リンゴ・スター、ストラータ、セレステ。注目の新作を紹介
春ですね。どうやらライブの本格的な開催までにはまだまだ時間を要するようですが、新作のリリースは徐々に活発化を見せています。今回はその中から各々のキャリアやジャンルをアップデートさせる力を持った3枚の新作をピックアップしました。■ リンゴ・スター『ZOOM IN』
まずはリンゴ・スター。これまでにポール・マッカートニーの新作、盛況のうちに幕を閉じたジョン・レノン東京展、8月公開予定の映画『ザ・ビートルズ:Get Back』などのトピックをご紹介してきましたが、その折にも触れていたリンゴの5曲入りEP『ZOOM IN』がリリースされました。リードトラックの「ヒアズ・トゥ・ザ・ナイツ」はゲスト・ヴォーカルにポール・マッカートニーをはじめジョー・ウォルシュ、シェリル・クロウ、コリーヌ・ベイリー・レイ、ビリー・アイリッシュの兄のフィニアス、デイヴ・グロール、ベン・ハーパー、レニー・クラヴィッツら豪華メンバーが参加しています。
3曲目にはドアーズのロビー・クリーガーが参加していて、ちょっとビートルズ+ドアーズな感じのアレンジが聴けます。ロック、ブルース、ポップ、レゲエ(ボブ・マーリー)オマージュ、そして現在住んでいるアメリカ西海岸風味(5曲目。ビートルズ+ビーチボーイズな曲にTOTO風味のギターをまぶした感じ)と、コロナ禍を過ごす彼自身の心境やメッセージをカラフルなエッセンスで鮮やかにまとめ上げています。もちろんドラムも叩いています。5曲入りEPという尺も手伝って、テレワークの合間のひと時にも気軽に楽しめるはず。多くの人に愛されるビートルズ風味とコロナ禍の中も変わらぬリンゴらしさがおおらかにアップデートされた一枚だと思います。
■ ストラータ『アスペクツ』
続いてはストラータ(欧文表記はSTR4TA)の『アスペクツ』です。ちなみに国内盤CDに付属のライナーノーツは沖野修也氏が担当。氏の興味深いエピソードやジャイルズへのzoomインタビューの模様も交えながら、ブリット・ファンクのヒストリーを一望することの出来る秀逸なテキストですので是非とも御一読を。
■ セレステ『ノット・ユア・ミューズ』
最後にご紹介するのはセレステのデビュー・アルバム『ノット・ユア・ミューズ』です。2020年にはBBC Sound Of 2020をはじめ数々の音楽賞を受賞。Netflix公開の『シカゴ7裁判』やピクサーの『ソウルフル・ワールド』(UK版)といった話題の映画にも楽曲提供を行っています。
プロデュースやソングライティングには現在イギリスで引っ張りだこの面々が名を連ねていますのでクリエイターの側面からも最新のUK音楽事情を伺い知ることとの出来る作品ですね。全体的に足し算ではなく引き算というか、決して“盛り過ぎない”組み立てのアレンジセンスも今っぽい。アレサ・フランクリン、ニーナ・シモン、エラ・フィッツジェラルド、コリーヌ・ベイリー・レイ、そしてアデルといった名前にピンと来るなら、きっと気に入ってもらえるシンガーだと思います。
いかがでしょうか。ちなみにこの3枚、先日、渋谷のタワーレコード本店でCDを購入しました。そして文中の通り、アーティストのバイオグラフィーについてはいずれも国内盤CDのライナーノーツを参考にさせていただきました。ストリーミングはもちろん便利ですが、やはりリアルショップの店頭にはリアルだからこその出会いや閃きの楽しさがあるし、フィジカル付属のライナーノーツは多くの情報を与えてもらえるなあとしみじみ。いずれも興味を持っていただけたらうれしいです。それではまた。
*文中のアーティスト/アルバム及び楽曲タイトル表記はいずれも日本盤CDに準じています。
内田 正樹
エディター、ライター、ディレクター。雑誌SWITCH編集長を経てフリーランスに。音楽をはじめファッション、映画、演劇ほか様々な分野におけるインタビュー、オフィシャルライティングや、パンフレットや宣伝制作の編集/テキスト/コピーライティングなどに携わる。不定期でテレビ/ラジオ出演や、イベント/web番組のMCも務めている。近年の主な執筆媒体は音楽ナタリー、Yahoo!ニュース特集、共同通信社(文化欄)、SWITCH、サンデー毎日、encoreほか。編著書に『東京事変 チャンネルガイド』、『椎名林檎 音楽家のカルテ』がある。