夏にごっくん“山羊の頭のスープ” ザ・ローリング・ストーンズ | BRITISH MADE

BM RECORDS TOKYOへようこそ 夏にごっくん“山羊の頭のスープ”

2020.08.21

ストーンズ、73年のアルバムが未発表曲を加えた新装盤で登場。

しかし暑いですねえ……私はこの夏、2度熱中症になってしまい、いまも体調がちょっとヤバいです……(泣)。読者の皆さまはいかがお過ごしでしょうか。

さて、タイトルだけですでに暑苦しく、しかもちょっと怖い響きを持つ『山羊の頭のスープ』は、ザ・ローリング・ストーンズ73年リリースのアルバムです。そこにデモトラックやアウトテイクスといった未発表音源を加えた新装盤が9月4日にリリースされます。

いつ見てもシュールで意味深な外連味のジャケ写です。撮影はイギリスの大御所フォトグラファー、デヴィッド・ベイリーが担当しています。
山羊の頭のスープ インナーでは、タイトル通り、ガチの“山羊の頭のスープ”の写真も(こわっ!)。
山羊の頭のスープ
今回の新装盤では、アルバム本編の最新ミックスが収められたスタンダード盤をはじめ、完全未発表曲「スカーレット」、「オール・ザ・レイジ」、「クリス・クロス」といった未発表曲やデモ、オルタネイト・ミックスをまとめたデラックス・エディション、さらにライブ作品『ブリュッセル・アフェア』(1973年)のCDや5.1サラウンド音源とプロモーション・ビデオを収録したBlu-ray Discと120ページの豪華本にツアー・ポスターのレプリカなどが同梱されたスーパー・デラックス・ボックスなど全7形態(国内盤)が発売されます。さらに日本盤のスーパー・デラックス・ボックスには、2曲のボーナス・トラックが収録されることも決定しているそうです。

すでに「クリス・クロス」と、「スカーレット」は配信音源とミュージックビデオで先行発表されています。

これらの曲は「オール・ザ・レイジ」も含めて過去に海賊版が出回っていましたが、公式な披露は今回が初めて。リマスターでだいぶ整えてはありますが、やはり当時のストーンズの猥雑さとプレイの荒々しさ(いい意味でのラフさというか雑(苦笑))が匂い立ちます。そして新たに撮影されたミュージックビデオは、いずれもコロナ禍のなかで工夫が凝らされたクリエイティブですね。

「スカーレット」は、ギターソロにかのレッド・ツェッペリンのジミー・ペイジ御大が、そしてベースには元ブラインド・フェイスのリック・グレッチが参加しています。70年代に彼がツェッペリン以外でギターを弾いている点でもレアなトラックと言えるでしょう。

この曲のビデオに出演しているのは、アイルランド出身のポール・メスカル。BBCとHuluが制作したドラマ『ふつうの人々』に出演し、9月に開かれる第72回プライムタイム・エミー賞のテレビ映画主演男優賞(リミテッド・シリーズ)の候補にも挙がっている人気俳優です。

※ちなみにストーンズと全く関係ありませんが、俳優の一人芝居&ダンスのビデオと言えば、私、クリストファー・ウォーケンが出演しているこれがいまでも好きなんですよねえ(笑)。

※あと2016年のKENZOのCMですがこれも楽しかったなー。出演はタランティーノがメガホンをとった『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』でマンソン・ファミリーの一人を演じていたモデルのマーガレット・クアリー。アンディ・マクダウェルとポール・クアリの娘です。

失礼、話を本題に戻します。そもそも『山羊の頭のスープ』は、傑作の2枚組となった『メイン・ストリートのならず者』(72年)をリリースしたストーンズが、ジャマイカで制作に臨んだアルバムでした。とは言え、サウンドはレゲエではなく、ファンクやソウルのテイストで構成されていて、彼らとしては緻密な構成の音作りと言えます。そういう意味では、今回収録される未発表曲(つまり当時の収録ボツ曲)は、前作『メイン・ストリート〜』寄りというか、もしくは次作となる『イッツ・オンリー・ロックンルール』寄りと言えるのかもしれません。

