『Toy』、その今もなお色褪せない魅力
2016年の1月6日にこの世を去ったデヴィッド・ボウイ。最近、ボブ・ディランやブルース・スプリングスティーンなど大物アーティストの音楽著作権売却のニュースが相次いでいましたが、先頃、ボウイの全音楽カタログも彼の遺族によってワーナー・チャペル・ミュージック(ワーナー・ミュージック・グループ傘下の音楽著作権管理会社)におよそ2億5000万ドル(日本円で約290億円)で売却が決まったというニュースが報じられました。さて、今年の1月8日はボウイの生誕75周年記念日です。
レコーディングメンバーはマーク・プラティやスターリング・キャンベル、ゲイル・アン・ドロシー、アール・スリック、マイク・ガーソンなど過去にも彼とレコーディングやライブを共にしてきた面々。互いに顔を見合わせながら、自身が60〜70年代に書いたレア楽曲の再レコーディングを行い、そのベストテイクから編まれたとのこと。
(ありがちな事に)逝去後さらに評価が高まっている感のあるボウイですが、実は64年のデビューから暫くの間、セールスに恵まれなかった、言わば試行錯誤の時期がありました。この『Toy』の収録曲はその当時に書かれた楽曲も含まれています。『ジギー・スターダスト』や『スペース・オディティ』といったコンセプチャルな作品でロックスターとして開花し、シングル「レッツ・ダンス」でポップなヒットも手中に収め、以降もカメレオンのように様々なアプローチを見せてきたボウイが、かつての仲間と共に当時の実力で再レコーディングを行ったのが『Toy』でした。自身のキャリアを振り返ろうというその姿勢は1曲目の「I Dig Everything」という曲のタイトルにも表れています。
改めて聴いてみると、いやこれ素晴らしいじゃないですか。貫禄のあるヴォーカル。シブくも多彩なアプローチ。これが何で当時お蔵入りになったの!?と首を傾げてしまいますが。もしかするといま聴いた方がフィットするという考え方も出来るっちゃ出来ますがまあそれは結果論。とにかくいま聴いても全く古さを感じさせないサウンドです。CDは3枚組『Toy: Box』というタイトルで、本編のミックスやバージョン違いが収録され、スペシャル・エディションも用意されています。
ボウイのフィジカルリリースでは他にも1992年から2001年の間にリリースされたアルバムに『Toy』と当時日本盤のリリースがなかった『郊外のブッダ』を含む5作の最新リマスター盤に加え、2000年のライヴアルバムやアルバム未収録曲、別ヴァージョン、Bサイド曲を収録したコンピレーション作品『RE:CALL 5』がコンパイルされた『ブリリアント・アドヴェンチャー[1992-2001] [11CD+ハードカヴァー・ブック]<完全生産限定盤>』もリリースされています。下記は『郊外のブッダ』のリンクです。
また1971年リリースの『ハンキー・ドリー』発売50周年を記念した限定盤ピクチャー・ディスクもリリースされています。下記は収録曲「チェンジズ」のオルタナティヴ・ミックスです。
1月21日からは、『ヒーザン』、『リアリティ』、『ザ・ネクスト・デイ』、生前最後のオリジナルアルバムとなった『★(ブラックスター)』など2000年以降のボウイのカタログが盟友トニー・ヴィスコンティの手よってソニーの立体音響技術 360 Reality Audioの最新フォーマットでリミックスされ、Amazon Music Unlimited、Deezer、Tidalで配信されるそうです。
内田 正樹
エディター、ライター、ディレクター。雑誌SWITCH編集長を経てフリーランスに。音楽をはじめファッション、映画、演劇ほか様々な分野におけるインタビュー、オフィシャルライティングや、パンフレットや宣伝制作の編集/テキスト/コピーライティングなどに携わる。不定期でテレビ/ラジオ出演や、イベント/web番組のMCも務めている。近年の主な執筆媒体は音楽ナタリー、Yahoo!ニュース特集、共同通信社(文化欄)、SWITCH、サンデー毎日、encoreほか。編著書に『東京事変 チャンネルガイド』、『椎名林檎 音楽家のカルテ』がある。