L.A.サラーミが放つ2016年のポスト・モダン・ブルース
タワーレコード渋谷店の洋楽売り場で見つけたものを“オススメです!”と自分の手柄のように言うのはやや気が引けるのですが、そんなことを言っている場合ではないので書きますね。今日ご紹介するのはL.A.サラーミ(L.A.SALAMI)というアーティストです。つい先日、デビューアルバム『ダンシング・ウィズ・バッド・グラマー ザ・ディレクターカット』(原題:DANCING WITH BAD GRAMMAR)がリリースされたばかりの新人です。
L.A.サラーミはナイジェリア移民をルーツに持つ、ロンドン生まれのシンガー・ソングライターです。バーバリーの経営陣兼デザイナーであるクリストファー・ベイリーの目に留まり、音楽イベント“バーバリー・アコースティック”へ出演。そしてデビュー前からリアン・ラ・ハヴァスのツアーでサポート・アクトを務めたことをきっかけに、キティー・デイジー&ルイスやデヴィッド・リンチが所属するサンデー・ベストと契約しました。
そしてジェイク・バグやフローレンス・アンド・ザ・マシーン仕事で知られるマット・イングラムのプロデュースのもと、このデビューアルバムを8月26日に全世界同時リリースした、期待の新人です。
……と、ここまでが宣伝文句の要約です。さて、肝心のアルバムを聴いてみましょう。
この作品でL.A.サラーミが歌っているのは、イギリスに生きる日常への憂い、苛立ち、政治や社会に対する抵抗であり未来への情熱です。ライナーノーツによると、彼は生後二ヶ月で里子に出され、生みの親と里親との間を行き来していたという複雑な幼少期を過ごしていたそうです。そんな彼を音楽へと誘ったのは、ラジオから流れてきたボブ・ディランだったそうです。なるほど繊細な歌声、詩情溢れる歌、スポークンワーズのようなボーカルスタイルの合間に聴かせる意外な美メロをアコースティックギターでフォーキーに奏でているあたり、たしかにディランを感じさせます。しかし、それだけではありません。時折見せるパンキッシュなエレクトリックサウンドのキレ味がまた素晴らしいのです。
たとえばやや古いところではロバート・クレイ、そしてベン・ハーパー、ホワイト・ストライプスと、これまでも“ポスト・モダン・ブルース”といった形容でブルースミュージックのスタイルとスピリットを画期的に更新してきた、若き(登場時ね)新星たちがいました。私はこのL.A.サラーミが2016年のそれにあたる存在だとすぐに納得させられました。
L.A.サラーミの斬新さは、パンクやグラム、カントリー&ウエスタンなどの要素を感じさせる歌メロとアレンジにあると思います。
ちょっと前に、このコラムで今年のグラミー受賞アーティストについて書きましたが、そこでも紹介していたエド・シーラン、ジェイク・バグ、ジェイムス・ベイに次ぐ、UK期待のシンガー・ソングライターと言っていいでしょう。
ここでアルバムに収録されている「The City Nowadays」のビデオを紹介します。
音楽を聴いていると面白いなあと思うことのひとつは、時折こうして既存のセオリーを再構築したり破壊することで、そのジャンルの歴史を新たに更新させてくれるアーティストが登場することです。
で、ちなみにここからはUKからは逸れますが、オマケとして。
今年のフジロックで観て一発でファンになったコン・ブリオ(CON BRIO)という、サンフランシスコを拠点に活動中の白人黒人混合7人組バンドがいます。バンド名はイタリア語で「元気に、生気に満ちて」を指す音楽用語で、その名の通り、サウンドはすこぶるエネルギッシュです。
いかがでしたか? ジャンルを更新させる期待の新星たち、気になるアーティストがいたらどんどんチェックしてみて下さいね。それでは!
内田 正樹
エディター、ライター、ディレクター。雑誌SWITCH編集長を経てフリーランスに。音楽をはじめファッション、映画、演劇ほか様々な分野におけるインタビュー、オフィシャルライティングや、パンフレットや宣伝制作の編集/テキスト/コピーライティングなどに携わる。不定期でテレビ/ラジオ出演や、イベント/web番組のMCも務めている。近年の主な執筆媒体は音楽ナタリー、Yahoo!ニュース特集、共同通信社(文化欄)、SWITCH、サンデー毎日、encoreほか。編著書に『東京事変 チャンネルガイド』、『椎名林檎 音楽家のカルテ』がある。