レジェンドは如何にスクリーンで描かれたのか。
去る3月4日(現地時間)、第90回アカデミー賞の授賞式がハリウッドで行われ、ジョー・ライト監督作『ウィンストン・チャーチル ヒトラーから世界を救った男』の特殊メイクを担当した日本人アーティストの辻一弘さんが、メイクアップ&ヘアスタイリング賞を初受賞しました。日本人のオスカー獲得は約9年ぶり。個人としては1993年・第65回石岡瑛子さん以来、実に約25年ぶりの快挙でした。第75回ゴールデングローブ賞では最優秀主演男優賞(ドラマ)に輝いたほか、米メイクアップ・アーティスト&ヘア・スタイリスト組合賞では3冠を達成、今回のアカデミー賞では作品賞ほか6部門にノミネートされ、ゲイリー・オールドマンは主演男優賞に輝きました。
ちなみに彼は以前この欄でも紹介した『裏切りのサーカス』(2102年)でも同賞にノミネートされていましたが、惜しくも受賞を逃していました。彼が前回と今回の二回しかノミネートされていなかったのも意外ですが、ともかく今回、晴れてのオスカー獲得が実現したわけです。
私はまだ映画を未見なのですが、報道によると、一度は映画界を退きアーティストへと転身していた辻さんを、ゲイリー自らが「この映画には君が不可欠だ。君が参加しないなら俺も出ない」と口説いて参加を要請したそうです。
開発と試作に半年・計200時間以上を費やしたという特殊メイクのクオリティはまさに圧巻の一言。そりゃゲイリーもラブコールを送るわけです。「これ特殊メイクなの!? というか、そもそも本当にゲイリーなの!?」 と思ってしまいます。日本版公式サイトによると、見どころは後にノーベル文学賞を受賞(1953年)した言葉の魔術師・チャーチルによる約4分間の演説によるラストシーンとのこと。チャーチル映画の決定版との呼び声も高い一本、早く観たいものです。
170cm、90kg、シガーを愛し、服装にも徹底した美意識を貫いたこの稀代の政治家は、これまで数々の映画で描かれてきました。今回はその中から三本をざっと振り返ってみましょう。
1.『戦争と冒険』(1972年)
『ガンジー』(1982年)や『コーラスライン』(1985年)で知られるリチャード・アッテンボローの監督作。2.『イングロリアス・バスターズ』(2009年)
『レザボア・ドッグス』(1992年)、『パルプ・フィクション』(1994年)のクエンティン・タランティーノ監督作です。第二次世界大戦中のドイツ国防軍占領下のフランスを舞台に、5章の物語が繰り広げられます。日本ではイマイチ興行が振るわなかったというイメージでしたが、調べてみると全世界で3億ドル以上を稼ぎ、『パルプ・フィクション』の2億ドルを超えて、タランティーノの監督作では最大のヒット作となっていたんですね。当時俳優業から離れていた『鳥』(1963年)、『砂丘』(1970年)のロッド・テイラーがタランティーノたっての希望でチャーチルを演じました。3.『英国王のスピーチ』(2010年)
大ヒットしたトム・フーパー監督作。我らが『キングスマン』ことコリン・ファース主演作です。いかがでしたか。ご存知の作品、未見の作品はありましたか。他にも関連作品としてジョン・スタージェス監督『鷲は舞いおりた』(1976年)、リドリー&トニー・スコット制作のテレビシリーズ『チャーチル/大英帝国の嵐』(2002年)と『チャーチル 第二次大戦の嵐』(2008年)、ブライアン・コックスが演じた『チャーチル』(2017年。日本未公開)などがあります。
多くの英国人に、そして日本人にも多くのファンを持つウィンストン・チャーチル。その太くブレないリーダーたる生き様に、この機会を通じて触れてみてはいかがでしょうか? 『ウィンストン・チャーチル ヒトラーから世界を救った男』は、3月30日から全国公開です。ではまた!
関連リンク
傑作『007 カジノ・ロワイヤル』をフルオーケストラと共に堪能!
コリン・ファースの戒め
内田 正樹
エディター、ライター、ディレクター。雑誌SWITCH編集長を経てフリーランスに。音楽をはじめファッション、映画、演劇ほか様々な分野におけるインタビュー、オフィシャルライティングや、パンフレットや宣伝制作の編集/テキスト/コピーライティングなどに携わる。不定期でテレビ/ラジオ出演や、イベント/web番組のMCも務めている。近年の主な執筆媒体は音楽ナタリー、Yahoo!ニュース特集、共同通信社(文化欄)、SWITCH、サンデー毎日、encoreほか。編著書に『東京事変 チャンネルガイド』、『椎名林檎 音楽家のカルテ』がある。