“BeatleDNA”を受け継ぐ“ビートルズ的”な全41曲
あけましておめでとうございます。今年2020年は、ザ・ビートルズのラストオリジナルアルバム『レット・イット・ビー』発表から半世紀、さらにはジョン・レノンの没後40年目となる年です。そんななか、多くの“ツウ”な洋楽ファンから注目されているアルバムがあります。昨年11月27日にソニー・ミュージックジャパンインターナショナルからリリースされた『パワー・トゥ・ザ・ポップ』です。まずは『レット・イット・ビー』なジャケット。もう、むちゃくちゃかわいい! 私は部屋の見えるスペースにケースごと飾っています(笑)。ビートルズのデビューアルバムがリリースされた1963年はウサギ年! こだわりがしっかりと炸裂しています。
ディスク1は70〜80年代に発表された楽曲で構成されていて、ユートピア、エリック・カルメン、エルヴィス・コステロ、ELO、ビリー・ジョエル、ザ・ナック(もちろん曲は「マイ・シャローナ」(笑))、トッド・ラングレン、チープ・トリック、ザ・ラトルズらの楽曲が収録されています。
そしてディスク2は90年代から最近までの楽曲で構成されており、ブラッド・ジョーンズ、マイク・ヴァイオラ、ジェリー・フィッシュ、ベン・フォールズ、ティム・クリステンセン、ザ・ライトニングシーズ、クーラ・シェイカー、オアシスらの楽曲が収録されています。全41曲、2時間34分というボリューミーなコンピレーション盤です。
“BeatleDNA”、“ビートルズ的”な楽曲とは? ご存知の通り、彼らの作風は年代と共に変化しています。例えば独自のコード進行、または、例えば「抱きしめたい」のようなマージーなテイストのロックサウンド、さらには「トゥモロー・ネヴァー・ノウズ」で用いられたループや、後期の「ア・デイ・イン・ザ・ライフ」のサイケなサウンドなど実に様々です。さらにはポールとジョンのソングライターとしての個性、歌い方の違い、ジョージとリンゴの音楽性やプレイの個性、シンセサイザーやメロトロンの画期的な活用など、彼らが残したサウンドマジックには、実に様々な要素で構成されています。
この本作『パワー・トゥ・ザ・ポップ』とは、“ビートルズらしさ”、もっと言えば“ビートル愛”についてのひとつの最適解を表現したコンピレーション盤だと思います。
どの曲も、どこかに「なるほどビートルっぽいわ」と膝を打つ要素を孕んでいます。音楽的なテクニックではなく印象論でざっくりまとめると、私には「どこか甘酸っぱくてわくわくするサウンド」の集合体だと感じられました。気持ち良くて飽きないので、流しっぱなしで延々と聴いていられます。元気な気持ちになるのでドライブでも頻繁にプレイしています。
本作を制作したのはソニー・ミュージックの白木哲也さんと音楽評論家の岩本晃市郎さんです。白木さんは、ブルース・スプリングスティーンやビリー・ジョエル、デヴィッド・ボウイ、ボブ・ディランなど、これまで名だたるビッグ・アーティストを担当してきた洋楽ディレクターであり、サンタナやスライ&ザ・ファミリーストーンなど、アナログのジャケットをとんでもない再現度でCD化させた、数多くの“紙ジャケCD”の生みの親でもあります。私も2001年、ボストンで行ったエアロスミスのインタビューとファッションシューティングという一生モノの経験でお世話になりました。
本作は「BeatleDNA」という、ビートルズのポップな遺伝子を引き継ぐアーティストやバンドを紹介していくシリーズの一環として編まれました。
また、白木さんがインタビューを受けたwebメディア、ENCOUNTのインタビューはこちら。
さらに、発売を記念して特設サイトもオープン。TwitterとFacebookからも制作秘話を読むことができます。収録曲全曲解説や、かわいいウサちゃんジャケの誕生にまつわるストーリーも。併せてぜひご覧ください。
いつもなら幾つかの楽曲のミュージックビデオのリンクを貼るところですが、今回は敢えて貼りません。もちろん、まずはぜひCDで、この曲順のまま、通しで聴いていただきたいからです。
もしかしたら、彼らのキャリアを網羅していないリスナーにとっては、自分が知っている楽曲イコール“ビートルズらしさ”かもしれません。そんな方にとっては、自分にとっての“ビートルズらしさ”や、自分が知らなかった“ビートルズらしさ”を発見する機会となるかもしれません。また、ストリーミング/サブスクリプションの昨今、プレイリストが容易に組めてアップ出来るいまの時代だからこそ、コンピレーション盤はコンセプトが重要です。そうした意味でも、本作は非常に興味深い一作と言えるのではないでしょうか。
ビートルズがこの世に誕生していなかったら、おそらくは生まれなかったはずの全41曲です。アーティストたちのビートル愛と日本人制作チームのビートル愛が溢れまくった『パワー・トゥ・ザ・ポップ』、ぜひチェックしてください。ではまた!
