2015年以来のニューシングル。還ってきた天使の歌声。
前回このSTORIESで取り上げたデュラン・デュラン、武道館公演を観てきました。
自身がプロデュースを務めたマドンナ、デヴィッド・ボウイなどのナンバーを、あの軽快な斬れ味のカッティングで惜しげも無く聴かせるオープニングアクトを務めたシックfeat.ナイル・ロジャースの演奏があまりに素晴らしくて、デュラン、喰われちゃうんじゃないか?と思いましたが(笑)、なかなかどうして良かったですよ。「リフレックス」は演りませんでしたが、「リオ」、「グラビアの美少女」、「ノトーリアス」、「オーディナリー・ワールド」など、キャリアを総括するベスト盤的なセットリストで、途中にはナイル・ロジャースも2曲で参加する大サービス。大いに盛り上がりました。
さて、今回は先日ニューシングル『トゥー・グッド・アット・グッバイズ 〜さよならに慣れすぎて〜』をリリースしたばかりのサム・スミスをピックアップします。
2012年にはディスクロージャーのシングル『ラッチ』にゲストボーカルとして参加(全英11位)して注目を浴びました。
そしていよいよ同年にデビュー・アルバム『イン・ザ・ロンリー・アワー』をリリースすると、このアルバムからグラミー賞6部門にノミネートされ、翌年の第57回グラミー賞では主要3部門を含む4部門を受賞したのです。
現在世界枚数売上1,200万枚という輝かしい記録を持つ彼ですが、実は久しく楽曲をリリースしていませんでした。2014年、サムは公にゲイであることを公表し、インタビューにおいて強迫性障害の症状の改善に取り組んでいることを語りました。さらに2015年にはニューヨークで声帯の手術を受けていて、一時はその美声の維持が危ぶまれるのでは?という報道も飛び出しました。手術は無事終了しましたが、こうした体調面と、おそらくはこれまでのインタビューから察するに、急に獲得してしまった名声に自分自身が追い付いていけず、一時はかなり混乱した日々を送っていたそうなので、一旦クールダウンしていたのではないでしょうか?
今夏(8月末)、サムは突如SNS上で『近日何かを発表するよ』とファンに報告。そして今回の『トゥー・グッド・アット・グッバイズ 〜さよならに慣れすぎて〜』がリリースされたというわけです。
サムはこの曲の発表に際し「このシングルは今後の作品の方向性が打ち出されている」と公式コメントを発表しました。私は来日公演に足を運びましたが、あまりに歌が上手くて驚いたのを昨日のことのように覚えています。そしてまだ若いとはいえ、このクラスの大物でステージからあれほど生真面目さが伝わってくるアーティストもちょっと珍しいなと思いました。
内田 正樹
エディター、ライター、ディレクター。雑誌SWITCH編集長を経てフリーランスに。音楽をはじめファッション、映画、演劇ほか様々な分野におけるインタビュー、オフィシャルライティングや、パンフレットや宣伝制作の編集/テキスト/コピーライティングなどに携わる。不定期でテレビ/ラジオ出演や、イベント/web番組のMCも務めている。近年の主な執筆媒体は音楽ナタリー、Yahoo!ニュース特集、共同通信社(文化欄)、SWITCH、サンデー毎日、encoreほか。編著書に『東京事変 チャンネルガイド』、『椎名林檎 音楽家のカルテ』がある。