ビートルズ! ツェッペリン! ストーンズ! | BRITISH MADE

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2016.10.13

映画!リマスター!新作! 元気過ぎるUKレジェンドたちの近況。

前回は期待の新星を紹介しましたが、今回はベテランです。まあニューカマーもどんどんリコメンしていきたいんですが、どっこいレジェンド級がまだ俄然元気。というか、元気過ぎるんですよ……(笑)。

まずはビートルズ。現在公開中の映画「ザ・ビートルズ〜EIGHT DAYS A WEEK – The Touring years」を劇場で観ました。
「ビューティフル・マインド」(2001年)などで知られるロン・ハワード監督が、存命メンバーであるポールとジョージのインタビューに、各界著名人や関係者の証言を織り交ぜながら、彼らのデビュー前夜からライブ活動を行っていた時代に焦点を絞って編んだドキュメンタリーです。
どんな時もユーモアを忘れない4人のチャーミングなキャラクター。しょうもないマスコミ記者からの悪意に満ちた質問を一刀両断する頭の回転の速さと豊富なボキャブラリー。レコーディングの様子。ハードな旅の合間に覗かせる若者としての横顔。そして何より、大事なことは全員の総意で決めていた4人の結束力はやはりあらためて目にすると感動モノです。やがてツアーに嫌気がさし、ライブ活動を停止し、音楽性や人生観の相違からそれぞれの道を歩むこととなる4人の、強く、美しく、激動の季節の記録は、まあ見所に事欠きません。

1962年のメジャーデビューから70年のポール脱退による事実上の解散までが約8年間。そのうち彼らがファンの前でライブを行っていた期間はデビューから66年8月までの約4年間しかなかったのです。この時期にスポットを当てた編集で、コアなファンにしか知られていなかった史実が新鮮な味わいで伝わってくる象徴的な場面があります。64年のアメリカ南部ゲイターボール公演の一幕です。人種による座席分けという当時の現地でまかりとおっていた風習を、「黒人と白人が別々の場でライブを観る必要などない」という意思によって、(スターとはいえ)イギリスから来た20代そこそこの白人青年たちが毅然とした態度で一蹴するのです。

オバマという黒人初の大統領が生まれるなんて、まだ夢のまた夢だった時代のアメリカでの出来事ですよ。つまり本作は懐古的な映画ではなく、むしろ2016年の今だからこそ有効な機能性を持った、ビートルズをよく知らない人にこそ観てほしい作品だと思いました。

そして肝心のライブ演奏がまた凄まじいのです。劇場でも映画本編終了後にシェイ・スタジアムのライブ映像が30分間上映されますが、映画と連動してお色直しされた「ライブ・アット・ザ・ハリウッドボウル」は、彼らが公式に残した唯一のライブアルバムです。
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何万もの観客が放ち続ける悲鳴のなか、自身の演奏を確認できるPAシステム自体が存在しなかった時代に、経験値と度胸とドンピシャの呼吸だけで無二のグルーヴを弾き出す彼らの演奏は圧巻です。
個人的な収穫としては、ドラマーとしてのリンゴの存在の重要さをあらためて思い知らされましたね。もちろんジョンもポールも凄いんだけれど、大人になってみると、ジョージでありリンゴの存在意義こそが、染み入るように感じられました。誰一人欠けても彼らがFAB4に成り得なかったのはもちろんですが、特にリンゴがいなかったら、グルーヴ的にもバランス的にも、マジで“この4人”は“あのビートルズ”には成り得なかったのだろうなあということが、あらためて伝わってきました。

画期的なソングライティング。折れない姿勢。若き肉体の躍動。それらは彼らが伝説となった要因の一片であり、ロックンロールという音楽の真髄でもあるのだと感じられました。

