フレディの光と陰を描いた音楽映画の傑作
今回は、11月9日(金)公開の映画『ボヘミアン・ラプソディ』をご紹介します。これはクイーンのボーカリストにして不世出のアーティスト、フレディ・マーキュリーの半生を描いた映画です。 フレデイを演じるのはテレビドラマ「MR. ROBOT/ミスター・ロボット」や映画『ナイト ミュージアム』のラミ・マレック。ほか3人のクイーンのメンバーも含めて、非常に高い再現度で演じています。
また、メンバーのブライアン・メイとロジャー・テイラーが音楽総指揮を務めているので、肝心の音楽のリアリティも文句なし。資料提供から衣装、楽器の貸し出しまで、全編に渡ってサポートしています。その威力は本編のオープニング、つまりおなじみ20世紀フォックスのロゴタイトルから最高に心憎い遊び心によって発揮されています。どうかお聴き逃しのないように(笑)。
追ってベースのジョン・ディーコンが加入して、不動のラインナップが誕生しました。
ザンジバルで生まれたインド出身の青年“ファルーク・バルサラ”は、その生い立ちや容姿に対するコンプレックスを跳ね除けるように“フレディ・マーキュリー”を名乗り、クイーンは73年、ファーストアルバム『戦慄の王女』をリリースしました。
一度は散り散りになったクイーンは、フレディの“ある告白”から再びひとつになり、本編は1985年に行われた20世紀最大のチャリティコンサート『ライブ・エイド』における伝説のパフォーマンスへと向かっていきます。クライマックスとなるこのシーン、会場だったウェンブリー・スタジアムのステージは、空軍基地を使って再現され、小道具の細部に至るまでが再現されています。
21分に及ぶ圧巻のパフォーマンスは、当時のステージを知らない読者のかたこそ、まずはぜひとも劇場で体験してください!! ちなみに自分はこのクライマックスでボロ泣きでした。
キャストやディテールの再現度が高いと、どうしてもある程度バンドを知っている音楽リスナーや熱烈なファンは、映画に多くを求めがちです。当然のことながらこの映画でクイーンの全てが描かれているわけではありません。
史実とは異なる描写や、敢えて真実を伏せたような演出も見受けられるし、ロック史における横の繋がり(例えば「アンダー・プレッシャー」におけるデヴィッド・ボウイとか)もほぼ省略されています。
しかし、フレディとバンドの物語にフォーカスを絞った構成だからこそ、出自と容姿のコンプレックスやセクシャリティ、そして孤独と闘った「人間 フレディ・マーキュリーとは何者だったのか?」という物語の輪郭が明確に立ち上ってくるのです。さらに前述の『ライブ・エイド』によって、クイーンというバンドが音楽シーンに残した功績の一端も描かれています。
だから、まずはぜひとも劇場へ。ここまで書いといて何ですが(苦笑)、予習なんてしなくても間違いなく楽しめる音楽映画の傑作です。
映画『ボヘミアン・ラプソディ』は11月9日(金)よりロードショーです。ではまた!
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内田 正樹
エディター、ライター、ディレクター。雑誌SWITCH編集長を経てフリーランスに。音楽をはじめファッション、映画、演劇ほか様々な分野におけるインタビュー、オフィシャルライティングや、パンフレットや宣伝制作の編集/テキスト/コピーライティングなどに携わる。不定期でテレビ/ラジオ出演や、イベント/web番組のMCも務めている。近年の主な執筆媒体は音楽ナタリー、Yahoo!ニュース特集、共同通信社(文化欄)、SWITCH、サンデー毎日、encoreほか。編著書に『東京事変 チャンネルガイド』、『椎名林檎 音楽家のカルテ』がある。