アメリカでは次期大統領選の候補者がヒラリーさんと(まさかの)トランプ氏に絞られ、報道も連日ヒートアップしていますが、こちらも予断を許さないのが次期ボンドの候補者です(と、言い切ります(笑))。
状況を整理しましょう。最新作『007スペクター』のラストで(※以下スポイラーあり)、我らがジェームズ・ボンドはマドレーヌ・スワンを助手席に乗せてアストンマーチンDB5で華麗に走り去ってしまいました。追って追われる影の暗殺者と復讐の螺旋から降りたボンドは最後に愛を選んだ、という結末でした。
周知の通り、6代目ボンド務めたダニエル・クレイグは今作が最後の登板と噂されてきました。事実、彼自身がそれを匂わせるような発言も(二転三転させながらも)いくつかのインタビューで見受けられました。で、実は『007』シリーズ、今回のタイミングではよりにもよって主役問題だけではなく、作品自体の契約問題も潮目を迎えています。
と、いうのも、そもそも本シリーズはプロデューサーのバーバラ・ブロッコリ(※初代プロデューサーの娘)とマイケル・G・ウィルソン(※バーバラとは父親違いの兄妹)を中心とした、言わばブロッコリファミリーが管理していて、原則的には監督や脚本、主役を含めるキャスティングなど諸々の全権をMGMと共に掌握していて、作品ごとにメジャー・スタジオとパートナー契約を交わすことで資本が確保され、世界の劇場に流通しているのです。
この契約、クレイグ作品ではソニーと交わしていたのですが、その契約が『007スペクター』で満了を迎えたのです。なので、現在MGMとブロッコリは、水面下でソニーを含む、ワーナーやフォックス、パラマウントetc.の名だたるメジャー・スタジオとの交渉を続けていると言われています。
つまり、クレイグがボンドを続投しない限り、主役もパートナー契約もリセット、つまり振り出しから、新たなボンドシリーズの構築が始まることになるのです。
そもそも、キックオフ時には「金髪ボンドなんてボンドじゃない」というアレルギーからクレイグをボンドと認めないというアンチwebサイトまで生まれた2006年の『007 カジノ・ロワイヤル』は、原作者イアン・フレミングの遺した12作の長編(※短編は別にあり)のひとつである同名小説をベースに、ボンドがボンドになっていく、言わばエピソードゼロというか前日譚的なストーリーでした。
5代目を務めていたピアーズ・ブロスナンはボンド役にノリノリでしたが、脚本が求めていたのはあくまでも“若い”ボンドだったため、涙をのんで降板の要請を受け入れたのでした。
で、いまここ。本稿執筆時点でいま何が起きているかというと、実はクレイグ、まだはっきりとは降板を明言していないのです(※ただし直近の2作で監督を務めたサム・メンデスはすでに自身の降板を示唆しています)。
蓋を開いてみれば『007 カジノ・ロワイヤル』のクレイグ・ボンドは世界から大絶賛!
次の『慰めの報酬』(2008年)のシブ目の脚本でやや評価こそ落としたものの、2012年の『007 スカイフォール』が世界中でビッグヒットを記録。ロンドン・オリンピックの開会式では女王陛下をエスコートし “女王陛下の007”(※シリーズ6作目のタイトル)を体現するなど、クレイグはジェームズ・ボンドというクラシックなキャラクターの存在感を、あらためて世界へと知らしめたのです。
https://www.youtube.com/watch?v=1AS-dCdYZbo&feature=youtu.be
まさに“勝てば官軍”という言葉の通り、実はクレイグ、『007スカイフォール』と『007スペクター』では共同プロデューサー契約も交わしていて、製作陣でもあったのです。つまり、もう誰よりもエラいもんだから、ブロッコリたちもその去就はクレイグに任せる他ない状況なのであります。
だから『007スペクター』のラストは、仮にクレイグ・ボンドが完結を迎えた場合は有終の美として、また、どっこい逆に戻ってきた場合、それはそれで大丈夫なように機能する結末となったのです。
もちろん、ブロッコリたち製作陣はクレイグにあと1作でもやってほしいのはやまやま。ただ、ボンド役は破格のギャラ(噂ではクレイグで100億円前後とも!!)と引き換えに、長期に渡る撮影期間の拘束、体力の勝負、そして役者としてのイメージが固定されてしまうなど、それなりにリスクも孕んでいるため、俳優側もヒットしたから全てが万々歳、というものでもなかったりするのですね。
ちなみに、製作陣とギャラでこじれた初代ボンドのショーン・コネリーは一度自ら降板して、復帰して、また降りて、しまいにゃブロッコリサイドに対抗した『007シリーズ』を名乗らないボンド作品に出演したりと、一時かなりややこしいことになっていました(笑)。
