英国版ローカル路線バス乗り継ぎの旅 映画『君を想い、バスに乗る』 | BRITISH MADE

ブリティッシュ“ライク” 英国版ローカル路線バス乗り継ぎの旅 映画『君を想い、バスに乗る』

2022.06.02

英国版ローカル路線バス乗り継ぎの旅 映画『 君を想い、バスに乗る 』
グレートブリテン島の最北端に位置するスコットランドのジョン・オ・グローツから、イングランド最西端に位置するランズ・エンド岬まで、その距離およそ800マイル(1300km)をバスだけを乗り継いで目的地に向かう壮大な旅。このキャッチフレーズを聞いたときに、かつてスコットランドの首都エディンバラからイングランドの首都ロンドンまでの450 マイル(約700キロ)を車で縦断した旅のことを思い出した。そのおよそ倍の距離をしかもバスだけで向かうとなると想像するだけで骨が折れる。反面、いうならばこの英国版ローカル路線バス乗り継ぎの旅になんとも言えぬ興奮と高揚を覚えた。しかも旅をするのは90歳の老人である。

主人公トムは、亡くなった妻メアリーとかつて住んだランズ・エンドを目指し、わずかな路銀、フリーパス、年季の入った革のスーツケースを片手にバスに乗り込む。若かりしころに立ち寄った場所を辿りながら、亡き妻との思い出を回顧する。紆余曲折しながらも悲願を成就するため、老骨に鞭打ちながら歩を前へ進めていく。そんな彼のがむしゃらな姿に共感を覚える人たちとの出会いが功を奏し、思いもよらぬラストを迎えるのである。
本作の主演は英国屈指のバイプレーヤーであるティモシー・スポールだ。仏頂面が特長的で、彼の出演作はほとんど鑑賞しているほど好きな役者だ。『ハリー・ポッター』シリーズなどでなじみのある方も多いだろう。以前紹介した『輝ける人生』や、『人生は、時々晴れ』、『バキューミング』など大作では脇役をこなし、小さな作品では個性的な主演を演じている印象が強い。直近では、英国ドラマ『 ハットンガーデンの金庫破り』での存在感も秀でていた。本作でもトムという頑固一徹なキャラクターを演じきっている。注目すべきは、ティモシー・スポール自身は65歳だが、トムの設定は90歳という点だ。メイクアップのクリスティーン・カントとティモシーの芝居の力でトム という人物像を作り上げ、特殊メイクは一切なされていない。25歳の差を埋める豊かな表現力は驚異的でまったく変幻自在だ。監督のギリーズ・マッキノンは、ティモシー・スポールの撮影に入るまでの取り組みや姿勢、さらには厳しいスケジュールの中ほぼ1~2テイクで撮影を決めていく姿を絶賛している。
英国版ローカル路線バス乗り継ぎの旅 映画『 君を想い、バスに乗る 』
英国版ローカル路線バス乗り継ぎの旅 映画『 君を想い、バスに乗る 』
たとえば350マイル(約560km)離れた兄のもとをトラクターで訪れるデヴィッド・リンチの『ストレイト・ストーリー』など、老人が壮大な旅に出かけること自体はさして珍しい題材ではない。しかし、なぜ彼が行く先々で熱烈な歓迎を受けたのか。もちろんトムの善行も間違いないのだが、その彼の立ち居振る舞いを見逃さずSNSに投稿する人々が鍵になりメディアを巻き込んで盛り上げを見せたことは否めない。こういった展開はオリジナリティに溢れていて、古典的な旅と現代的なSNSが織りなす魅力的な映画になっている。
英国版ローカル路線バス乗り継ぎの旅 映画『 君を想い、バスに乗る 』
英国版ローカル路線バス乗り継ぎの旅 映画『 君を想い、バスに乗る 』
旅にアクシデントはつきものだ。必ずしもいいことばかりが続く訳ではない。一筋縄でいかぬからこそ旅は面白くもなり、安直な道を選択しないからこそ物語が生まれる。本作はあらためて旅の魅力を表現すると同時に、旅に出たい欲求を見事に刺激してくれた。鑑賞後にはどんなルートを辿ればトムと同じ旅ができるのかを調べずにはいられなかった。

『君を想い、バスに乗る』
https://kimibus-movie.jp/
2022年6月3日(金)~ シネスイッチ銀座ほか全国順次公開
監督 ギリーズ・マッキノン
出演 ティモシー・スポール フィリス・ローガン ほか
原題:The Last Bus 日本語字幕:大城哲郎
2021年|イギリス|86分|英語|カラー|シネスコ|DCP5.1ch
後援:ブリティッシュ・カウンシル 配給: HIGH BROW CINEMA
© Last Bus Ltd 2021
Photo&Text by Shogo Hesaka


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部坂 尚吾

部坂 尚吾

1985年山口県宇部市生まれ、広島県東広島市育ち。松竹京都撮影所、テレビ朝日にて番組制作に携わった後、2011年よりスタイリストとして活動を始める。2015年江東衣裳を設立。映画、CM、雑誌、俳優のスタイリングを主に担い、各種媒体の企画、製作、ディレクション、執筆等も行っている。山下達郎と読売ジャイアンツの熱狂的なファン。毎月第三土曜日KRYラジオ「どよーDA!」に出演中。
江東衣裳
http://www.koto-clothing.com

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