「ホビットの物語」、「指輪物語」の原点がここに。
「ホビットの冒険」、そして「指輪物語」……。のちに世界中で愛されることになる大いなる物語を描いた作家の礎を育んだのは、幾つもの愛と友情、そして過酷な運命でした。先日、ドメ・カルコスキ監督最新作『トールキン 旅のはじまり』の試写を鑑賞しました。タイトル通り、イギリスが誇る世界的作家J・R・R・トールキン(1892〜1973年)の半生を描いた映画です。
先にお伝えしておくと、この映画は一人の若者の青春劇であり、同時に、彼を取り巻く者たちの群像劇でもあります。つまり、トールキンの文学及び映画化作品に触れていない方でも楽しめるのです。
ここでは、8月30日の全国ロードショーに先駆けてシノプシスを紹介しつつ、本作をより深く楽しむためのポイントを5章に分けて、駆け足ですが紐解いていこうと思います。
1. 物語の背景と美術
本編は夢か現実かわからないようなシーンからはじまります。同大戦における最大の会戦として知られる“ソンムの戦い”で、トールキンは病んだ身体を押して、消息を絶った親友ジェフリー・スミス(アンソニー・ボイル)を命からがらの状態で探し続けます。(*言ってしまうと、『指輪物語』における『死者の泥沼』といった記述は、この“ソンムの戦い”が下敷きになっていると言われています)
しかしバーミンガムの母の実家で過ごしている際、父をリューマチ熱で亡くしてしまい、母と弟の三人暮らしとなります。そして間も無くバーミンガムへ移り住むと、今度は母を糖尿病で亡くしてしまいます。
そのためトールキンは、母の友人だったフランシス神父(コルム・ミーニイ)の援助を受けて、1900年、名門キング・エドワード校に入学します。ここで、大切な友となる3人の友人と出会い、4人はアートやカルチャーについて熱く語り合う芸術クラブ「ティー・クラブ・パロヴィアン・ソサエティ」(T.C.B.S.)を結成します。
“ソンムの戦い”の塹壕のオープンセットは、マンチェスターの南にあるチェスター郊外に、10週間をかけ、6万平米にわたって組まれたそうです。実際のキング・エドワード校は1935年に移転し、1936年に取り壊されたため現存しません。そのため、劇中ではマンチェスターのロッチデールタウンホールを使って再現されています。またバロウズ・ティールームは、やはりリバプールのセントジョージホテルを使って再現されています。
イギリスの数々のテレビシリーズを手掛けてきた美術のグランド・モンゴメリーは、時にトールキンの幻想が織り交ざることも念頭に置きつつ、一方で2019年の新作映画としてのモダニズムを失わないよう、リアリティの追求に尽力しています。
2. 言語を創造する文学者
弟と共に身を寄せる下宿先で、トールキンはやはり孤児であるヒロインのエディスと出会います。結果、トールキンは生涯で20以上(*諸説あり)もの人工言語を創造したと言われていて、特に“クゥエンヤ語”と“シンダール(シンダリン)語”という二つの“エルフ語”が有名です。のちに彼が描いた様々な物語に共通する「中つ国(ミドルアース)」という言葉は、こうした言語の誕生の背景として生み出された架空の場所なのです。
3. オックスフォードとケンブリッジ
キング・エドワード校で永遠の絆を育むT.C.B.S.のジェフリー、ロバート、クリストファーは、当初、入学したトールキンと対立しました。同校の校長の息子であるロバートをはじめ、家柄がしっかりとしていたエリートの彼らは、ドイツ語を語源とする名前(トールキンのルーツはドイツ)を持ち、言語に長けた孤児のトールキンを目の敵にしました。イギリスらしい階級社会のヒエラルキーが感じられます。劇中、エディスへの恋心で勉強が疎かになっていたトールキンは、オックスフォードの入試に落ちてしまいます。そこからエディスとの仲がこじれたり、無事に入学するも奨学金の打ち切りに遭ったりと苦難が続きます。
今では一般的にオックスフォードは文系に、ケンブリッジは理系に強いというイメージのようですね。劇中でも、両校の関係性や親睦が感じられる台詞やシーンが幾つか見受けられます。スクールカラーはオックスフォードがダークブルーで、ケンブリッジがライトブルーで、ちなみにBRITISH MADEらしくファッションについて横道に逸れると、もちろんオックスフォードシャツの名は同校が起源です。
そもそもはオックスフォード・クロスという生地の名前で、2本かそれ以上の経糸と緯糸を1つの糸のように平織りした生地です。今から100年以上も前、スコットランドの紡績会社が、信用と受けを狙って同校の名前を付けて売り出したのが由来だそうで、ケンブリッジやイェールという名の生地もありましたが、現在ではオックスフォードだけが広く知られています。
