恋人は"イギリス訛り"のアンドロイド~映画『アイム・ユア・マン』| BRITISH MADE

ブリティッシュ“ライク” 恋人は“イギリス訛り”のアンドロイド~映画『アイム・ユア・マン』

2022.01.24

恋人は
今回紹介する『アイム・ユア・マン 恋人はアンドロイド』は人間とアンドロイドの関係性を描いた映画だ。副題からご察しいただける通り、色恋沙汰まで明示されているのが関心を引く。“SF”とカテゴライズされる作品は数多あるが、AIやアンドロイドとの恋愛を描いた作品となるとそう多くない。近年では、人工知能OSとの叶わぬ恋を描いた『her / 世界でひとつの彼女』が最も印象的だ。人工知能やアンドロイドの成長は著しく、さまざまな身の回りの物に取り入れられている。まだまだ発展し、将来的には重要なライフラインと化す可能性が高い。発展途中であるアンドロイドの可能性に想像を膨らませ、映画の題材として扱われてもなんら不思議ではない。
僕ならば主人公アルマと同様に、アンドロイドとの恋愛どころか普通のコミュニケーションですら違和感を覚えるに違いない。対人の場合は相手のことを読みながら距離を縮めていくが、対アンドロイドの場合はどう探っていけばいいのだろうか。相手は表情や反応などからビッグデータをもとに計算し答えを導き出す。知らず知らずのうちに相手のペースにのせられてしまうのではないかといった邪推をしてしまう。そういった不安をアルマ役のマレン・エッゲルトから感じられ共感できた。そもそもアンドロイドには、距離感を縮めるといった煩わしさもなければ、生理的に受け付けないといった心情がないはずだ。ただパートナーに寄り添うようにプログラミングされているのだが、その寄り添ってくる姿に甲斐甲斐しさや健気さを感じ、まるで感情が入っているかのように錯覚を起こすのが面白いところでもあり、恐ろしい点でもある。劇中でアンドロイドをパートナーにするのはアルマだけでない。さまざまな人物のシチュエーションが登場し、僕やアルマのようなネガティブではなく、ポジティブに捉えているキャラクターも多い。アンドロイドへの価値観はそれぞれ異なり、三者三様であるのが興味深い。

本作はベルリンを舞台にしたドイツの映画だ。しかし、以前紹介した『ブライズ・スピリット~夫をシェアしたくありません!』ですっかり魅了された英国人俳優ダン・スティーヴンスが出演していることもあり、この場で紹介した。人間らしいがどこか人間とは違う独特な表情や立ち居振る舞いを巧みに表現しており、本作でもその存在を遺憾なく発揮している。何を考えているのか皆目見当がつかない表情かと思えば、作られたようなキラースマイルが飛び出す。中でも、切れ味鋭い真顔のダンスとバグが起きた様子は笑っていいものかどうか面食らう。“イギリス訛りのドイツ語を話すエキゾチックなアンドロイド”という設定は、ケンブリッジ卒な上にフランス語、ドイツ語も堪能な才色兼備のダン・スティーヴンスの当て書きではないだろうか。また、アキ・カウリスマキ作品にも出演しているザンドラ・ヒュラーの存在感も見逃せない。無表情さはそこで培われたのかはわからないが、役柄に見事にフィットしている。彼女の存在にも注目いただきたい。
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便利な世の中になるのはありがたいことだが、これ以上の豊かさが本当に必要なのかは訝しい。アンドロイドを管理するのは人間なのかAIなのか。軍事利用やサイバーテロによる暴走はしないのか。そんなことを考えだせば終わりがなく、この映画の中にそう遠くない未来があるような気がして鑑賞後もしばらく考えられずにはいられなかった。人間がこれからアンドロイドとどう共存していくのかという可能性を示唆した興味深い映画である。

『アイム・ユア・マン 恋人はアンドロイド』
https://imyourman-movie.com/
1月14日(木)新宿ピカデリー、Bunkamuraル・シネマほか全国ロードショー
出演:マレン・エッゲルト、ダン・スティーヴンス、ザンドラ・ヒュラー
監督、脚本:マリア・シュラーダー
2021年|ドイツ映画|ドイツ語|107分|英題:Iʼm your man|
日本語字幕:金澤荘子
後援:ゲーテ・インスティトゥート東京
提供:ニューセレクト
配給:アルバトロス・フィルム
テキスト協力:落合有紀
デザイン:大寿美トモエ
© 2021, LETTERBOX FILMPRODUKTION, SÜDWESTRUNDFUNK imyourman-movie.com not for sale
Photo&Text by Shogo Hesaka


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部坂 尚吾

部坂 尚吾

1985年山口県宇部市生まれ、広島県東広島市育ち。松竹京都撮影所、テレビ朝日にて番組制作に携わった後、2011年よりスタイリストとして活動を始める。2015年江東衣裳を設立。映画、CM、雑誌、俳優のスタイリングを主に担い、各種媒体の企画、製作、ディレクション、執筆等も行っている。山下達郎と読売ジャイアンツの熱狂的なファン。毎月第三土曜日KRYラジオ「どよーDA!」に出演中。
江東衣裳
http://www.koto-clothing.com

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