『パワー・トゥ・ザ・ポップ』
DISC1
1 ユートピア / 抱きしめたいぜ
2 パイロット / マジック
3 エリック・カルメン / 恋にノータッチ
4 エルヴィス・コステロ/ ヴェロニカ
5 10cc / 愛ゆえに
6 エレクトリック・ライト・オーケストラ/ 夏の日
7 ビリー・ジョエル / ローラ
8 ザ・ナック / マイ・シャローナ
9 ラズベリーズ / ゴー・オール・ザ・ウェイ
10 ティアーズ・フォー・フィアーズ/シーズ・オブ・ラヴ
11 トッド・ラングレン / 瞳の中の愛
12 チープ・トリック / ヴォイシズ
13 ギルバート・オサリバン/アローン・アゲイン
14 アラン・パーソンズ・プロジェクト / 時は川の流れに
15 バッドフィンガー / 誰も知らない
16 ロイ・ウッド / ディア・イレイン
17 スタックリッジ / ファンダメンタリー・ユアーズ
18 クラトゥ / コーリング・オキュパンツ
19 フライハイト / キーピング・ザ・ドリーム・アライヴ
20 ザ・ラトルズ / チーズ・アンド・オニオンズ
DISC2
1 ブラッド・ジョーンズ / ザ・ブランダーバス
2 オウズリー / カミング・アップ・ローゼズ
3 コットン・メイザー / キャンプ・ヒル・レイル・オペレイター
4 フールズ・ガーデン / ノーザン・タウン
5 マイク・ヴァイオラ / ホエン・アイ・ホールド・ユー・イン・マイ・アームズ
6 L.E.O. / グッバイ・イノセンス
7 ジェリーフィッシュ / ファンクラヴに入るなら
8 インペリアル・ドラッグ / ボーイ・オア・ア・ガール
9 ザ・ナインス / インサニティ
10 ブルウ / クッド・ビー・ワース
11 パグウォッシュ / アンカー
12 ベン・フォールズ / ザック・アンド・サラ
13 ブッチ・ウォーカー / テイスト・オブ・レッド
14 ティム・クリステンセン/ ワンダー・オブ・ワンダーズ
15 ザ・ミスティーズ / ザット・イズ・ノット・ワット・フレンズ・アー・フォー
16 ザ・メリーメーカーズ / モニュメント・オブ・ミー
17 ザ・スポンジトーンズ/オールウェイズ・キャリー・オン
18 ザ・ライトニング・シーズ / スリー・ライオンズ
19 ソンドレ・ラルケ / ユー・ノウ・ソー・ウェル
20 クーラ・シェイカー / シャワー・ユア・ラヴ
21 オアシス / ドント・ルック・バック・イン・アンガー
内田 正樹
エディター、ライター、ディレクター。雑誌SWITCH編集長を経てフリーランスに。音楽をはじめファッション、映画、演劇ほか様々な分野におけるインタビュー、オフィシャルライティングや、パンフレットや宣伝制作の編集/テキスト/コピーライティングなどに携わる。不定期でテレビ/ラジオ出演や、イベント/web番組のMCも務めている。近年の主な執筆媒体は音楽ナタリー、Yahoo!ニュース特集、共同通信社(文化欄)、SWITCH、サンデー毎日、encoreほか。編著書に『東京事変 チャンネルガイド』、『椎名林檎 音楽家のカルテ』がある。