アンドリュー・ヘイの新作「荒野にて」が4/12 より封切る。前作「さざなみ」でその名を馳せた注目の英国人監督だ。そのアンドリュー・ヘイが新作の舞台に選んだのは、イギリスではなくアメリカはポートランドである。 主人公チャーリーは15 歳。父親のレイと共にポートランドへやってきた。父はマイペースで女性関係に忙しなく、家を空けることが多い。金銭面にも恵まれないチャーリーは、学校にも行けず、孤独な時間を過ごしていた。ある日、チャーリーは近所の競馬場で調教師デルと出会い、彼のもとで働くことになる。チャーリーは、デルの持ち馬であるリーン・オン・ピートに気を許し、徐々に自身の心を開いていく。ある晩、レイは姦通相手の夫に襲撃されて深い傷を負う。今日暮らしていく術を考えなければならなくなったチャーリーは、疎遠になった叔母を頼ろうとするがレイに拒まれてしまう。追い討ちをかけるように、デルは競走馬として結果を残すことができなくなったピートを売り払う決断を下す。チャーリーは、稼ぐことができなくなった競走馬がどうなるのかという厳しい現実を突きつけられる。そして、度重なる不幸を受け止めることができず、ピートを連れて逃走する。
チャーリーが師事するデルは、勝つためにはどんな手でも使う粗野な調教師だ。そんな彼がチャーリーの食事のマナーについて言及する場面がある。「奢ってもらっておいて俺より先に口をつけるのか?」「食い方が下品だ」などと語気を強めるのだ。実際はもっと品性に欠ける言葉が用いられているのだが…実はここが本編の中でも一押しのシーンだ。断っておくが、先述した通りデル自体は洗練された人物とは程遠い。そんな彼の流儀が食事のマナーに表れるというのは意外性がある。いかにも英国人らしい演出に感じられ、監督の個性が際立った箇所だった。さりとて、本筋とはまったく関係のない箇所なので、肩肘張らずに気楽に流していただきたい。デルを演じるのは名優スティーブ・ブシェミだ。彼の芝居も相まってクセの強い、独特なキャラクターになっている。どこか愛着がわく人間像だ。
本作を鑑賞後、原作であるウィリー・ブローティンの「荒野にて」も読んだ。原作では、映画では描かれなかった場面や、本編には登場しないキャラクターもしばしば見受けられる。一方で、主人公チャーリーを演じたチャーリー・プラマーは、原作から飛び出したような、まさにイメージ通りの役柄だった。チャーリーのもどかしさ、無力感、そわそわした繊細な部分がつぶさに表現されているからだ。つまり、台詞で表すのが難しい所作が素晴らしい。加えて、ピートとの対話を中心とした、実質的にモノローグに近い高度な芝居を自然にこなしている点でもそう言える。このような点も含め、映画と比較しながら読んでみるとより一層楽しめるに違いない。
今はすっかり疎遠になってしまったが、中学生くらいまでは馬が好きだった。当時のお気に入りはトウカイテイオー、メジロマックイーン、ビワハヤヒデ、ナリタブライアンなどで、馬好きが高じて乗馬倶楽部や北海道まで名馬を見に行ったほどだ。無論、競馬中継も欠かさずに見ており、声を大にして言えないが、初めて当てた馬券はエリザベス女王杯のメジロドーベルだったはずだ。思えば、初めて当てた馬券が”エリザベス女王杯”というのもイギリスと縁があって面白いものである。
今はすっかり疎遠になってしまったが、中学生くらいまでは馬が好きだった。当時のお気に入りはトウカイテイオー、メジロマックイーン、ビワハヤヒデ、ナリタブライアンなどで、馬好きが高じて乗馬倶楽部や北海道まで名馬を見に行ったほどだ。無論、競馬中継も欠かさずに見ており、声を大にして言えないが、初めて当てた馬券はエリザベス女王杯のメジロドーベルだったはずだ。思えば、初めて当てた馬券が”エリザベス女王杯”というのもイギリスと縁があって面白いものである。
荒野にて
公開表記:4 月12 日(金)ヒューマントラストシネマ渋谷他 全国順次ロードショー
gaga.ne.jp/kouya
部坂 尚吾
1985年山口県宇部市生まれ、広島県東広島市育ち。松竹京都撮影所、テレビ朝日にて番組制作に携わった後、2011年よりスタイリストとして活動を始める。2015年江東衣裳を設立。映画、CM、雑誌、俳優のスタイリングを主に担い、各種媒体の企画、製作、ディレクション、執筆等も行っている。山下達郎と読売ジャイアンツの熱狂的なファン。毎月第三土曜日KRYラジオ「どよーDA!」に出演中。
江東衣裳
http://www.koto-clothing.com