以前このコラムで紹介したことがあるので重複する部分もあるが、ハリー・パーマーはジェームズ・ボンドやエグジーのような超人的スパイではなく、わりと現実的なスパイだ。そもそもは『007』へのアンチテーゼに端を発し、もはや知らない者はいない『キングスマン』にも強い影響を与えている。そのハリーがなぜ特別諜報機関W.O.O.C.に属することになったのか。映画版では描かれなかったその過去にも触れ、彼の人物像を丁寧に描いている。
ハリー・パーマーの代名詞と言えば眼鏡だ。眼鏡をかけたスパイなど稀有な存在だったが、本作をもってその歴史を塗り替えた。映画版では、「Curry & Paxton」の“Yvan”をかけていたが、この眼鏡がジョー・コールに合わなかったという理由から、ドラマ版では「CUTLER AND GROSS」の”0692”に変更されている。従来使用していたものをそのまま踏襲することはよくあることだ。だが安易に流れてしまわず、あえて壊し、0から新たな像を作り上げたという挑戦的な姿勢は素晴らしいことだ。非常に勇気がいることであり、制作スタッフの意気込みを感じた。
主人公ハリーや華やかなジーン(ルーシー・ボイントン)に目がいきがちだが、彼ら以外のスパイが欠かすことのできない存在となっている。諜報機関のボスである、ドルビー(トム・ホランダー)は無論のこと、なかでも好きなのは、アリスという寡黙なベテランスパイを演じたアナスタシア・ヒルだ。事務や伝達係かと思いきや恐るべきスキルを発揮し、いぶし銀な相棒チコ(ジョシュア・ジェームズ)と共に痺れるような活躍でハリーを助ける。彼女の過去のエピソードしかり、終わってみれば本作随一の思い入れがあるキャラクターになったほどだ。
『ハリー・パーマー 国際諜報局』
https://ex.star-ch.jp/special_drama/zMko6
【脚本・製作総指揮】ジョン・ホッジ(『トレインスポッティング』)
【製作総指揮】ウィル・クラーク(『ホイットニー ~オールウェイズ・ラヴ・ユー~』)
【監督・製作総指揮】ジェームズ・ワトキンス(『ブラック・ミラー』)
【出演】ジョー・コール、ルーシー・ボイントン、トム・ホランダー、アシュリー・トーマス、ジョシュア・ジェームズ、デヴィッド・デンシック ほか
【配信】スターチャンネルEX <字幕版><吹替版>絶賛配信中
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部坂 尚吾
1985年山口県宇部市生まれ、広島県東広島市育ち。松竹京都撮影所、テレビ朝日にて番組制作に携わった後、2011年よりスタイリストとして活動を始める。2015年江東衣裳を設立。映画、CM、雑誌、俳優のスタイリングを主に担い、各種媒体の企画、製作、ディレクション、執筆等も行っている。山下達郎と読売ジャイアンツの熱狂的なファン。毎月第三土曜日KRYラジオ「どよーDA!」に出演中。
江東衣裳
http://www.koto-clothing.com