シェイクスピアの晩年を描いた映画「シェイクスピアの庭」 | BRITISH MADE

ブリティッシュ“ライク” シェイクスピアの晩年を描いた映画「シェイクスピアの庭」

2020.03.06

1613年6月29日、自身の戯曲「ヘンリー8世」の上演中に劇場グローブ座が炎上。失意のシェイクスピアは断筆し、故郷ストラトフォード=アポン=エイヴォンに隠遁する。ロンドンに進出後、ほとんど帰宅することがなかったシェイクスピア。妻アンと娘たちは、突如帰宅したシェイクスピアに戸惑いを隠せない。そんな心配をよそに、シェイクスピアは庭造りに没頭する。
本作の主演ならびに監督を務めたのは、ケネス・ブラナーだ。幼少よりシェイクスピアに憧れ、幾度となくその作品に携わってきた。近年は、「オリエント 急行殺人事件」でも監督兼主演を務め、今年公開予定の同じくアガサ・クリスティー作品「ナイル殺人事件」でも監督兼主演を務めるようである。プレーイングマネージャーとしてその存在感を遺憾なく発揮しており、僕が最も注目する英国人俳優だ。本作には、ケネス・ブラナー組と言っても過言ではないほど、彼の勝手知ったるメンバーが揃っている。シェイクスピアの妻アンを演じたのは、過去何度もケネス・ブラナーと共演している名優ジュディ・デンチ。さらに、キャスリン・ワイルダー、ハドリー・フレイザー、ジャック・コルグライブ・ハースト。音楽を担ったパトリック・ドイルに至っては、じつに13作目の共作である。

ケネス・ブラナーは、作品に温かみを持たせたかったとインタビューで言及している。すなわち、この作品は偉大な劇作家シェイクスピアの回顧録というよりは、家族との関係性に悩むシェイクスピアという名の男の物語だ。作品の鍵となるのは、最愛の息子ハムネットの死。そして、残った娘たちとの間に生じる確執。それらに苦慮する姿が重点的に描かれている。立ち止まりながらも家族と向き合おうとする、不器用なシェイクスピアの姿に共感を覚えた。
本作の主演、監督を務めるケネス・ブラナー
本作には、時折舞台を鑑賞しているかのような錯覚に陥る場面がいくつかある。例えば、カメラは基本的にフィックスでドリーやクレーンは用いられていない。芝居に抜きん出た俳優が名を連ねているだけあって、基本的にカメラは その芝居を映しているに過ぎないという風にさえ感じられる。さらに、モノローグのような独特なカットや、台詞を発するまでの間の使い方などがふんだんにあり個性的だ。

特筆すべきは、およそ10分間続く、シェイクスピアとサウサンプトン伯との会話のシーンだ。サウサンプトン伯扮するのは、名優イアン・マッケラン。緊迫感が漂い、叡智溢れる議論。意見に意見を重ねて会話を 構築し、奥行きがもたらされた劇中で最も印象深いシーンだ。
サウサンプトン伯扮するのは、名優イアン・マッケラン
最後に、劇中のシェイクスピアのビジュアルにも触れておきたい。イメージは、 ロンドンナショナルポートレートギャラリーにあるチャンドス肖像画を参考にされている。この肖像画は、実際のシェイクスピアにもっとも近いとされている。我々がよく目にするシェイクスピア像に加え、ハイカラーのシャツ、広い額、特徴的な髭などキャッチーなパーツをうまく取り入れてキャラクターを創造している点に親近感が湧くのである。
ロンドンナショナルポートレートギャラリーにあるチャンドス肖像画 本編はハイカラーのシャツ、広い額、特徴的な髭などキャッチーなパーツをうまく取り入れてキャラクターを構築
僕自身は園芸に造詣が深い訳ではないが、英国のカントリーに滞在すれば、シェイクスピアのように造園に勤しみたくなる気持ちがよくわかる。劇中にてシェイクスピアは、自分と対話し、内面を探れと若者に諭している。こういった環境に身を置き、それに従えば少しは良い文章が書けるようになるものだろうか。
英国カントリーを感じさせるシェイクスピアの造園シーン
『シェイクスピアの庭』
http://hark3.com/allistrue/

公開:2020年3月6日より全国順次公開予定
監督:ケネス・ブラナー
脚本:ベン・エルトン
出演:ケネス・ブラナー、ジュディ・デンチ、イアン・マッケラン、キャスリン・ ワイルダー、リディア・ウィルソン
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Text by Shogo Hesaka


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部坂 尚吾

部坂 尚吾

1985年山口県宇部市生まれ、広島県東広島市育ち。松竹京都撮影所、テレビ朝日にて番組制作に携わった後、2011年よりスタイリストとして活動を始める。2015年江東衣裳を設立。映画、CM、雑誌、俳優のスタイリングを主に担い、各種媒体の企画、製作、ディレクション、執筆等も行っている。山下達郎と読売ジャイアンツの熱狂的なファン。毎月第三土曜日KRYラジオ「どよーDA!」に出演中。
江東衣裳
http://www.koto-clothing.com

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