“オックスブリッジ”に分かれても友情を育んだT.C.B.S.の4人、その青春の背景として押さえておきましょう。
4. 若手実力派揃いの俳優陣
「彼の経験や出会いが作品になっていく様は魔法をみているようだった」。そうニコラス・ホルトは語ります。そしてエディスを演じるリリー・コリンズもまた魅力的ですね。端正な輪郭、強い瞳と太い眉が印象的な気品を醸し出す彼女は、実際のエディス本人とよく似ていたこともあってキャスティングされました。また、気品だけではなく、劇中で見せる魅惑的な動きと表情にも、何度もはっとさせられました。
5. 監督とトールキン、そしてスタッフたち
「トールキンの青年期を選んだのは、彼を形成する経験が多かったからだ。両親を亡くし、愛と友情を知り、戦争に行った。全て映画に適した題材だ。(中略)彼の想像力が青年期にどう培われたか、何とかして描きたかった」こう語るフィンランド出身のドメ・カルコスキ監督は12歳の頃からトールキンの作品を愛読していたそうです。自身も、父親のいない少年期を過ごしていた監督は、「両親を失ったトールキンが自立しようとする姿に深く共鳴した」そうで、学生時代のトールキンが独学でフィンランド語を学んでいたことにも親近感を感じていたと語っています。
しかし、繰り返しますが、本作は、時折トールキン文学を想起させるファンタジーな演出を織り交ぜながらも、その根幹はあくまで一人の若者の青春劇であり、また彼を取り巻く者たちとの群像劇として描かれています。だからトールキンの文学及び映画化作品に触れていない方でも楽しめますし、むしろ、本作をきっかけにトールキンの文学や映画化作品に触れても面白いかもしれません(というか、実際、そうしたくなる物語だと思います)。
そうしたドラマを前述の美術と共に盛り上げているのが、撮影監督のラッセ・フランク、衣装のコリーン・ケルサル、そして音楽のトーマス・ニューマンです。独特なクローズアップやパン、スローモーションから生み出される本編のリズムは、編集もさることながら、撮影の段階でかなり形成されているように感じられます。
衣装のコリーン・ケルサルについては、時代ものでありながらも決して古めかしくなく、(*彼女が手掛けた『ハリー・ポッターと賢者の石』、『NINE』がやはりそうだったように)ある種のメジャー感というか華やかさというかケバさをきっちりと押さえているあたり、自分は好みです(笑)。
また『ショーシャンクの空に』、『ファンディング・ニモ』、『007スカイフォール』、『ブリッジ・オブ・スパイ』などを手掛けた映画音楽の巨匠、トーマス・ニューマンについては言わずもがな、極めて彼“らしい”堂々としたスケール感のスコアが鳴らされています。
■ 10組20名様にムビチケをプレゼント!
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終了しました。さらに5名様には非売品プレスシートも
BRITISH MADEでは8月30日から公開の『トールキン 旅のはじまり』の映画公開を記念して、プレゼントキャンペーンを開催します。応募方法は以下の通りとなります。
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以上で応募完了です。応募締め切りは2019年8月22日(木)23時59分まで
当選者の方にはツイッターのDMで直接お知らせいたします。
映画『トールキン 旅のはじまり』
2019年8月30日(金)全国ロードショー
http://www.foxmovies-jp.com/tolkienmovie/
© 2019 Twentieth Century Fox. All rights reserved.
内田 正樹
エディター、ライター、ディレクター。雑誌SWITCH編集長を経てフリーランスに。音楽をはじめファッション、映画、演劇ほか様々な分野におけるインタビュー、オフィシャルライティングや、パンフレットや宣伝制作の編集/テキスト/コピーライティングなどに携わる。不定期でテレビ/ラジオ出演や、イベント/web番組のMCも務めている。近年の主な執筆媒体は音楽ナタリー、Yahoo!ニュース特集、共同通信社(文化欄)、SWITCH、サンデー毎日、encoreほか。編著書に『東京事変 チャンネルガイド』、『椎名林檎 音楽家のカルテ』がある。