アルバム自体は、『メイン・ストリート〜』や『スティッキー・フィンガーズ』など、いわゆる今日において“傑作”と称えられる作品と比べて、正直、評価はそこまで高くありません。ただ、何と言っても「悲しみのアンジー」は彼らのファンじゃなくても知っている名バラードですし、「ドゥー・ドゥー・ドゥー…(ハートブレイカー)」のような後年ライブでお馴染みとなったナンバーも収録されています。

個人的にはドラキュラがモチーフと言われるネチネチとしたグルーヴの「ダンシング・ウィズ・ミスターD」と、「コンプライアンス? ハラスメント? 何それ美味しいの?」ぐらいのはっちゃけ振りが痛快な「スター・スター」がたまりません。

さらに未リリースのバージョンを収録のボーナスディスクには、名プロデューサー、グリン・ジョンズによる未発表の1973年版ミキシングも収録されているそうで、既存のバージョンとどう印象が異なるのか、気になるところです。

この頃のストーンズは結構ハプニング続きで、このアルバムのエンジニアがバタバタと病で倒れるわ、翌年に予定されていた初来日がミック・ジャガーの麻薬逮捕歴でおじゃんになるわ、キースのドラッグ常習が悪化して77年に逮捕されるわ(かの有名なトロント裁判)と(まあいつも激動なんですが)かなり慌ただしかったんですね。

それもあって、ミック・ジャガーもキース・リチャーズも、アルバムの仕上がりにはやや悔いが残っていたようなんですが、こうした未発表曲の収録を見ると、人は時の流れでおおらかさせられるのだなあとしみじみ(だって“ビジネス”の一言で片付けてしまうとあまりに夢が無さ過ぎるし(苦笑))。いずれにしても、現代のストーンズとは明らかに違う、当時の“ストーンズらしさ”を味わえる新装盤です。

このアルバムの他にも、“夏のBGM”としてお薦めのストーンズ作品と言えば、レゲエやダブの風味が感じられる『ブラック&ブルー』(76年)と『エモーショナル・レスキュー』(80年)でしょうか。

ブラック&ブルー エモーショナル・レスキュー
暑苦しい夏ですが、いっそギラギラとした彼らのロックでも聴いて、より暑苦しく、エネルギッシュに乗り切るのも一興では?(もはや焼肉か青汁のようだ……)。

『山羊の頭のスープ』新装盤のリリースは9月ですが、既存盤や新曲は配信からも聴けますので、ぜひチェックしてください。さらに初来日時のメニューだった『スティール・ホイールズ』ツアーの新映像パッケージも出ますが、その話題はまた別の機会にでも(下記リンクに情報あり)。そしてレコーディング中と言われる待望の新作は果たして!? それではまた!

ザ・ローリング・ストーンズ『山羊の頭のスープ』
(以下はオリジナル盤の収録曲目)
01. ダンシング・ウィズ・ミスターD
02. 100年前
03. 夢からさめて
04. ドゥー・ドゥー・ドゥー…(ハートブレイカー)
05. 悲しみのアンジー
06. シルヴァー・トレイン
07. お前の愛を隠して
08. ウィンター
09. 全てが音楽
10. スター・スター

※マルチ・フォーマットの詳細は下記のレーベル公式ページをご参照ください。
https://www.universal-music.co.jp/rolling-stones/

Text by Uchida Masaki


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内田 正樹

内田 正樹

エディター、ライター、ディレクター。雑誌SWITCH編集長を経てフリーランスに。音楽をはじめファッション、映画、演劇ほか様々な分野におけるインタビュー、オフィシャルライティングや、パンフレットや宣伝制作の編集/テキスト/コピーライティングなどに携わる。不定期でテレビ/ラジオ出演や、イベント/web番組のMCも務めている。近年の主な執筆媒体は音楽ナタリー、Yahoo!ニュース特集、共同通信社(文化欄)、SWITCH、サンデー毎日、encoreほか。編著書に『東京事変 チャンネルガイド』、『椎名林檎 音楽家のカルテ』がある。

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