佳き英国、ダメな英国 どちらも明らかにしてくれる、天才の伝記映画 「奇蹟がくれた数式」 | BRITISH MADE

佳き英国、ダメな英国 どちらも明らかにしてくれる、天才の伝記映画 「奇蹟がくれた数式」

2016.10.21

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英国というと、いまや世界一レベルのリベラル国家。そんな英国だが、世界一コンサバ(保守)な国という一面もある。その点は、おそらく我々日本人が持つマインドと近いのでは、と感じることが多いのは、英国が持つ歴史にある。島国でロイヤル・カルチャーがあり、元来もつ人々の性格はシャイで勤勉。だが産業や文化の面で他国に大きな影響を与えてきた——こう言われると、世界広しといえど、日本か英国くらいのものだ。だからかもしれないが、日本では英国映画に一定のファンが存在し、かの文化にシンパシーを抱く人々が多い。

だが、似て欲しくないところも似てしまうのが、英国と日本のサガでもある。それが浮き彫りとなっているのが、英国領時代のインドから突如現れた数学の天才シュリニヴァーサ・ラマヌジャンの半生を映画化した『奇蹟がくれた数式』で描かれている。

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シュリニヴァーサ・ラマヌジャンは、20世紀初頭に今の応用数学で数々使われている定理を発見した天才数学者。その発見の仕方が、あまりにも神がかっていたために、偉大なる業績が完全証明されたのはつい20年弱前という。彼の発見の数々はまさに奇跡で、ラマヌジャンは数学界ではアインシュタインを超える天才と称されるほどだとか。そんな彼が世に名を残すきっかけとなったのは、英国の名門大学ケンブリッジ大学トリニティ・カレッジにあった。彼はインドで暮らす一介の事務員だったが、トリニティ・カレッジの著名な数学者ハーディ教授に手紙を出し、教授をひっくり返らせる発見を伝えたのだ。

ハーディ教授は当時としては珍しいリベラルな思想の持ち主で、植民地の一般人からの投書であっても、才能を見抜いて大学に招くと決めた。だが、問題はここから。学歴ゼロで植民地出身のラマヌジャンは、差別の対象となってしまった。人を本質ではなく「ブランディング」して値踏みしているからだ。たしかに、どこの馬の骨とも知れぬ者を怪しむのは当然だ。だが、ラマヌジャンの非凡な才能は、ハーディ教授が手紙一つで見抜いている。今だったら、教授のお墨付きを得た時点で、差別も偏見も受けないだろう。これが英国、ひいては日本でもダメなところといえるのではないだろうか。

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だが、いわば英国にとっては恥ずかしい一面をさらしてしまうのも、英国映画のいいところでもある。この作品もラマヌジャンへの差別と偏見を真っ向から描き、当時の考えは間違っていたことを認め、反省しているように見える。また最近では、オスカー候補になった『イミテーション・ゲーム/エニグマと天才数学者の秘密』も、英国を代表する数学者アラン・チューリングへの偏見と差別を浮き彫りにしたばかり。過去への反省を映画という表現方法で素直にできる、というのが英国のふところの深さだ、といえるだろう。
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また、この作品ではそういった恥部ばかりが描かれるわけではない。英国映画といえば、なのが、学園もの。ケンブリッジ大学やパブリックスクールを舞台にした英国映画は、英国映画好きにはツボである。たとえば大作でいえば『ハリー・ポッター』シリーズもその内に入るのでわかりやすいかも。また、実在のスパイのメンバーだった男の実話をもとにした人間ドラマ『アナザー・カントリー』や、ケンブリッジ大学に通う青年のロマンスを描く『モーリス』もそう。どちらもゲイムービーの傑作としても誉れ高いが、今もなお惹きつけてやまないのは、スタイルの美しさが大きいだろう。本作もそうなのだが、教授陣はもちろん生徒達も毎日三つ揃えのスーツでパリッときめる。それはインドから来ているラマヌジャンであっても同じことで、部屋にこもるとき以外は彼もスーツを着用。人間見た目じゃない、といいつつも、キチンとした身なりをしているとそれだけですがすがしく見えるものだ(これまた偏見なのかもしれないが)。

それだけでなく、英国男子の美しさは、身なりの清潔さだけではなく、紳士であることもプラスに。ラマヌジャンをとりまく学友たちは、そのほとんどが良家出身のお坊ちゃん。偏見的な目で彼を観る者も当然いるのだが、なかには遠い国からわざわざ勉学のためにやってきたラマヌジャンに紳士として接する者も現れる。教授陣にしてもそうだ。ほとんどの教授はラマヌジャンの言うことなど耳を貸さないが、ハーディ教授をはじめ、数名の理解者達は「いったいどうしたらラマヌジャンが認められるだろう」ということを考えて行動する。このやさしさ、紳士的な行動こそ、英国男子の魅力であり、英国学園ものの映画が人々を魅了する大きな理由となっているといえるだろう。


このように、この作品には、佳き英国、ダメな英国の両側面が描かれている。よいものはよい、悪いものは悪いとキチンと認め、それを真っ向から描くことができる英国。そのスタイルに、英国ファンは魅了されるに違いない。

映画『奇蹟がくれた数式』
「10/22(土)より、角川シネマ有楽町、Bunkamuraル・シネマ他全国ロードショー」
kiseki-sushiki.jp
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Text by よしひろまさみち
Photo ⒸRichard Blanshard

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