2枚の名盤が物語る“1968年”とは?
50周年記念盤。つまり、今から50年前、1968年に発表された2枚のアルバムの記念バージョンがリリースされます。まずはビートルズ。そのジャケットデザインから、俗に『ホワイトアルバム』と呼ばれている、彼らにとって唯一の2枚組アルバム、『ザ・ビートルズ』の50周年記念ニュー・エディションが11月9日に世界同時リリースされます。
また、このレコーディング期間中、リンゴ・スターが一時グループを脱退していたことから、ビートルズ崩壊の始まりと言われる作品とも評されていましたが、ウィキペデイアでも書かれている通り、後年、ポール・マッカートニーはビデオ・アンソロジーの中で「このアルバムは脈絡がないだとか、ソロばっかりだとか言われるけど、後から言うのは簡単さ。ビートルズの『ホワイト・アルバム』だぞ? 黙れってんだ」と語っています(笑)。まあ、辛口のファン意見もわかりますが、やはりとんでもない質と量を誇るアルバムだと思います。
さて、本作に収録の「ヤー・ブルース」は、のちにローリング・ストーンズの『ロックンロール・サーカス』でも演奏されました。
この作品の直前まで、彼らはいわゆるサイケデリック・ムーブメントにハマっていました。完全にビートルズの『サージェント・ペパーズ・ロンリー・ハーツ・クラブ・バンド』後追い感が否めなかった『サタニック・マジェスティーズ』をリリースするなど、バンドの音楽性はガタガタにグラついていました。
今でも彼らのライブで人気の「悪魔を憐れむ歌」、「ストリート・ファイティングマン」、さらにコアファンには名曲の呼び声も高い「地の塩」など全10曲が収録されています。「地の塩」は、バッチリと痩せていた頃のW.アクセル・ローズ(ガンズ&ローゼズ)とのデュエットバージョンでお届けしましょう。
この年の時事を振り返ると、プラハの春、ベトナム戦争(※戦争中)、キング牧師暗殺、ケネディ暗殺、フランス水爆実験と、不穏な出来事ばかりでした。ヒッピーやサイケ、ドラッグの誘惑に満ちた血なまぐさい60年代の終盤を、ビートルズはメンバー個々の個性と芸術性を追求することで、またストーンズは原点に回帰することで、それぞれにサバイブしようとしていたことが分かります。
そして、ここからビートルズは徐々に崩壊の足音が聞こえはじめ、ストーンズは“オルタモンドの悲劇”(※フリーライブで黒人の観客が会場警備に銃殺された)を経由して、それぞれ大きな転換期となる1970年代へと向かっていくのでした。
周知の通り、ビートルズとストーンズは良きライバルであり友人同士でした。特にポールとキースは今日もかなりの仲良しです。バカンスで顔を合わせては、余生やサイドビジネスなど、あれこれと語り合っているのだとか(笑)。ストーンズは現在ツアー中。そしてポールはこの10月に来日公演を行います。
前回も書きましたが、今年はこの秋から冬にかけて、クラプトン、クイーンの関連映画も公開されます。そう、ファンはピンときていると思いますが、前述のジョージとクラプトンがスタジオを共にした「ホワイル・マイ・ギター・ジェントリー・ウィープス」は、このクラプトンの映画における彼のヒストリーにおいて、大きな影を落とすこととなる象徴的な1曲でもあります。いずれにせよ、UKロック好きには賑やかな季節となりそうですね。この2作についても、追ってこの場所で触れていけたらと思います。
今も活躍するレジェンドたちがアーリーデイズに残した作品は、60年代終盤という時代の空気をもそのままパッケージしていると言えるでしょう。新たな発見に出会えるかもしれない2枚の50周年記念盤、よかったらぜひチェックしてください。ではまた!
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内田 正樹
エディター、ライター、ディレクター。雑誌SWITCH編集長を経てフリーランスに。音楽をはじめファッション、映画、演劇ほか様々な分野におけるインタビュー、オフィシャルライティングや、パンフレットや宣伝制作の編集/テキスト/コピーライティングなどに携わる。不定期でテレビ/ラジオ出演や、イベント/web番組のMCも務めている。近年の主な執筆媒体は音楽ナタリー、Yahoo!ニュース特集、共同通信社(文化欄)、SWITCH、サンデー毎日、encoreほか。編著書に『東京事変 チャンネルガイド』、『椎名林檎 音楽家のカルテ』がある。