さあ、そんな中で現在白羽の立っている次期ボンド候補ですが、いまのところ有力とされているのがトム・ヒドルストン。ウェストミンスター出身の35歳です。
メジャーな役としては『マイティ・ソー』のロキがありますが、日本ではそこまで知られた俳優ではないと言えます。
他にはジェイミー・ベル、エイダン・ターナー、ヘンリー・カヴィル、トム・ハーディあたりの名が挙がっていますが、思えばクレイグも当時そこまで知られた俳優ではなかったため、ここに名が挙がった以外の、意外な俳優を連れてくる可能性もあります。
また、先に監督候補としてアカデミー賞受賞経験を持つスザンネ・ビアの名前が挙がっており、彼女がヒドルストンと交流があるため、ヒドルストン説に拍車がかかるという一幕もありました。ちなみに仮にビアが監督になると、シリーズ初の女性監督の誕生となります。
ともあれ、ブロッコリがかなり苦悩の日々を送っていることだけは間違いない模様。果たしてクレイグを超えるボンドが誕生するのか? それとも奇跡のウエルカムバック(おかえりなさい!)があるのか? 007マニアの一人として、今後もその動向に注目していきたいと思います。
では最後にBRITISH MADEでもチェックできるボンド・ブランドをご紹介します。もちろん、我らがチャーチです。
具体的なモデルを挙げておきます。ブロスナン・ボンドでは『007 ゴールデン・アイ』(1995年)でディプロマットとチェットウィンド。『007 ワールド・イズ・ノット・イナフ』(1999年)でプレスリーが使われ、クレイグ・ボンドでは『慰めの報酬』でフィリップとライダーⅢが使われています。
価格的にも(アストンマーチンに比べたら(笑))手を出し易いし、もちろん入手した後の汎用性も高いブランドです。このBRITISH MADEから購入可能なモデルも含まれていますので、映画をチェックして、ボンドよろしく、一足いかがでしょう?
残念ながら後にクレイグ・ボンドでのメインシューズはクロケット&ジョーンズとなりました。しかも靴底は全てダイナイトが貼られたモデルです。激しいアクションに耐えうるという、肉体派クレイグ・ボンドならではと言えるリアリティの追求からだったのでしょうか。
また、意外なところでは物語のオチに靴が絡んだボンド作品もありました。ティモシー・ダルトンが演じた4代目ボンドの『リビング・デイ・ライツ』(1987年)のラスト近く。しかも靴は何とドクター・マーチンです(笑)。まあ気が向いたらチェックしてみて下さい。
ちなみに原作のボンドは逆にブローグ嫌い。非常時に向かないとして、ひもを結ぶしぐさで仲間に暗号(!!)を発する場面以外では、ブローグはあまりお好みではなかった模様。なので、コネリー・ボンドの『007 ゴールドフィンガー』(1964年)ではサイドエラスティック(横がゴム)のシューズが採用されていましたね。
あ、ちなみに個人的には、クレイグでもう一作か、(スーパーマンとナポレオン・ソロを演じちゃったから無理だとは思うが)ヘンリー・カヴィルに一票です(笑)。皆さんはいかがでしょうか?
というわけで、次期ボンド選、また機会があればこのBM RECORDSでも続報をお伝えしたいと思います。ではまた!
状況を整理しましょう。最新作『007スペクター』のラストで(※以下スポイラーあり)、我らがジェームズ・ボンドはマドレーヌ・スワンを助手席に乗せてアストンマーチンDB5で華麗に走り去ってしまいました。追って追われる影の暗殺者と復讐の螺旋から降りたボンドは最後に愛を選んだ、という結末でした。
つまり、クレイグがボンドを続投しない限り、主役もパートナー契約もリセット、つまり振り出しから、新たなボンドシリーズの構築が始まることになるのです。
そもそも、キックオフ時には「金髪ボンドなんてボンドじゃない」というアレルギーからクレイグをボンドと認めないというアンチwebサイトまで生まれた2006年の『007 カジノ・ロワイヤル』は、原作者イアン・フレミングの遺した12作の長編(※短編は別にあり)のひとつである同名小説をベースに、ボンドがボンドになっていく、言わばエピソードゼロというか前日譚的なストーリーでした。
で、いまここ。本稿執筆時点でいま何が起きているかというと、実はクレイグ、まだはっきりとは降板を明言していないのです(※ただし直近の2作で監督を務めたサム・メンデスはすでに自身の降板を示唆しています)。
蓋を開いてみれば『007 カジノ・ロワイヤル』のクレイグ・ボンドは世界から大絶賛!
