映画『スペンサー ダイアナの決意』&『プリンセス・ダイアナ』~ダイアナ元皇太子妃の没後25年を迎えて~ | BRITISH MADE

ブリティッシュ“ライク” 映画『スペンサー ダイアナの決意』&『プリンセス・ダイアナ』~ダイアナ元皇太子妃の没後25年を迎えて~

2022.08.25

映画『スペンサー ダイアナの決意』&『プリンセス・ダイアナ』~ダイアナ元皇太子妃の没後25年を迎えて~ ©Kent Gavin
ダイアナ元妃の急逝から今年8月31日で25年が経過する。その節目に彼女を主人公に据えた『スペンサー ダイアナの決意』と、彼女の軌跡をたどるドキュメンタリー映画『プリンセス・ダイアナ』の2作品が公開される。当時、小学生だった筆者には事の重大さがいまいちわからなかったのが正直な感想だ。しかし、彼女の写真とともに、事故現場であるパリのアルマ橋の下を通るトンネルが繰り返し映されていたことは鮮明に覚えている。2作品を鑑賞後、ダイアナ元妃の死は、英国のみならず世界に大きな影響を与えたという事実をあらためて知った。

『スペンサー ダイアナの決意』は、ダイアナ元妃を主人公にした物語だ。1991年12月24日、英国ロイヤルファミリーが女王の私邸サンドリンガム・ハウスに集まりクリスマスを祝う恒例行事での3日間を描いている。主演はクリステン・スチュワート。話し方や首を傾けるような独特の仕草がダイアナ元妃に似ており、シチュエーションによっては本人と見紛うほどだった。忘れてはならないのが、これまで何度も紹介している名優ティモシー・スポールだ。本作では館を取り仕切るグレゴリー少佐を演じている。決してダイアナ元妃の敵ではないのだが、しきたりや慣習を静かに強要するような粘着質ともとれる気質だ。この無理強いに苛まれる様子が度々描かれておりいたたまれない。感情の起伏が激しいダイアナ元妃と王族との相性の悪さを物語っている。中でもチャールズ皇太子役のジャック・ファーシングとはっきりと対峙するシーンはとくに印象深い。彼女だけがしきたりに反駁しているようだが、じつは皇太子自身も同じ考えを持っている。だが、私見を取り除き、顔を使い分けることで何とかアイデンティティを保っている。“2人の自分が必要で、国民が我々に望む姿をみせるのが王室だ”という台詞の節々からそれを感じた。ダイアナ元妃のように自身の意見をはっきり吐露すれば鉄槌が下され、私権を制限される王族の厳しい現実を不憫に思わずにはいられなかった。

映画『スペンサー ダイアナの決意』&『プリンセス・ダイアナ』~ダイアナ元皇太子妃の没後25年を迎えて~ ©Pablo Larrain
映画『スペンサー ダイアナの決意』&『プリンセス・ダイアナ』~ダイアナ元皇太子妃の没後25年を迎えて~ ©Frederic Batier
続いて紹介する『プリンセス・ダイアナ』は世界初となるダイアナ 元 妃の劇場版ドキュメンタ リー だ。こちらは時系列で構成されており、チャールズ皇太子とのご成婚から始まり、皇太子とカミラ夫人との不倫が発覚したのちの離婚、そして、新しい人生をスタートさせた矢先に起きる痛ましい事故までをマスメディアからの目線で編集されている。時系列で構成されているため、あらためてダイアナ元妃の軌跡をたどるのにもってこいの作品だ。

映画『スペンサー ダイアナの決意』&『プリンセス・ダイアナ』~ダイアナ元皇太子妃の没後25年を迎えて~ ©Jeremy Sutton-Hibbert _ Alamy Stock Photo
映画『スペンサー ダイアナの決意』&『プリンセス・ダイアナ』~ダイアナ元皇太子妃の没後25年を迎えて~ ©Jeremy Sutton-Hibbert _ Alamy Stock Photo
スタンスは異なれど、2作品に共通して言えることはダイアナ元妃に寄り添った映画だ。ゴシップにあまり関心がないため、誰と誰が不倫をしようが知ったことではない。しかし、その真偽を含めていきすぎたマスコミの報道や煽り。その情報を鵜呑みにしては、一喜一憂し自分のことかのように怒る民衆。その様子は暴力性を帯びてさぞ恐ろしかったに違いない。分断が進行していった過程は現代に通じるものがある。パパラッチを含めたマスコミが面白がって情報を追い求めた結果、ダイアナ元妃、恋人のトディ・アルファイド、運転手アンリ・ポール(事故当時法的規則を超過した量のアルコールを摂取していた)の3名が亡くなってしまったという事実は否定する余地がない。

ダイアナ元妃がいかに愛されていたかは彼女が亡くなった際のバッキンガム宮殿への献花、ならびに霊柩車への献花の数を見れば明白だ。地雷やエイズに関する活動はあまりにも有名で、離婚後は控えていた公務の幅を広げ、多くの慈善活動に勤しんでいた。たらればを言い出せばきりがないが、もし彼女が存命であったならば、天性のカリスマ性を活かし、さらなる活動を続けて社会に貢献していたのではないだろうかと考えずにはいられなかった。

『スペンサー ダイアナの決意』
https://spencer-movie.com/
10月14日(金)TOHO シネマズ 日比谷ほか全国ロードショー
主演:クリステン・スチュワート(『トワイライト』シリーズ、『チャーリーズ・エンジェル』)、ジャック・ファーシング(「風の勇士 ポルダーク」)、ティモシー・スポール(『英国王のスピーチ』)、サリー・ホーキンス(『シェイプ・オブ・ウォーター』)、ショーン・ハリス(『ミッション:インポッシブル/フォールアウト』)
監督:パプロ・ラライン(『ジャッキーファーストレディ 最後の使命』)
配給:STAR CHANNEL MOVIES
後援:ブリティッシュ・カウンシル 読売新聞社
© 2021 KOMPLIZEN SPENCER GmbH & SPENCER PRODUCTIONS LIMITED
『プリンセス・ダイアナ』
https://diana-movie.com/
9月30日(金)TOHO シネマズ シャンテ、 Bunkamura ル・シネマほか全国ロードショー
監督:エド・パーキンズ(Netflix 『本当の僕を教えて』)
製作:サイモン・チン、ジョナサン・チン(アカデミー賞® 2度受賞『シュガーマン 奇跡に愛された男』『マン・オン・ワイヤー』)
2022年|イギリス|109 分|英語|カラー|ビスタ|5.1ch|原題:The Princess|日本語字幕:佐藤恵子|字幕監修:多賀幹子
配給:STAR CHANNEL MOVIES
後援:ブリティッシュ・カウンシル 読売新聞社
© 2022 DFD FILMS LIMITED. ALL RIGHTS RESERVED
Photo&Text by Shogo Hesaka


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部坂 尚吾

部坂 尚吾

1985年山口県宇部市生まれ、広島県東広島市育ち。松竹京都撮影所、テレビ朝日にて番組制作に携わった後、2011年よりスタイリストとして活動を始める。2015年江東衣裳を設立。映画、CM、雑誌、俳優のスタイリングを主に担い、各種媒体の企画、製作、ディレクション、執筆等も行っている。山下達郎と読売ジャイアンツの熱狂的なファン。毎月第三土曜日KRYラジオ「どよーDA!」に出演中。
江東衣裳
http://www.koto-clothing.com

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