ソロ4作がLPで再発売。稀代のソロボーカリストの軌跡を味わう。
ザ・ローリング・ストーンズのフロントマンといえばミック・ジャガー。12月18日、彼のソロ・アルバム4作品が直輸入仕様国内盤アナログLPレコードで再発売されます。リイシューされるのは『シーズ・ザ・ボス』から、『プリミティヴ・クール』『ワンダーリング・スピリット』、『ゴッデス・イン・ザ・ドアウェイ』です。『ゴッデス・イン・ザ・ドアウェイ』以外の3枚のアルバムは、かのアビイ・ロード・スタジオのハーフ・スピート・マスタリング・システムによって、アナログ・テープ・トランスファーから新たにリマスターされ、『ゴッデス・イン・ザ・ドアウェイ』はデジタル・オリジナル・マスターからリマスターされているそうです。
そこで今回はこの4枚を駆け足で振り返ってみます。
『シーズ・ザ・ボス』
1985年にリリースされたミックの初のソロアルバムです。
ちなみに本作をリリース後、気をよくしたのか、ミックはデヴィッド・ボウイとデュエットシングルをリリースします。それが名曲「ダンシング・イン・ザ・ストリート」です。
今回のLPリイシューとは関係ないですが、ぜひご覧ください。
『プリミティヴ・クール』
1987年リリースのセカンドアルバムです。
ちなみにリリース後には初のオーストラリアと日本で初のソロツアーを行いました。日本は当時オープンしたばかりの東京ドーム(当時はBIG EGG)で、たしか海外アーティストの来日公演ではこけら落としという名目でした。私も必死にチケットを取って観に行きました。
『ワンダーリング・スピリット』
1993年リリースの3作目です。
「スウィート・シング」や「ユーズ・ミー」、そして畳み掛けるようなテンポで歌われたジェームズ・ブラウンの「シンク」と、良い曲が揃った一枚だと思います。私は彼のアルバムの中で一番好きです。前述の通り、ミックのダンディズムで作られた一枚と言ってもいいのかもしれません。
『ゴッデス・イン・ア・ドアウェイ』
2001年リリースの4作目。2000年代唯一のソロ作。つまりアルバムとしては現時点での最新作です。
このアルバム、評論家の採点は悪くなかったようなのですが、全体としてはミックらしい色気と派手さがやや欠けていたのか、日英米ではセールス的にもあまり振いませんでした。統一感もやや散漫だったのかもしれませんが、丁寧に作られた佳作が並んでいます。ミックの実直な一面が垣間見られる一枚でもあるような気がします。
今回の4枚の他にも、彼のソロ楽曲は正式ソロデビュー前の楽曲や映画のサントラなどが幾つか存在します。
不動のベテランでありながらも、マドンナやプリンス、マイケル・ジャクソンといった面々を、おそらくは常にライバル視していた(いや、いまでもしているのかな?)。この孤高のプライドこそがミック・ジャガーなのですが、ストーンズのファンからはどうもソロが過小評価されがち。まあそれだけストーンズが支持を受けているわけですが、私は長年に渡って「何だかかわいそうだなあ」と思っていました。
ミックは今年、心臓の手術を受けましたが、現在は無事完治して、ストーンズのツアーで76歳とは思えぬパワフルさを見せつけています。ストーンズが今日も現役で第一線を走り続けていられる理由は、ミックのプライドと商魂たくましいアンテナとバランス精神、何よりその天才的なパフォーマンスにこそあると私は思います。こうしてあらためて聴くと良い曲や楽しい曲が多いし、ぜひこの機会に彼のソロ作品を楽しんでみてはいかがでしょうか? ではまた!
内田 正樹
エディター、ライター、ディレクター。雑誌SWITCH編集長を経てフリーランスに。音楽をはじめファッション、映画、演劇ほか様々な分野におけるインタビュー、オフィシャルライティングや、パンフレットや宣伝制作の編集/テキスト/コピーライティングなどに携わる。不定期でテレビ/ラジオ出演や、イベント/web番組のMCも務めている。近年の主な執筆媒体は音楽ナタリー、Yahoo!ニュース特集、共同通信社(文化欄)、SWITCH、サンデー毎日、encoreほか。編著書に『東京事変 チャンネルガイド』、『椎名林檎 音楽家のカルテ』がある。