お次ぎはレッド・ツェッペリンです。先ごろリリースされた「コンプリートBBCセッション デラックス・エディション」は、彼らが1969年から71年の間にイギリスBBCラジオのプログラムに出演した際のライブ音源で編まれた2枚組のCDです。97年に一度発売されたものに8曲の未発表音源を追加して、リーダー兼ギタリストのジミー・ペイジが最新リマスタリングを施していたものです。
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ペイジはこれまでにツェッペリンのオリジナルアルバム全9作品のリマスタリング再発盤を手がけていますが、彼のこうした仕事に対するモチベーションとは、ひとつにアナログレコードからCDへの移行期に、メーカーが何のこだわりもなくマスター音源をツルッとCDに落とし込んで発売してしまったことへのリベンジがあります。

もうひとつには最新の技術を駆使して再現させることで、以前のテクノロジーでは再現できなかったこのバンドのとんでもないバンドマジックと異常な情報量を現代のリスナーへリアルに届けること。三つ目には彼自身が許容できる未発表トラックを収録することで、一時代にはびこった違法な海賊盤とそれに等しい音源を全世界から一掃したい(と、どうやらマジに思っているあたりがまたペイジという人物の興味深いところ)といったところでしょうか?
今回のリマスタリングはCDというフォーマットの限界まで音像の情報量を詰め込むという類ではなく、むしろ私には現代の新譜と並べて聴いた時にしっくりくる方向へのお色直しのような印象を受けました。
前述のビートルズのライブ盤もそうですが、こうした現在のテクノロジーと確かな作業も手伝って、優れたライブ盤には懐かしさや古めかしさというものがありません。そもそも懐かしさというのはそれを一度体験してこそ感じるものだし、言うまでもなく古くても興奮しない音源だってゴマンとあるという事実を鑑みれば、やはり偉大な所業だよなあとため息が漏れます。
おそらくは本人たちも二度と再現できなかったんじゃないか?というほどの怒涛のグルーヴに、またもただただ圧倒されるばかりです。全員キレキレだけど、やはりここでも特にドラムのジョン・ボーナム! もうこのプレイは神の領域ですね。アメリカ生まれのブルースをビートルズやストーンズとは異なる初期衝動とアプローチで昇華し破壊して、ハードかつドラマッチックなロックンロールへと再構築させた彼らの功績をあらためて体感するいいチャンスかと。ともかく“もの凄い”ロックが聴きたかったら、まず買って損はないことをお約束します!

最後はちらっとローリング・ストーンズ。つい先日、突如11年ぶりのニューアルバム『ブルー&ロンサム』を12月2日にリリースするとSNSを通じて電撃発表しました。
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“構想50年、製作3日”というクールなキャッチには笑わせてもらいましたが、すでに発表されている全収録曲のリストと先行配信シングル「ジャスト・ユア・フール」からモロ分かりの通り、今作はズバリ原点回帰となるブルース一色のアルバムのようです。
彼らにとってルーツと言える存在だったハウリン・ウルフやメンフィス・スリム、マジック・サムにリトル・ウォルターなどなど、ブルース通を唸らせるド渋いレジェンドたちのド渋いレパートリーが選ばれています。いや、正直前作のリリースと来日公演で「もう最後かも?」というある程度の覚悟も決めていたので、このニュースは嬉しかったですね。もう期待しかないです。

というわけで、ポールもリンゴもいまだ現役だし、ペイジはもういいかげんにツェッペリンかソロプロジェクトに重い腰を上げてくれるのでは?と期待してしまうし、ストーンズは言わずもがなのフルスロットルという2016年です(笑)。まだまだ元気なUKレジェンドたちから、まだ当分は目が離せない模様です。ではまた!!

Text by Uchida Masaki

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内田 正樹

内田 正樹

エディター、ライター、ディレクター。雑誌SWITCH編集長を経てフリーランスに。音楽をはじめファッション、映画、演劇ほか様々な分野におけるインタビュー、オフィシャルライティングや、パンフレットや宣伝制作の編集/テキスト/コピーライティングなどに携わる。不定期でテレビ/ラジオ出演や、イベント/web番組のMCも務めている。近年の主な執筆媒体は音楽ナタリー、Yahoo!ニュース特集、共同通信社(文化欄)、SWITCH、サンデー毎日、encoreほか。編著書に『東京事変 チャンネルガイド』、『椎名林檎 音楽家のカルテ』がある。

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