自分づくりの途中で道を間違えたと気づいたらやり直せばいい~映画『ビルド・ア・ガール』 | BRITISH MADE

ブリティッシュ“ライク” 自分づくりの途中で道を間違えたと気づいたらやり直せばいい~映画『ビルド・ア・ガール』

2021.10.20

ビルド・ア・ガール
“『ブリジット・ジョーンズの日記』の製作陣が携わる映画”というキーワードで想像していたのは、いわゆるドタバタ恋愛コメディだ。近頃はそういった映画を鑑賞していなかったので気負うことなく見始めた。結論としては、予想とは異なる骨のある映画だったので紹介したい。

舞台となるのは1993年、イギリス・ウォルヴァーハンプトン。主人公ジョアンナは、文学、哲学、映画など古典に傾倒し、過去の偉人たちと議論を深める想像力豊かな中学生。裕福ではないが、計7人の個性的な温かい家族と暮らしている。しかし、学校ではうだつが上がらず、詩のスピーチでは大失敗を犯し苛めの標的になってしまう。この環境を変えたいジョアンナは、音楽の名門誌D&MEのライターに応募し、新たに”ドリー・ワイルド”という名でロック評論家としてのキャリアをスタートさせる。出だし好調なドリーだったが、特集記事で失敗し袋小路に入る。彼女は、本来志した文章のスタイルを捨て、辛辣なコラムニストへと変貌することで富と名声を集めるが、その代償として大きな落とし穴が待ち受ける。
本作の重要な鍵として挙げられるのは音楽だ。とりわけ、ジョアンナが初めての取材で訪れたライブハウスで待ち受けていたのはロックいう衝撃だ。彼女の想像をかきたてる起爆剤となり、大きな影響を与える。ライブハウスという存在から疎遠になってすでに数十年が経つが、自身もジョアンナと同様、高校生のときに初めて足を踏み入れた地元のライブハウスではその熱気や音量に驚き、ミュージシャンとオーディエンスが一体化する感覚を覚えた。そういえば、以前はエレキギターを背負った青年をよく見かけたが、近頃は久しくそういった姿を見かけなくなった気がしてならない。

劇中にはさまざまなジャンルの音楽が流れるが、とりわけ多いのはライブハウスでの演奏シーンだ。監督のコーキー・ギェドロイツは、スクリーンを通してもライブの臨場感が表されることの重要性を説き、音楽のクオリティまで追求した。劇中の設定は90年代だが、編成形態は3ピースや4ピースが多く騒々しくはあってもシンプルな音で、2000年代のガレージロックリヴァイヴァルも想起させた。自身は残念ながらジョアンナのようにUKロックに心酔することはなかったが、レディオヘッド、リバティーンズなどその時代を象徴するバンドが頭をよぎった。同年代に一世風靡したビョークの登場もあいまって、最も音楽に情熱と時間を注ぎ、ジャンルに囚われることなくありとあらゆる音楽を聞いた自身の大学生時分を思い返しノスタルジックな気分になった。
ビルド・ア・ガール ビルド・ア・ガール
本作では2人の良識ある大人がジョアンナを導く。1人目は、ジョアンナが取材対象として出会うミュージシャン、ジョン・カイト(アルフィー・アレン)だ。彼との出会いによって、空想に生きていたジョアンナは初めて恋をする。自身とはまったく異なる道を歩んだ年上の男性に虜になってしまった彼女はここでまた一つの壁にぶつかり成長をする。2人目は、イギリスが誇る名優エマ・トンプソン演じるアマンダ・ワトソン。この作品には稀有な成熟した女性だ。わずかな出演時間な上に台詞が限られている。にも関わらず、説得力ある会話で早々にジョアンナを包み込んでしまう。彼らは、揺らぐ若者にそっと手を差し伸べるメンターだが、ある種のエンジェル的な不思議な存在感を持っている。本作の中で最も印象深く愛着が持てるキャラクターだ。
ビルド・ア・ガール ビルド・ア・ガール
本作の展開は王道だが、軽薄な青春群像劇には感じさせない力があった。なぜならばジョアンナの成長に説得力があるからだ。小細工なし、猪突猛進型のド根性モノ。今の時代にはそぐわない表現なのかもしれないが、ジョアンナのそういった純粋さや、ひたむきな姿勢に共感を覚えた。また、古典に救いを求め、高い教養を持ち合わせている点も魅力を感じる。粗削りだが、必要なものと不必要なものの判断を己でし、道に迷っても戻ってきたらいい、挑戦を続けるべきだという強いメッセージが込められている。行き詰まったり、燻る10代に鑑賞していただきたい映画だ。

『ビルド・ア・ガール』
公式サイト:https://buildagirl.jp/
10/22(金)より新宿武蔵野館ほか全国ロードショー
原作:キャトリン・モラン著「How to Build a Girl」
脚本:キャトリン・モラン
監督:コーキー・ギェドロイツ
製作:アリソン・オーウェン『ウォルト・ディズニーの約束』『エリザベス』、デブラ・ヘイワード『レ・ミゼラブル』 『ブリジット・ジョーンズの日記』シリーズ
出演:ビーニー・フェルドスタイン、パディ・コンシダイン、サラ・ソルマーニ、アルフィー・アレン、フランク・ディ レイン、クリス・オダウド、エマ・トンプソン
コピーライト:© Monumental Pictures, Tango Productions, LLC, Channel Four Television Corporation, 2019
配給:ポニーキャニオン、フラッグ
提供:フラッグ、ポニーキャニオン
原題:『How to Build a Girl』 2019 年/イギリス/英語/105 分/DCP/アメリカンビスタ/カラー/5.1ch/R-15
Twitter:https://twitter.com/buildagirl_jp/ #ビルド・ア・ガール
Instagram:https://www.instagram.com/buildagirl_jp/ #ビルドアガール
Text by Shogo Hesaka


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部坂 尚吾

部坂 尚吾

1985年山口県宇部市生まれ、広島県東広島市育ち。松竹京都撮影所、テレビ朝日にて番組制作に携わった後、2011年よりスタイリストとして活動を始める。2015年江東衣裳を設立。映画、CM、雑誌、俳優のスタイリングを主に担い、各種媒体の企画、製作、ディレクション、執筆等も行っている。山下達郎と読売ジャイアンツの熱狂的なファン。毎月第三土曜日KRYラジオ「どよーDA!」に出演中。
江東衣裳
http://www.koto-clothing.com

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