舞台は1946 年の英国。ロンドンに住む作家ジュリエットの元に一通の手紙が届く。差出人はガーンジー島在住のドーシー・アダムズ。かつてジュリエットが所有していたチャールズ・ラムの随筆集が巡り巡ってドーシーの元に。彼は、書籍に記されていた彼女の名前と住所を頼りに手紙を送ってきたのである。その手紙には、ガーンジー島には本屋がないため、シェイクスピアの書籍が購入できるロンドンの書店を教えて欲しいと記されていた。そして、ジュリエットの興味を惹いたのは、“読書とポテトピールパイの会”の存在だった。彼女は、ドーシーと文通を重ねるうちに居ても立っても居られず、ガーンジー島へと出向くのである。
ガーンジー島と聞いて連想するのは、やはりガーンジーセーターだろうか。ガーンジーセーターはもともと漁師達の実用的な衣類だ。特徴は、暗闇の中でも気にせず着用できるよう、前後が同じ形にデザインされている点である。フェアアイルやアランなどのセーターに比べると実にシンプルだ。実際、ドーシーは、穴があき、年季の入ったネイビーのガーンジーセーターを着用している。ガーンジーセーターは、さほど肉厚ではないため、スチールで見られるドーシーのように、アウターとしてもインナーとしても着用でき大変使い勝手が良い。我らが BRITISH MADE でもガーンジーセーターを取り扱っているため、この冬のワードローブに加えてみてはどうだろうか。
© 2018 STUDIOCANAL SAS
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対照的に、女性達が着用しているセーターは色合いが鮮やかだ。編み模様も複雑で個性的な物が多い。本編の衣裳を担当したのは、ジェームズ・メリフィールドと、シャーロット・ウォルター。彼らは、1940 年代の衣服を再現するため、地元の協力を得て当時の型紙を入手し、手編みのニットを作成した。つまり、限りなく当時のシルエットやデザインに近いことがうかがえる。それはベスト、靴下、バラクラバ帽、子供服にまで及び、全体的な絵作りに多大なる貢献していることは間違いない。 © 2018 STUDIOCANAL SAS
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この作品では、社交界の場面が度々登場する。ロンドンは、第二次世界大戦で激しい空襲を受けており、街並みはまだ鬱々としている。しかしながら、夜の社交界における雰囲気はそれとは打って変わって豪華絢爛だ。スチールのリリー・ジェームズのような華やかな身だしなみに目を奪われる。中でも、手袋まで揃いになっているネイビーのドレスを優雅に着こなす彼女の姿は格段に美しく白眉だ。また、そのエレガントな女性達をエスコートする男性達の夜会服にも重ねて注目いただきたい。 © 2018 STUDIOCANAL SAS
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終盤、ドーシー・アダムズは一世一代の時を迎える。その時の彼の身なりと振る舞いが印象深い。彼は、仲間にタイを借り、脱帽して身なりを整えるのだが、その姿が実に微笑ましい。日本でも英国でも、勝負の瞬間にすべきことは同じなのだと共感できた本編のハイライトである。『ガーンジー島の読書会の秘密』
2019 年8 月30 日(金)、TOHO シネマズ シャンテほか全国ロードショー
出演:リリー・ジェームズ、ミキール・ハースマン、グレン・パウエル、ジェシカ・ブラウン・フィンドレイ、キャサリン・パーキンソン、 マシュー・グード/トム・コートネイ/ペネロープ・ウィルトン
監督:マイク・ニューウェル
原作:メアリー・アン・シェイファー、アニー・バロウズ
脚本:ドン・ルース、ケヴィン・フッド、トーマス・ベズーチャ
公式サイト:dokushokai-movie.com
部坂 尚吾
1985年山口県宇部市生まれ、広島県東広島市育ち。松竹京都撮影所、テレビ朝日にて番組制作に携わった後、2011年よりスタイリストとして活動を始める。2015年江東衣裳を設立。映画、CM、雑誌、俳優のスタイリングを主に担い、各種媒体の企画、製作、ディレクション、執筆等も行っている。山下達郎と読売ジャイアンツの熱狂的なファン。毎月第三土曜日KRYラジオ「どよーDA!」に出演中。
江東衣裳
http://www.koto-clothing.com