ロンドンから届いた黒い衝撃 | BRITISH MADE

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2016.09.08

L.A.サラーミが放つ2016年のポスト・モダン・ブルース

タワーレコード渋谷店の洋楽売り場で見つけたものを“オススメです!”と自分の手柄のように言うのはやや気が引けるのですが、そんなことを言っている場合ではないので書きますね。

今日ご紹介するのはL.A.サラーミ(L.A.SALAMI)というアーティストです。つい先日、デビューアルバム『ダンシング・ウィズ・バッド・グラマー ザ・ディレクターカット』(原題:DANCING WITH BAD GRAMMAR)がリリースされたばかりの新人です。
20160908_LASALAMI
私もあまり情報がないので、以下はライナーノーツや宣伝リリースをまとめたものでお送りします。

L.A.サラーミはナイジェリア移民をルーツに持つ、ロンドン生まれのシンガー・ソングライターです。バーバリーの経営陣兼デザイナーであるクリストファー・ベイリーの目に留まり、音楽イベント“バーバリー・アコースティック”へ出演。そしてデビュー前からリアン・ラ・ハヴァスのツアーでサポート・アクトを務めたことをきっかけに、キティー・デイジー&ルイスやデヴィッド・リンチが所属するサンデー・ベストと契約しました。

そしてジェイク・バグやフローレンス・アンド・ザ・マシーン仕事で知られるマット・イングラムのプロデュースのもと、このデビューアルバムを8月26日に全世界同時リリースした、期待の新人です。

……と、ここまでが宣伝文句の要約です。さて、肝心のアルバムを聴いてみましょう。
この作品でL.A.サラーミが歌っているのは、イギリスに生きる日常への憂い、苛立ち、政治や社会に対する抵抗であり未来への情熱です。ライナーノーツによると、彼は生後二ヶ月で里子に出され、生みの親と里親との間を行き来していたという複雑な幼少期を過ごしていたそうです。そんな彼を音楽へと誘ったのは、ラジオから流れてきたボブ・ディランだったそうです。なるほど繊細な歌声、詩情溢れる歌、スポークンワーズのようなボーカルスタイルの合間に聴かせる意外な美メロをアコースティックギターでフォーキーに奏でているあたり、たしかにディランを感じさせます。しかし、それだけではありません。時折見せるパンキッシュなエレクトリックサウンドのキレ味がまた素晴らしいのです。

たとえばやや古いところではロバート・クレイ、そしてベン・ハーパー、ホワイト・ストライプスと、これまでも“ポスト・モダン・ブルース”といった形容でブルースミュージックのスタイルとスピリットを画期的に更新してきた、若き(登場時ね)新星たちがいました。私はこのL.A.サラーミが2016年のそれにあたる存在だとすぐに納得させられました。
ブルースの節回し、ソウルフルなメロディと歌声、日常に即した歌詞、そしてこうした要素をこれまでない、もしくは、妙を感じさせるアイデアが、彼の楽曲にはたしかにあります。
L.A.サラーミの斬新さは、パンクやグラム、カントリー&ウエスタンなどの要素を感じさせる歌メロとアレンジにあると思います。

ちょっと前に、このコラムで今年のグラミー受賞アーティストについて書きましたが、そこでも紹介していたエド・シーラン、ジェイク・バグ、ジェイムス・ベイに次ぐ、UK期待のシンガー・ソングライターと言っていいでしょう。

ここでアルバムに収録されている「The City Nowadays」のビデオを紹介します。
歌詞の中にはチョムスキーやジェレミー・コービン(英労働党党首)の名前を交えながら“ロックンロールは、ヒップホップはどうなってるんだ?”と訴え、“ファーストフードのような映画や政治って何なんだ?”と問いかけます。前述のディランやトム・ウェイツが好きな人なら、かなり気に入るアーティストではないでしょうか。

音楽を聴いていると面白いなあと思うことのひとつは、時折こうして既存のセオリーを再構築したり破壊することで、そのジャンルの歴史を新たに更新させてくれるアーティストが登場することです。

で、ちなみにここからはUKからは逸れますが、オマケとして。

今年のフジロックで観て一発でファンになったコン・ブリオ(CON BRIO)という、サンフランシスコを拠点に活動中の白人黒人混合7人組バンドがいます。バンド名はイタリア語で「元気に、生気に満ちて」を指す音楽用語で、その名の通り、サウンドはすこぶるエネルギッシュです。
20160908_CONBRIO
うねりの効いたギター。硬軟重軽と変幻自在のグルーヴ。メロウなキーボード。ソウル/ファンク風味を担う歌心のあるサックスとトランペット。そして何より23歳のボーカル、ジーク・マッカーターのファンキーでソウルフルな歌声が良いんです。ライブでは観客を上手に煽り、間奏ではキレのいいダンスを見せつけ、最後はバク宙まで切って客席を大いに盛り上げた。久々に良質なパーティーバンドに出会ったという気分でした。
ジェームズ・ブラウン、マイケル・ジャクソン、カーティス・メイフィールド、そして同じカリフォルニアの黒人白人混合バンドだったスライ&ザ・ファミリーストーンあたりが好きな人ならまず気に入ることうけあい。さらに言えばキャッチーでポップなサビや、ファンクやロック特有のブレイクなど、幅の広いリスナーに響そうな魅力とスケール感を持つこの期待の新星は、ファンクやR&Bを更新させる新たな存在だと思います。デビューアルバム『パラダイス』が発売中。11月には単独の来日公演が東京と大阪で予定されています。
あと、めずらしく日本勢からも。自分がオフィシャルライターやインタビュアーを手掛けたという身びいきもありつつ(笑)ですが、実力はお世辞抜きの太鼓判、GLIM SPANKYです。
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この男女二人から成るロックユニットは、60〜70’Sのロックのエッセンスを気負いなく取り込むことで、新しい日本語ロックを形成しています。人気コミック“ONE PIECE”の映画版主題歌にも抜擢され、現在ブレイク真っ最中の存在です。彼らが面白いのは、決して後追いの懐古主義ではなく、ボーカルの松尾レミが幼少の頃からヒッピーのような父親から前述のレガシー的なロックを仕込まれてきたという天然培養だという点なのです。そして彼らは日本語のまま自分たちのロックを世界で鳴らすという夢を持っています。セカンドアルバム『NEXT ONE』が発売中。ご存じなかった方は、ぜひ聴いてみて下さい。

いかがでしたか? ジャンルを更新させる期待の新星たち、気になるアーティストがいたらどんどんチェックしてみて下さいね。それでは!

Text by Uchida Masaki

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内田 正樹

内田 正樹

エディター、ライター、ディレクター。雑誌SWITCH編集長を経てフリーランスに。音楽をはじめファッション、映画、演劇ほか様々な分野におけるインタビュー、オフィシャルライティングや、パンフレットや宣伝制作の編集/テキスト/コピーライティングなどに携わる。不定期でテレビ/ラジオ出演や、イベント/web番組のMCも務めている。近年の主な執筆媒体は音楽ナタリー、Yahoo!ニュース特集、共同通信社(文化欄)、SWITCH、サンデー毎日、encoreほか。編著書に『東京事変 チャンネルガイド』、『椎名林檎 音楽家のカルテ』がある。

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