コロナ禍に届いた二つのロックダウン・セッションズ | BRITISH MADE

BM RECORDS TOKYOへようこそ コロナ禍に届いた二つのロックダウン・セッションズ

2021.11.15

エルトン・ジョン。エリック・クラプトン。それぞれのコロナ禍

日本はやや落ち着きを取り戻したもののロシアは厳しい状況と各国一進一退を繰り返しているコロナ禍の状況ですが、北米ではウィズ・コロナという考え方での経済活動の再開と足並みを揃えるかのように大型のフェスやツアーも始まりました。ツアー開始直前にチャーリー・ワッツを失ったザ・ローリング・ストーンズもその悲しみを振り払うように精力的なツアーを続けています。そんななか、今回はコロナ禍のなか生まれた二作のロックダウン・セッションをご紹介します。

エルトン・ジョン『ロックダウン・セッションズ』

まずは10月22日リリースのエルトン・ジョン『ロックダウン・セッションズ』。エルトン・ジョンがコロナ禍のなか豪華アーティストたちとコラボした(※未発表の最新曲10曲を含む)全16曲が収録されています。

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参加アーティストはブランディ・カーライル、チャーリー・プース、以前も紹介したデュア・リパ、エディ・ヴェダー、ゴリラズ、リル・ナズ・X、 マイリー・サイラス、ニッキー・ミナージュ、リナ・サワヤマ、SGルイス、 スティーヴィー・ニックス、スティーヴィー・ワンダー、サーフェシズ、 イヤーズ&イヤーズ、やはり先頃アルバムをリリースしたばかりのヤング・サグなどなど、自身と同じような大御所からホットな若手、フレッシュな才能までが勢揃いといった様相です。

たまたまエルトンのLAの自宅の三軒先に住んでいたというチャーリー・ブースとの出会いをきっかけに、リモートを駆使して生まれたというセッションはいずれもエルトンならではの美しいメロディとエネルギッシュなボーカルに溢れています。

74歳にしてこのエネルギーと最新の音楽シーンの目配せと社交性。頭が下がります。多才なメンツの多彩な曲が揃った本作は全英チャート1位に輝きました。

11月10日には長年に渡る芸術、科学、医学、政府への大きな貢献を認められ、ウェールズ公チャールズ皇太子直々にコンパニオン・オブ・オナー勲章を授与されたエルトン・ジョン。18年にツアー活動からの引退(※音楽活動は継続)を表明し、その後、完走まで3年掛かりとも言われるフェアウェル・ツアーに出ていましたが、コロナ禍で延期になったスケジュールも含めてツアーは今後も継続の模様です。グッチの全面協力でも話題のこのツアー、コロナ禍が無かったら間違いなく日本公演もあると踏んでいたのですがはてさて。来年以降、ぜひ実現してほしいものです。

エリック・クラプトン『ザ・レディ・イン・ザ・バルコニー:ロックダウン・セッションズ』

もう一作はエリック・クラプトン。やはりタイトルも同じく『ザ・レディ・イン・ザ・バルコニー:ロックダウン・セッションズ』です。

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今年2月、彼は5月に予定していた恒例ロイヤル・アルバート・ホールでのライブをコロナ禍のためにキャンセル。ロックダウンの中、自分は、そしてミュージシャンは何が出来るのかと考えた彼は旧知のメンバー(*クリス・スティントン、ネイザン・イースト、スティーヴ・ガット。いずれも達人です(笑))を集め、無観客でのアコースティックでのライブを行いました。

この模様は映像作品『エリック・クラプトン ロックダウン・セッションズ』として、日本でも先月から劇場公開中です(※全国順次、期間限定にて)。

そしてCDや配信音源と共にDVD&Blu-rayもすでに『ザ・レディ・イン・ザ・バルコニー/ロックダウン・セッションズ』としてリリースされています。映画版とタイトルが微妙に違う理由は編集が異なるため。音源版やDVD&Blu-ray版では劇場公開版よりも3曲多く収録されています。

