イギリス映画で棚からひとつかみ 〜映画「ハバナの男」〜 | BRITISH MADE

ブリティッシュ“ライク” イギリス映画で棚からひとつかみ 〜映画「ハバナの男」〜

2020.05.28

ハバナの男
前回に引き続き、自身のアーカイブの中からイギリスに関連する映画を紹介したい。本作は1959年に製作されたイギリス映画だ。グレアム・グリーン原作、キャロル・リード監督、キャストはアレック・ギネス、ノエル・カワードと、どこから話を展開しても話の種に尽きない。

映画の舞台は1958 年、キューバの首都ハバナ。英国諜報員ホーソンは、電気屋の店主ワーモルドをスパイとしてスカウトする。ワーモルドは、愛娘ミリーの将来のためにも金が必要で、この誘いを受諾した。しかし、諜報員としての訓練も経験も持ち合わせないワーモルドは、虚偽の情報をでっちあげて諜報部に流す。その情報に興味を示す諜報部と、その情報をキャッチした別の勢力が働きはじめ、事態はワーモルドの予期せぬ方向へ進んでいく。
突然話が飛躍するが、いずれ元に戻るはずなので許していただきたい。本作の主役を務めるのは英国人アレック・ギネス。「オリヴァ・ツイスト」、「マダムと泥棒」、「アラビアのロレンス」など、代表作は枚挙にいとまがないが、「スター・ウォーズ」の“オビ=ワン・ケノービ”を真っ先に思い浮かべる方も多いのではないだろうか。当の本人はこれを非常に嫌悪しているのが残念であるが…ご存知の通り、オビ=ワンは、スター・ウォーズの主人公アナキン&ルーク・スカイウォーカー親子を支えた重要なキャラクターだ。シリーズ中で最も好きなキャラクターと言っても過言でない。高校生時分、オビ=ワンが好きな余りメールアドレスをobi “one” kenobi とし、のちにスペルを間違えていた大変痛々しい思い出がある。
ノエル・カワード
さて、本作で最も目を奪われたのは、やはりノエル・カワードにおいて他ならない。作家、演出家、俳優等々、多岐に渡ってその才能を発揮した英国人だ。彼のエレガントな服装は、現在に至ってもしばしば雑誌などで取り上げられる。本作のDVD パッケージでは、主演のアレック・ギネスを抑えてメインビジュアルとなっていることが印象深い。常夏のハバナにおいても何食わぬ顔でスーツを纏い、凛とした佇まいだ。さらに、帽子、傘、タイバー、ブートニエール、フォブチェーンという小道具、持ち道具にまで彼の嗜好は行き渡り、徹底的にスタイルが確立されている。いかなる場所や状況であろうとも決してスタイルは変えないという心意気。これこそまさに理想だ。個人的にはジャケットの袖から覗くシャツの長さがやや長く感じられたが、カフリンクスとのバランスを考えた彼の嗜好なのだろう。喋り方や所作にも特徴があり、劇中でもアレック・ギネスに模倣されている場面が面白い。

また、ヒロインである、モーリン・オハラのトレンチコート姿も見事だ。丸みのある襟を立て、ベルトをきつく絞りウエスト位置を高く保っている。強弱をはっきりとつけ、縦のラインを活かしたシルエットだ。これが、気立ての良い彼女のキャラクターとマッチして魅了される。

陽気なキューバのロケーションを活かした序盤の楽観的な空気から、中盤以降は堰を切ったように増す緊張感。主演アレック・ギネスの醸す湿気のないドライなテンション。これらがうまく構成された結果、個性的な雰囲気が漂っている。痛烈な皮肉も盛り込まれている点がいかにも英国的だ。ハバナのバーで、ダイキリと葉巻なんてとても柄ではないが、旅行の欲求を刺激し、ハバナへといざなう映画だ。

Photo&Text by Shogo Hesaka


plofile
部坂 尚吾

部坂 尚吾

1985年山口県宇部市生まれ、広島県東広島市育ち。松竹京都撮影所、テレビ朝日にて番組制作に携わった後、2011年よりスタイリストとして活動を始める。2015年江東衣裳を設立。映画、CM、雑誌、俳優のスタイリングを主に担い、各種媒体の企画、製作、ディレクション、執筆等も行っている。山下達郎と読売ジャイアンツの熱狂的なファン。毎月第三土曜日KRYラジオ「どよーDA!」に出演中。
江東衣裳
http://www.koto-clothing.com

部坂 尚吾さんの
記事一覧はこちら

同じカテゴリの最新記事