ストーンズの頼れる男、その胸に秘めた情熱。
ザ・ローリング・ストーンズのドラマーであるチャーリー・ワッツが新作アルバム「チャーリー・ワッツ・ミーツ・ザ・ダニッシュ・ラジオ・ビッグ・バンド」(ユニバーサル)をリリースしました。そこで今回は頼れる男、チャーリーついて紐解いていきましょう。やがて当時ロンドン・ブルース・シーンの顔役だったアレクシス・コーナーや、ブライアン・ジョーンズ(故人。ストーンズの初代リーダー)やミック・ジャガー、キース・リチャーズらとの出会いを契機にブルースをプレイするようになり、ストーンズへと合流し、63年にデビューを果たします。
ドラムのプレイスタイルのみならず、アウトロー集団だったストーンズの中において、チャーリーはその人柄も我が道を突き進んでいます。まずメンバー中、唯一今日まで初婚で貫いてきた愛妻家です。そして英国紳士たる、素晴らしいスーツの着こなしで知られています。ロンドンにお気に入りのテーラーが数件あるそうで、古き良き古き良きサヴィル・ロウの仕立てや、50年代のハリウッドスターやシンガーに代表されるWASPのボストン・スタイルが好みのようですね。
そして何より寡黙な内に秘めた闘志です。かつて、酒に酔って「俺のドラマーよぉー!」と絡んできた若き日のミック(何やってんだか……)を、敢えて髭を剃り、スーツに着替えてと身支度を整えてから「二度とそんな口を叩くな!」と言って見事に殴り倒したというクールなエピソードは、ストーンズファンには有名です。
24時間ぶっ通しのスタジオ作業では、手が血まみれでも顔色ひとつ変えなかったとか、05年のツアーでは癌の治療中にも関わらずステージに立ち続けたとか、様々な伝説の持ち主です。メンバーはそんなチャーリーに絶大な信頼を寄せています。特にキースは、チャーリー無くしてストーンズは在り得ないとまで断言しています。
さらにチャーリーはバンドの舞台美術やコンサートグッズ、ジャケットなどのデザイン監修にも携わっています。さすがは元デザイナー、アートのセンスだって抜群というわけです。一時、80年代にドラッグとアルコールの依存症に悩まされましたが、75歳の今日も、世界中のステージで2時間以上ものプレイを聴かせてくれています。
正直、ここまでの流れでも分かるように、チャーリーはキースのような生粋のブルースやロックンロール好きでもなければ、ミックのようなポップスターが性に合うタイプでもありません。ではなぜビル・ワイマンのように脱退をしなかったのでしょうか?
多分、特に公言しないまでもメンバーを愛していて、どこかで「俺がいなければ」と感じているからだと思うのです。静かだけど頼れるストーン。チャーリーとはそういう人物だと思うのです。
近年はロバート・グラスパーを筆頭に新世代のジャズ・プレイヤーたちが人気ですが、こうしたオーセンティックなスイングジャズもやはり味わい深いものです。なおストーンズは南米ツアーの舞台裏に迫ったドキュメンタリー映画のDVD「オレ! オレ! オレ! ア・トリップ・アクロス・ラテン・アメリカ」がリリースされたばかりです。この作品、以前も紹介しましたが、本当に素晴らしい音楽ドキュメンタリーなので必見です。
内田 正樹
エディター、ライター、ディレクター。雑誌SWITCH編集長を経てフリーランスに。音楽をはじめファッション、映画、演劇ほか様々な分野におけるインタビュー、オフィシャルライティングや、パンフレットや宣伝制作の編集/テキスト/コピーライティングなどに携わる。不定期でテレビ/ラジオ出演や、イベント/web番組のMCも務めている。近年の主な執筆媒体は音楽ナタリー、Yahoo!ニュース特集、共同通信社(文化欄)、SWITCH、サンデー毎日、encoreほか。編著書に『東京事変 チャンネルガイド』、『椎名林檎 音楽家のカルテ』がある。