次の『慰めの報酬』(2008年)のシブ目の脚本でやや評価こそ落としたものの、2012年の『007 スカイフォール』が世界中でビッグヒットを記録。ロンドン・オリンピックの開会式では女王陛下をエスコートし “女王陛下の007”(※シリーズ6作目のタイトル)を体現するなど、クレイグはジェームズ・ボンドというクラシックなキャラクターの存在感を、あらためて世界へと知らしめたのです。
https://www.youtube.com/watch?v=1AS-dCdYZbo&feature=youtu.be
まさに“勝てば官軍”という言葉の通り、実はクレイグ、『007スカイフォール』と『007スペクター』では共同プロデューサー契約も交わしていて、製作陣でもあったのです。つまり、もう誰よりもエラいもんだから、ブロッコリたちもその去就はクレイグに任せる他ない状況なのであります。
だから『007スペクター』のラストは、仮にクレイグ・ボンドが完結を迎えた場合は有終の美として、また、どっこい逆に戻ってきた場合、それはそれで大丈夫なように機能する結末となったのです。
もちろん、ブロッコリたち製作陣はクレイグにあと1作でもやってほしいのはやまやま。ただ、ボンド役は破格のギャラ(噂ではクレイグで100億円前後とも!!)と引き換えに、長期に渡る撮影期間の拘束、体力の勝負、そして役者としてのイメージが固定されてしまうなど、それなりにリスクも孕んでいるため、俳優側もヒットしたから全てが万々歳、というものでもなかったりするのですね。
ちなみに、製作陣とギャラでこじれた初代ボンドのショーン・コネリーは一度自ら降板して、復帰して、また降りて、しまいにゃブロッコリサイドに対抗した『007シリーズ』を名乗らないボンド作品に出演したりと、一時かなりややこしいことになっていました(笑)。
また、先に監督候補としてアカデミー賞受賞経験を持つスザンネ・ビアの名前が挙がっており、彼女がヒドルストンと交流があるため、ヒドルストン説に拍車がかかるという一幕もありました。ちなみに仮にビアが監督になると、シリーズ初の女性監督の誕生となります。
ともあれ、ブロッコリがかなり苦悩の日々を送っていることだけは間違いない模様。果たしてクレイグを超えるボンドが誕生するのか? それとも奇跡のウエルカムバック(おかえりなさい!)があるのか? 007マニアの一人として、今後もその動向に注目していきたいと思います。
では最後にBRITISH MADEでもチェックできるボンド・ブランドをご紹介します。もちろん、我らがチャーチです。
チャーチのディプロマット(右)とチェットウインド(左)
チャーチのライダーⅢ
スタイリッシュな着こなしで知られるボンドですが、彼のファッションには幾つかのルールがあります。代表的なものでは“シャツの素材はシーアイランドコットン”、“ダブルのスーツは(ほぼ)着ない”、“靴は原則的にブローグ(ひも靴)。コインローファーは履かない”などです。そのルールにのっとって、チャーチは5代目のブロスナンと、6代目のクレイグの足元を飾りました。 具体的なモデルを挙げておきます。ブロスナン・ボンドでは『007 ゴールデン・アイ』(1995年)でディプロマットとチェットウィンド。『007 ワールド・イズ・ノット・イナフ』(1999年)でプレスリーが使われ、クレイグ・ボンドでは『慰めの報酬』でフィリップとライダーⅢが使われています。
残念ながら後にクレイグ・ボンドでのメインシューズはクロケット&ジョーンズとなりました。しかも靴底は全てダイナイトが貼られたモデルです。激しいアクションに耐えうるという、肉体派クレイグ・ボンドならではと言えるリアリティの追求からだったのでしょうか。
また、意外なところでは物語のオチに靴が絡んだボンド作品もありました。ティモシー・ダルトンが演じた4代目ボンドの『リビング・デイ・ライツ』(1987年)のラスト近く。しかも靴は何とドクター・マーチンです(笑)。まあ気が向いたらチェックしてみて下さい。
内田 正樹
エディター、ライター、ディレクター。雑誌SWITCH編集長を経てフリーランスに。音楽をはじめファッション、映画、演劇ほか様々な分野におけるインタビュー、オフィシャルライティングや、パンフレットや宣伝制作の編集/テキスト/コピーライティングなどに携わる。不定期でテレビ/ラジオ出演や、イベント/web番組のMCも務めている。近年の主な執筆媒体は音楽ナタリー、Yahoo!ニュース特集、共同通信社(文化欄)、SWITCH、サンデー毎日、encoreほか。編著書に『東京事変 チャンネルガイド』、『椎名林檎 音楽家のカルテ』がある。