でスットコドッコイだった(※特に三代目ロジャー・ムーアや五代目ピアーズ・ブロスナン後期のような)エンターテインメント作品としてのユーモアが復活しています。
もっと言えば数々の過去作オマージュも含め、言わば音楽でいうところのベスト盤やリミックス盤といった内容なのです(とは言え、ダニエル・クレイグの三作品さえ観ておけば話には十分ついていけますが)。
それもあってか、劇中では007サントラや主題歌ではお約束である、かのイギリスを代表する音楽家のひとりであるジョン・バリーがスコアを手掛けた「ジェームズ・ボンドのテーマ」の主旋律アレンジが、前作よりも“増し増し”です。もっと言えば音楽によるムードの“盛り上げ感”も、ちょっとベタいかなってくらい(笑)前作よりも“増し増し”なのです。
ですので、まずは劇場で純粋にストーリーを楽しんで、気に入ったら、2回目の鑑賞もしくはおそらくは来年リリースされるであろうDVD/Blu-rayでは、このあたりのポイントや過去作との比較をしながら観てみるのもオツだと思います。
クレイグ・ボンドの出世作となった『007 カジノ・ロワイヤル』と、二作目『007 慰めの報酬』のサントラは。やはり映画界隈の人気作曲家であるデヴィッド・アーノルド(※彼はイギリス人ね)でした。
この方、ブロスナン・ボンド時代のサントラや『ナルニア国物語』などのサントラを手掛けているのですが、私は彼のスコアも結構好きです。特に『カジノ・ロワイヤル』でリファインされた、アーノルドによる「ジェームズ・ボンドのテーマ」(=『ザ・ネーム・イズ・ボンド…ジェームズ・ボンド』)は秀逸な出来栄えで、制作側もそう思っているのか、この曲のみ、クレイグ・ボンドではシリーズ通して使用されています。
ちなみに今回の『スペクター』、初期段階の予告編トレイラーでは、本編用のサントラと異なる音楽が使用されていたのですが、何とこの2曲、iTunesでひっそりと単体販売されていました(商魂たくましいぞ制作陣!(笑))。もちろん、私は公開前に購入して、自身のボンド・カー(アストンマーティンではなくBMWですが(笑))で流しながら盛り上がっていました。
でもね、これがまたナメると怪我するクオリティなのです。特に『スペクター』の大いなる“下敷き”となっていると言っても過言ではない『女王陛下の007』のサントラスコアが大胆に引用されているあたりなど、実はきっちりと『スペクター』のプロットを暗示していたわけですから。つくづくニクいぜ(笑)。
James Bond Band
「Music from the Spectre Trailer (Cover Version) – Single」
https://itun.es/jp/eWCy8
Vivo Di Diamanti
「Music from the “Spectre” James Bond Full Length Movie Trailer (Copy Version)-Single」
https://itun.es/jp/YOsb9
……と、言うわけで、これから『スペクター』を観る方もすでにご覧になった方も、もし未見でしたら『女王陛下』は観て頂くと『スペクター』の面白さが倍増します! そして、仮にクレイグ・ボンドによるシリーズが今作で最終回でも比較検討の対象となり、逆に次作があったらあったでその展開を予測する上での材料となる作品だと思います。
現在、007シリーズのサントラは作品毎に全てCDの購入が可能です。そしてベスト盤も様々リリースされています。とりあえず、という向きには『ベスト・オブ・ボンド(50周年記念盤)』があればまずは事足りるはず。「ジェームズ・ボンドのテーマ」を聴けば、その瞬間から、あなたもボンド気分に!
そんな問答無用の記名性と説得力を持つ007シリーズの音楽、映画本編のストーリーやファッション同様、ぜひともチェックしてみて下さい。
内田 正樹
エディター、ライター、ディレクター。雑誌SWITCH編集長を経てフリーランスに。音楽をはじめファッション、映画、演劇ほか様々な分野におけるインタビュー、オフィシャルライティングや、パンフレットや宣伝制作の編集/テキスト/コピーライティングなどに携わる。不定期でテレビ/ラジオ出演や、イベント/web番組のMCも務めている。近年の主な執筆媒体は音楽ナタリー、Yahoo!ニュース特集、共同通信社(文化欄)、SWITCH、サンデー毎日、encoreほか。編著書に『東京事変 チャンネルガイド』、『椎名林檎 音楽家のカルテ』がある。