クラプトンのアンプラグドといえばやはり「ティアーズ・イン・ヘヴン」、「いとしのレイラ」収録の92年リリース『アンプラグド~アコースティック・クラプトン』が思い出されますが、本作はまたそれとは異なる、プライベート感の強い趣です。個人的に驚かされたのはフリートウッド・マックの「ブラック・マジック・ウーマン」でした。

サンタナのバージョンで広く知られる名曲ですが「クラプトンがやるとこうなるのかー!」といちブルースファンとしては静かに興奮させられました。他に前述の「ティアーズ・イン・ヘヴン」、「いとしのレイラ」もプレイしています。

そして音源の終盤3曲ではエレクトリックプレイも披露。クラプトンはストーンズやビートルズの面々と同じように、ブルースというアメリカの黒人音楽にシビれたイギリスの白人として、それを独自に追求、血肉化してきたわけですが、こうしてあらためて聴くと、やはりつくづくブルースマンとしてとんでもない未踏の領域まで辿り着いたものだなあと感嘆します。これまでの彼の歩みを振り返れば、もちろんブルースを抱え続けるということはクラプトンにとって決して万事ハッピーというわけではないのですが、それでもやはりまだまだブルースを奏でてほしいものです。

ギターの神様やスローハンドといった二つ名でも知られるエリック・クラプトンですが、数年前にはロックやギターミュージックがヒップホップやEDMの人気に押され続ける状況を見て「ロックギターの時代はもうおしまい」といった主旨の発言でファンを驚かせました。コロナ禍に入ってからはヴァン・モリソンと反マスク着用/反ロックダウンのシングル「スタンド・アンド・デリバー」を発表。その後、6月にも「ザ・レベルズ」をリリースしています。

今年7月には英ジョンソン首相がコンサートの聴衆に予防接種を要求したことに対して「差別された聴衆がいるステージでは演奏しない」と表明するなど、反ロックダウン、反ワクチン接種のスタンスが話題となっています。正直、ワクチンを接種した自分としては複雑な思いもあるのですが、この辺りは人それぞれの主義主張があって然るべきだと思います(私も何の不安もナシに打ってもらったわけじゃありませんから)。今後の動向も気になるところですが、本作を聴くとやはりシンガーソングライターとしてもブルースマンとしても無二の名手だなあと思います。

極めて社交的かつ今日的な作品と、あくまでプライベート感の強い作品。ベテランの対象的な二作のロックダウン・セッションズ、ぜひチェックしてください。より安心してライブを楽しめる日の訪れを願って。それではまた。

エルトン・ジョン『ロックダウン・セッションズ』(ユニバーサル)
https://www.universal-music.co.jp/elton-john/products/uicy-16027/

エリック・クラプトン『ザ・レディ・イン・ザ・バルコニー:ロックダウン・セッションズ』(ユニバーサル)
https://www.universal-music.co.jp/eric-clapton/

劇場上映版『エリック・クラプトン ロックダウン・セッションズ』
https://www.universal-music.co.jp/ericclapton-lockdownsessions/

Text by Uchida Masaki


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内田 正樹

内田 正樹

エディター、ライター、ディレクター。雑誌SWITCH編集長を経てフリーランスに。音楽をはじめファッション、映画、演劇ほか様々な分野におけるインタビュー、オフィシャルライティングや、パンフレットや宣伝制作の編集/テキスト/コピーライティングなどに携わる。不定期でテレビ/ラジオ出演や、イベント/web番組のMCも務めている。近年の主な執筆媒体は音楽ナタリー、Yahoo!ニュース特集、共同通信社(文化欄)、SWITCH、サンデー毎日、encoreほか。編著書に『東京事変 チャンネルガイド』、『椎名林檎 音楽家のカルテ』がある。

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