物語は1924年3月のマザリングサンデー。ニヴン家のメイドとして従事するジェーン・フェアチャイルドは、孤児院出身で寄る辺なく、帰郷する場所はない。屋敷で読書を楽しむつもりだったが、隣家の御曹司ポールから呼び出される。英国中のメイドたちが帰郷するこの日、ジェーンのマザリングサンデーがはじまる。
本作の中心となるのは、ジェーンを演じるオデッサ・ヤングと、ポールを演じるジョシュ・オコナーだが、彼ら以外にも魅力的な俳優がずらりと並んでいる。ジェーンが奉公するニヴン夫妻役を演じるのは名優コリン・ファースとオリヴィア・コールマンだ。このコラムで一体全体何度登場するのかというくらい常連のコリン・ファースは、斜陽の貴族を演じる原作のゴドフリー・ニヴンのイメージに近い。彼は、第一次世界大戦で子供2人を相次いで亡くしても恭しく、毅然とした態度を保とうとしている。しかし、その表情や背中から虚無感や哀愁が垣間見え、戦争で悲惨な経験をした英国の傷が癒えていないことがよくわかる。それでも社会の模範となるよう振る舞うべきだという社会的責任、ある種の貴族の性である“ノブレス・オブリージュ”を感じさせるのである。そんな夫に業を煮やし、惰性な上流社会に辟易する妻クラリー・ニヴンも、子供たちの死の悲しみから立ち直れていない。戦争の爪痕は夫婦関係にも甚大な影響を及ぼしている様子がなんともいたたまれない。その深い溝を表現している2人の芝居は必見であると同時に、その夫婦を俯瞰するジェーンの目と心情が見どころだ。
『帰らない日曜日』
https://movies.shochiku.co.jp/sunday/
監督:エヴァ・ユッソン『バハールの涙』
製作:エリザベス・カールセン、スティーヴン・ウーリー『キャロル』
原作:グレアム・スウィフト「マザリング・サンデー」(新潮クレスト・ブックス)
2021年|イギリス|104分|英語|カラー|5.1ch|R-15|原題:Mothering Sunday|日本語字幕:牧野琴子|後援:ブリティッシュ・カウンシル
©CHANNEL FOUR TELEVISION CORPORATION, THE BRITISH FILM INSTITUTE AND NUMBER 9 FILMS SUNDAY LIMITED 2021
配給:松竹
部坂 尚吾
1985年山口県宇部市生まれ、広島県東広島市育ち。松竹京都撮影所、テレビ朝日にて番組制作に携わった後、2011年よりスタイリストとして活動を始める。2015年江東衣裳を設立。映画、CM、雑誌、俳優のスタイリングを主に担い、各種媒体の企画、製作、ディレクション、執筆等も行っている。山下達郎と読売ジャイアンツの熱狂的なファン。毎月第三土曜日KRYラジオ「どよーDA!」に出演中。
江東衣裳
http://www.koto-clothing.com