帰ってきたガイ・リッチー、映画「ジェントルメン」 | BRITISH MADE

ブリティッシュ“ライク” 帰ってきたガイ・リッチー、映画「ジェントルメン」

2021.04.22

映画『ジェントルメン』
ロンドンの裏社会で財を成したアメリカ人ミッキー・ピアソンが、麻薬ビジネスから撤退し、事業を譲渡するという噂が流れた。およそ500億円にもなる資産をめぐり、ユダヤ人富豪、ゴシップ誌、私立探偵、チャイニーズマフィアなどがミッキーに群がってくる。巨額のビジネスと金は一体誰の手に渡るのか…
「ロック、ストック&トゥー・スモーキング・バレルズ」、「スナッチ」、「リボルバー」など、ガイ・リッチーの初期作品が好きな身としては、久々に彼らしいテイストが前面に押し出されているように感じた。つまり、ガイ・リッチー独特の反社会的勢力の世界を話の軸に置き、その中で起こる事件を追った、泥臭く、血生臭い映画である。対抗勢力が次々に登場し、アクシデントとハプニングの連続。流れるような話の展開で観る者を虜にするのはガイ・リッチーのお家芸だ。しかし、最新作「ジェントルメン」は、過去の模倣に留まる訳ではなく、より洗練された印象が強い。たとえば、その要因となっているのは、主役ミッキー・ピアソンを演じたマシュー・マコノヒーだ。悪玉ではあるが、自分自身の流儀と美学を明確に持ち合わせ、服装とも相まって品性さえ感じさせる。過去の作品にこういったキャラクターは類を見ない。

また、ガイ・リッチーらしさが見受けられる点は台詞にも見られた。中でも印象的なのは以下だ。

“場を支配する者にはそれに相応しい服装が必要だ”

これはジェレミー・ストロング扮するユダヤ人富豪マシューが発した台詞で、まるでガイ・リッチーの美学を象徴するかのようだ。いかにも神経質、かつしたたかで身なりと共によく作り込まれている。本作の衣裳を担当したのはマイケル・ウィルキンソン。「バベル」、「ターミーネーター4」「マン・オブ・スティール」など数々の大作を担当しているコスチュームデザイナーだ。元来ガイ・リッチーはファッションに対する感度が非常に高いことで有名だ。ガイ・リッチー自身も一緒に衣装を選び、ポークパイハットや眼鏡を特注したというエピソードは、キャラクターへの思い入れを感じさせる。同時に、キャラクターを作る上で、衣裳がもたらす重要性を認識していることがうかがえる。そういったことがあいまって、ガイ・リッチー映画に登場するキャラクターには、彼の哲学が根付き、まるで代弁しているように感じるのかもしれない。台詞と装いが綺麗にリンクしているため、台詞が浮いて聞こえずに自然に飲み込めるのだ。
映画『ジェントルメン』 映画『ジェントルメン』
最後に、このコラムではすっかり常連である大好きなヒュー・グラントについても触れたい。ガイ・リッチー作品の出演は「コードネーム U.N.C.L.E」に続いて2作目だ。ドラマ「英国スキャンダル~セックスと陰謀のソープ事件」でもそうだが、近年はベビーフェイスだけではなく、さまざまな役に挑戦し、俳優としてますます円熟味を増している。本作では、下衆な探偵フレッチャーに扮しているが、最初はヒュー・グラントだと気が付かなかったのが正直な感想だ。クールなマシュー・マコノヒーやチャーリー・ハナムとは違った魅力を放ち、しっかりと爪痕を残しているので是非注目いただきたい。

本作は、欲に目がくらんだ外道の末路を描く映画だ。道を踏み外した者には寛容ではないということを明示している。煌びやかなビジュアルと豪華なキャストに目が行きがちだが、それに劣らないメッセージ性の強い優れた作品である。
映画『ジェントルメン』 映画『ジェントルメン』
『ジェントルメン』
5月7日(金)より、TOHO シネマズ 日比谷他全国ロードショー
監督・脚本・製作:ガイ・リッチー
撮影監督:アラン・スチュワート
美術デザイン:ジェンマ・ジャクソン
衣装デザイン:マイケル・ウィルキンソン
編集:ジェームズ・ハーバート、ポール・マクリス
音楽:クリストファー・ベンステッド
出演:マシュー・マコノヒー、チャーリー・ハナム、ヘンリー・ゴールディング、ミシェル・ドッカリー、ジェレミー・ストロング、エディ・マーサン、コリン・ファレル、ヒュー・グラント

2020年|英・米合作|カラー|スコープサイズ| DCP5.1ch 113分|字幕翻訳:松崎広幸|原題: THE GENTLEMEN PG12 配給:キノフィルムズ 提供:木下グループ
配給:キノフィルムズ
©2020 Coach Films UK Ltd. All Rights Reserved.
Text by Shogo Hesaka


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部坂 尚吾

部坂 尚吾

1985年山口県宇部市生まれ、広島県東広島市育ち。松竹京都撮影所、テレビ朝日にて番組制作に携わった後、2011年よりスタイリストとして活動を始める。2015年江東衣裳を設立。映画、CM、雑誌、俳優のスタイリングを主に担い、各種媒体の企画、製作、ディレクション、執筆等も行っている。山下達郎と読売ジャイアンツの熱狂的なファン。毎月第三土曜日KRYラジオ「どよーDA!」に出演中。
江東衣裳
http://www.koto-clothing.com

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