「くまのパディントン」は、英国人作家のマイケル・ボンドによって生み出されました。その発端は、彼がクリスマス・イブに奥様へのプレゼントのために購入した一匹のクマのぬいぐるみだったそうです。時は1958年。マイケルが第二次世界大戦で英空軍と陸軍に従事した後、BBCでテレビカメラマンとして働いている時のことでした。
一作目の好評を受けて、「くまのパディントン」はシリーズ化され、いまや翻訳版は世界40カ国語以上で出版、総売上部数3,500万部以上を誇るまでの大ヒット作品となりました。そして1997年、児童文学における功績が認められ、マイケルは大英帝国勲章(OBE)を受賞しました。
近代の英国と共に歩み、それでいてマイペースな活動を続けてきた彼は、いまもこの愛すべき主人公の名前の由来であるロンドンのパディントン駅の近くで暮らしているそうです。
そんな映画「パディントン」、もう、ここまでの背景だけでBRITISH MADEをご覧の皆様にリコメンすべき作品であることはご理解いただけた気もしちゃいますが(笑)、BRITISH MADEのSTORIES ライター視点から、その魅力を駆け足で紹介したいと思います。
1.実力派揃いのキャスト
実はパディントン、生まれは暗黒の地(と劇中では言われています(笑))ペルーのジャングルで、とある事情から英国紳士のマナーが身についているという設定なのです。古き良き英国紳士のたたずまいとチャーミングなボケが同居したベンのパディントン、なかなか味わい深い仕上がりに着地しています。
そしてパディントンの名付け親であり、彼が居候するブラウン家の夫妻には、ヒュー・ボネヴィル(「ダウントン・アビー」他)とサリー・ホーキンス(「ブルージャスミン」他)が。さらに一家の面倒を見る親戚のバードさんには「ハリー・ポッター」シリーズのジュリー・ウォルターズ、ご近所のカリーさんにはピーター・カパルティディと、実力派の英国人俳優たちが名を連ねています。
そのなかで異彩を放つ、映画版オリジナルの悪役キャラクターであるミリセントには何とニコール・キッドマンが!! 正直、よくこの役を引き受けたなあと思ったけど(笑)、パディントンの宿敵をなかなかどうしてノリノリで演じる奮闘ぶりは見ものです。
2.カラフルなロンドンの街並み
それにしてもバッキンガム宮殿を守る衛兵の帽子にあんな秘密があったとは……(※詳しくは本編で)。ちなみにあのおなじみの帽子、クマの毛皮製だという事実、パディントンは知っていたのだろうか……??
3.ファッションもカラフル
パディントンと言えばおなじみの赤い帽子とダッフルコート。このコート、原作ではバークリッジで買ってもらったものでしたが、今作ではブラウン家のおさがりです。これにスーツケースを加えた三種の神器をはじめ、登場人物たちのファッションも前述のシーンの街並み同様にカラフルです。これにはちゃんと理由があって、それぞれのキャラクターの性格が一目で分かる仕組みになっているのですね。このキャッチーなコーディネートは手がけたのは衣装のリンディ・ヘミング。彼女はバットマン「ダークナイト」三部作や「007 カジノ・ロワイヤル」を手がけたアカデミー賞受賞デザイナーです。その絶妙なセンスで、リアルとファンタジーの狭間を絶妙に突いたスタイリングを実現させています。
また、ブラウン家の室内や、中盤で登場する骨董品屋の、遊び心に溢れた小物やインテリアにもぜひ注目してください。カフェのポットひとつからエキストラのちょっとしたアウターまで、細部にまで行き届いたカラフルなコーディネートはチェックの甲斐がありますよ。
4.秀逸なストーリー運び
左:ニコール・キッドマン 右:ポール・キング
監督・脚本はポール・キング。日本ではあまり知られていませんが、本作を含め、英国アカデミー賞に二度ノミネートされている実力派です。プロデューサーのデヴィッド・ハイマンは「ハリー・ポッター」シリーズや「ゼロ・グラビティ」の有名どころですね。彼らの“絶対飽きさせない”と言わんばかりの手腕が、広く知られた古典をフレッシュな物語に生まれ変わらせているのです。
サウンドトラックにジェームズ・ブラウンやライオネル・リッチーの往年の名曲を投げ込みながら、「ハリー・ポッター」や「007」、「M:I」シリーズのパロディを挟みつつリズミカルなコメディを展開していきます。しかしその奥には、パディントンの心の移り変わりを通じて多くの人が共感する“自分の居場所を探す”姿勢と“自分らしくあろうとする”生き方が描き出されています。
さらにパディントンがやってきたことで、いささか停滞気味だったブラウン一家の絆が徐々に深まっていきます。つまりこの物語には“家族の再生”という横軸が設けられているのです。家族でもカップルでも一人でも楽しめる多面的な魅力、辛口で知られる映画批評サイト“ロッテン・トマト”で《98%FRESH》という驚異的な賞賛が贈られたのも頷けるというもの。
すでにイギリスでは大ヒットして、続編の製作も決定済み。ともかく、映画として“ちゃんと面白い”のです。
5.吹き替えも名優揃い。
パディントン役には松坂桃李。爽やかさと実直さが前面に表れた吹き替えです。私は以前、雑誌のファッション撮影で、ちょうど人気が出始めた頃の松坂君に会ったことがあるのですが、この吹き替え版を見ていたら、朗らかで真っ直ぐで奥ゆかしかった彼がそのまま思い出されました。
さらにブラウン夫妻には古田新太(※すっごく真面目に演じてます(笑))と斉藤由貴。ミリセントには木村佳乃(「相棒」シリーズの片山雛子を彷彿とさせる迫力!)、ブラウン家の長女ジュディにはガーリーな“カワイイ”カルチャー界隈で人気の三戸なつめと、こちらも英国勢に負けず劣らずの実力派が集結(……つうか、このキャストで舞台が一本作れるぞ)。ご家族での鑑賞はもちろん、英語版との比較も楽しいかもしれません。
運命の出会いを果たしたパディントンとブラウン一家は、様々な騒動の果てにどんなラストを迎えるのか? そしてパディントンは自分の居場所を見つけることができるのでしょうか?
イギリスの街並みを散歩するような足取りで、ぜひ劇場へお出かけください!
『パディントン』
2016年1月15日(金) 全国ロードショー
http://paddington-movie.jp/
(C)2014 STUDIOCANAL S.A. TF1 FILMS PRODUCTION S.A.S Paddington Bear(TM). Paddington(TM) AND PB(TM) are trademarks of Paddington and Company Limited
内田 正樹
エディター、ライター、ディレクター。雑誌SWITCH編集長を経てフリーランスに。音楽をはじめファッション、映画、演劇ほか様々な分野におけるインタビュー、オフィシャルライティングや、パンフレットや宣伝制作の編集/テキスト/コピーライティングなどに携わる。不定期でテレビ/ラジオ出演や、イベント/web番組のMCも務めている。近年の主な執筆媒体は音楽ナタリー、Yahoo!ニュース特集、共同通信社(文化欄)、SWITCH、サンデー毎日、encoreほか。編著書に『東京事変 チャンネルガイド』、『椎名林檎 音楽家のカルテ』がある。