主人公ジャンは、パートの掛け持ちと両親の介護との往復で日々を過ごしていた。夫のブライアンはテレビの前で1日を過ごし、夫婦共に無気力だった。ある日、クラブのバーテンダーとして働くジャンは、税理士ハワードの組合馬主の話を耳にする。幼少期から動物の飼育に自信を持っていたジャンは、財産を投げ打って競走馬を飼育することを決意する。あまりにも突飛で無謀な決断に周囲は冷ややかな反応だった。しかし、直向きな彼女の姿勢はだんだん人々の心を動かしていく。ついに念願の組合は結成され、競走馬“ドリームアライアンス”が誕生するのである。
ジャンは誇れるものを信じ、躊躇うことなく挑戦を続ける。何を言われようがぶれず、一本筋が通ったところに人はおろか、動物までもが惹きつけられるのだ。情熱を傾けられるものに没頭することで、くすんでいた彼女の人生が彩られていく。そのさまが美しいのだ。
そのジャンを熱演したのがベテラン女優トニ・コレットだ。彼女の名を聞いて真っ先に思い浮かぶ映画は『アバウト・ア・ボーイ』だ。気難しい精神状態の母親フィオナ役を演じ、ヒュー・グラント演じるろくでなしのウィルと渡り合った印象的な作品だ。ハッピーエンドなラブコメの常連だったヒュー・グラントがベビーフェイスとはほど遠い役を演じている点も興味深い。当時、オーストラリアに留学しており、はじめて原文で小説を読んだのが本作だったためよく覚えている。学校で感想文を披露する際にまったく見当違いの解釈をし、「あなたのリテラシーはどうなってるの?」と先生に咎められたのは恥ずかしい思い出だ…のちに映画を鑑賞して以来、何度も観直す英国映画の一つとなっている。
また、ジャンの参謀でもあるハワードの妻アンジェラを演じたジョアンナ・ペイジにも触れたい。2000年代英国映画の中でも人気の高く、この時季頻繁に目にする映画『ラヴ・アクチュアリー』ではスタンドイン女優を演じ、マーティン・フリーマンと共に作品に独特の雰囲気を醸したのが記憶に新しい。それ以降久しく姿を目にしていなかったが、本作では家族を献身的に支える妻を演じており、かつて活躍していた役者が20年を経ても変わらず躍動している姿を目にし、ついつい感傷的な気分になってしまった。
『ドリームホース』
http://cinerack.jp/dream/
2023年 1月6日(金)より、 新宿ピカデリー・ヒューマントラストシネマ有楽町他 全国新春ロードショー
監督:ユーロス・リン
出演:トニ・コレット(『ナイトメア・アリー』『リトル・ミス・サンシャイン』)、ダミアン・ルイス(「HOMELAND/ホームランド」『われらが背きし者』)
2020年|イギリス|英語|114分|スコープ|カラー|5.1ch|原題:DREAM HORSE
後援:ブリティッシュ・カウンシル
配給:ショウゲート
© 2020 DREAM HORSE FILMS LIMITED AND CHANNEL FOUR TELEVISION
部坂 尚吾
1985年山口県宇部市生まれ、広島県東広島市育ち。松竹京都撮影所、テレビ朝日にて番組制作に携わった後、2011年よりスタイリストとして活動を始める。2015年江東衣裳を設立。映画、CM、雑誌、俳優のスタイリングを主に担い、各種媒体の企画、製作、ディレクション、執筆等も行っている。山下達郎と読売ジャイアンツの熱狂的なファン。毎月第三土曜日KRYラジオ「どよーDA!」に出演中。
江東衣裳
http://www.koto-clothing.com