エディンバラからロンドンまでの450マイル(約700キロ)を車で縦断したことがある。物見遊山をしながら一泊したのが、今回紹介する映画『スーパーノヴァ』の舞台である湖水地方だ。分厚い灰色の雲と疎雨。緑色の丘陵に点在する羊の群れ。絵に書いたような牧歌的な風景にうってつけのBGMが Donovanの“Catch the wind”だ。地図とGoogleマップを頼りに湖水地方のウィンダミアを目指した。じつは、先述した自身の旅とまったく同じ光景がこの映画にはあるのだ。鑑賞した際には、目を丸くすると同時に親近感を覚えた。まるで旅のハイライトを切り取ってくれたような気がし、書かずにはいられなかった。 本作は、コリン・ファースとスタンリー・トゥッチがパートナー役で主演を務めるロードムービ ーだ。この2人は、『謀議』に端を発し、『モネ・ゲーム』においても共演、じつに20年来の間柄だ。 「希望峰の風にのせて 」や「キングスマン」でも紹介したコリン・ファースは、もはやこのコラムの常連だ。還暦を迎えても精力的に映画に出演し続け、佳作を連発している。そして、コンビを組むスタンリー・トゥッチはアメリカ人ということもあり、イギリス映画を中心に紹介しているこのコラムではなかなか紹介する機会が少ない新鮮な面々だ。そのような理由もあり、白状すると『プラダを着た悪魔』以降の彼の出演作はアップデートされていなかった。本作の共演が実現した理由として、スタンリー・トゥッチがコリン・ファースを秘密裏にかつ勝手にキャスティングしてきたというユニークなエピソードがある。嘘か実か疑いたくなるような話だが、そういったチャーミングな面と、純粋さ、頑固さ、繊細さがタスカーというキャラクターに宿っていて、コリン・ファースとの芝居の相性が良さそうに感じた。なぜならば、実際に懇意にしているという背景が役柄に落とし込まれ、穏やかな空気が漂っているからだ。本作は基本的に2人の対話を中心に構成されており、とってつけたような会話では説得力に欠ける。即興も混ぜているのではないだろうかと推し測りたくなるカットも時折垣間見た。そして、場が温まったところで、なぜ2人が旅をしているのか、どこへ向かおうとしているのかいうこの映画の肝に触れていくのである。
この作品を監督したのは、俳優でもあるハリー・マックイーン。先述した通り名優2人の距離感を心地良く演出しており、長編2作目にしてすでに個性を発揮している。プロデューサーはアンドリュー・ヘイ監督作品でもお馴染みのトリスタン・ガリハー。撮影監督は、僕の敬慕するマイク・リー監督の相棒と言っても過言でない、ディック・ポープ。彼の撮影した『マザーレス・ブルックリン』は素晴らしかった。この優れたスタッフが屋台骨となり、映画のクオリティをより一層高めている。それが、これまで述べてきた芝居、ロケーション、音楽と作用し合い、統一感を生み、テーマに説得力をもたらすのである。
自身の旅行では、旅程と地図で頭がいっぱいいっぱいだったため、上に煌めく星にはまったく気が付かず、床に就くやいなや熟睡していた。さらに言えば湖水地方に行ったにもかかわらず、まともに湖を見ていない。次回訪れるときは煌めく星もこの目の一緒に収めたい。希望的観測だが、ワクチンが普及されはじめて、少しずつ外出ひいては旅行が自由にできるような気配が漂い始めている。再び車で英国を旅できることを願い、表題は劇中のスタンリーの台詞から拝借した。
自身の旅行では、旅程と地図で頭がいっぱいいっぱいだったため、上に煌めく星にはまったく気が付かず、床に就くやいなや熟睡していた。さらに言えば湖水地方に行ったにもかかわらず、まともに湖を見ていない。次回訪れるときは煌めく星もこの目の一緒に収めたい。希望的観測だが、ワクチンが普及されはじめて、少しずつ外出ひいては旅行が自由にできるような気配が漂い始めている。再び車で英国を旅できることを願い、表題は劇中のスタンリーの台詞から拝借した。
『スーパーノヴァ』
7月1日(木)TOHO シネマズ シャンテ 他 全国順次ロードショー
出演:コリン・ファース『英国王のスピーチ』、スタンリー・トゥッチ『ラブリーボーン』
監督・脚本:ハリー・マックイーン
提供:カルチュア・パブリッシャーズ、ギャガ 配給:ギャガ
原題:SUPERNOVA/2020年/イギリス/カラー/ビスタ/5.1chデジタル/95 分/G/
字幕翻訳:西村美須寿
公式サイト:https://gaga.ne.jp/supernova/
©2020 British Broadcasting Corporation, The British Film Institute, Supernova Film Ltd.
部坂 尚吾
1985年山口県宇部市生まれ、広島県東広島市育ち。松竹京都撮影所、テレビ朝日にて番組制作に携わった後、2011年よりスタイリストとして活動を始める。2015年江東衣裳を設立。映画、CM、雑誌、俳優のスタイリングを主に担い、各種媒体の企画、製作、ディレクション、執筆等も行っている。山下達郎と読売ジャイアンツの熱狂的なファン。毎月第三土曜日KRYラジオ「どよーDA!」に出演中。
江東衣裳
http://www.koto-clothing.com