ストーンズ、73年のアルバムが未発表曲を加えた新装盤で登場。
しかし暑いですねえ……私はこの夏、2度熱中症になってしまい、いまも体調がちょっとヤバいです……(泣)。読者の皆さまはいかがお過ごしでしょうか。さて、タイトルだけですでに暑苦しく、しかもちょっと怖い響きを持つ『山羊の頭のスープ』は、ザ・ローリング・ストーンズ73年リリースのアルバムです。そこにデモトラックやアウトテイクスといった未発表音源を加えた新装盤が9月4日にリリースされます。
いつ見てもシュールで意味深な外連味のジャケ写です。撮影はイギリスの大御所フォトグラファー、デヴィッド・ベイリーが担当しています。
インナーでは、タイトル通り、ガチの“山羊の頭のスープ”の写真も(こわっ!)。
「スカーレット」は、ギターソロにかのレッド・ツェッペリンのジミー・ペイジ御大が、そしてベースには元ブラインド・フェイスのリック・グレッチが参加しています。70年代に彼がツェッペリン以外でギターを弾いている点でもレアなトラックと言えるでしょう。
この曲のビデオに出演しているのは、アイルランド出身のポール・メスカル。BBCとHuluが制作したドラマ『ふつうの人々』に出演し、9月に開かれる第72回プライムタイム・エミー賞のテレビ映画主演男優賞(リミテッド・シリーズ)の候補にも挙がっている人気俳優です。
※ちなみにストーンズと全く関係ありませんが、俳優の一人芝居&ダンスのビデオと言えば、私、クリストファー・ウォーケンが出演しているこれがいまでも好きなんですよねえ(笑)。
アルバム自体は、『メイン・ストリート〜』や『スティッキー・フィンガーズ』など、いわゆる今日において“傑作”と称えられる作品と比べて、正直、評価はそこまで高くありません。ただ、何と言っても「悲しみのアンジー」は彼らのファンじゃなくても知っている名バラードですし、「ドゥー・ドゥー・ドゥー…(ハートブレイカー)」のような後年ライブでお馴染みとなったナンバーも収録されています。
個人的にはドラキュラがモチーフと言われるネチネチとしたグルーヴの「ダンシング・ウィズ・ミスターD」と、「コンプライアンス? ハラスメント? 何それ美味しいの?」ぐらいのはっちゃけ振りが痛快な「スター・スター」がたまりません。
この頃のストーンズは結構ハプニング続きで、このアルバムのエンジニアがバタバタと病で倒れるわ、翌年に予定されていた初来日がミック・ジャガーの麻薬逮捕歴でおじゃんになるわ、キースのドラッグ常習が悪化して77年に逮捕されるわ(かの有名なトロント裁判)と(まあいつも激動なんですが)かなり慌ただしかったんですね。
それもあって、ミック・ジャガーもキース・リチャーズも、アルバムの仕上がりにはやや悔いが残っていたようなんですが、こうした未発表曲の収録を見ると、人は時の流れでおおらかさせられるのだなあとしみじみ(だって“ビジネス”の一言で片付けてしまうとあまりに夢が無さ過ぎるし(苦笑))。いずれにしても、現代のストーンズとは明らかに違う、当時の“ストーンズらしさ”を味わえる新装盤です。
このアルバムの他にも、“夏のBGM”としてお薦めのストーンズ作品と言えば、レゲエやダブの風味が感じられる『ブラック&ブルー』(76年)と『エモーショナル・レスキュー』(80年)でしょうか。
『山羊の頭のスープ』新装盤のリリースは9月ですが、既存盤や新曲は配信からも聴けますので、ぜひチェックしてください。さらに初来日時のメニューだった『スティール・ホイールズ』ツアーの新映像パッケージも出ますが、その話題はまた別の機会にでも(下記リンクに情報あり)。そしてレコーディング中と言われる待望の新作は果たして!? それではまた!
ザ・ローリング・ストーンズ『山羊の頭のスープ』
(以下はオリジナル盤の収録曲目)
01. ダンシング・ウィズ・ミスターD
02. 100年前
03. 夢からさめて
04. ドゥー・ドゥー・ドゥー…(ハートブレイカー)
05. 悲しみのアンジー
06. シルヴァー・トレイン
07. お前の愛を隠して
08. ウィンター
09. 全てが音楽
10. スター・スター
※マルチ・フォーマットの詳細は下記のレーベル公式ページをご参照ください。
https://www.universal-music.co.jp/rolling-stones/
内田 正樹
エディター、ライター、ディレクター。雑誌SWITCH編集長を経てフリーランスに。音楽をはじめファッション、映画、演劇ほか様々な分野におけるインタビュー、オフィシャルライティングや、パンフレットや宣伝制作の編集/テキスト/コピーライティングなどに携わる。不定期でテレビ/ラジオ出演や、イベント/web番組のMCも務めている。近年の主な執筆媒体は音楽ナタリー、Yahoo!ニュース特集、共同通信社(文化欄)、SWITCH、サンデー毎日、encoreほか。編著書に『東京事変 チャンネルガイド』、『椎名林檎 音楽家のカルテ』がある。