人々が映画館に赴く機会は当然減り、映画産業自体も下火になった。1981年は英国映画史上で最も少ない24本の映画しか製作されていない。ただし、本数こそ少ないが『007/ユア・アイズ・オンリー』のような人気作品、エンパイア劇場でも封切られる名作『炎のランナー』、以前このコラムでも紹介した変わり種の『バンデットQ』などなかなかの粒ぞろいである。『エンパイア・オブ・ライト』を監督したサム・メンデスは、“一般的に人格の形成期は10代と言われているが、私の場合は1970年代の終わりから80年代の初めにあたる”とインタビューで言及している。つまり、本作には彼の青春時代の経験が強く投影されている。劇中にトビー・ジョーンズ扮するノーマンというベテランの映写技師がいる。彼の根城である映写室は、ブロマイドや名作のポスターであふれている。これこそサム・メンデスが影響を受けたに違いない映画コレクションであり、彼のルーツが垣間見える好きな場面である。劇中で引用されている『チャンス』、『エレファントマン』、『ブルースブラザーズ』など、同年代の名作にもそういった彼の思いが宿っているのではないだろうか。
このコラムの常連であり、ここ数年の出演作はすべて紹介するほど好きな俳優コリン・ファースにも注目したい。昨今はベビーフェイスの鳴りを潜め、クセの強いキャラクターを演じる機会が増えている。本作で演じるのは映画館の支配人エリスで、控えめに言っても下衆っぷりは群を抜いており、すべての女性の敵と言っても過言でないほどの憎い男だ。だが、見方によっては自分の弱さを正直に吐露できない孤独な男だ。彼の心情が吐き出される台詞はほとんどないが、コリン・ファースが演じることで、どこか憂いを含む哀れな一面が醸されている。
『エンパイア・オブ・ライト』
https://www.searchlightpictures.jp/movies/empireoflight
2023年2月23日(木・祝)全国ロードショー
監督・脚本:サム・メンデス「1917 命をかけた伝令」「 007/ スカイフォール」「アメリカン・ビューティ」
出演:オリヴィア・コールマン、マイケル・ウォード、コリン・ファース、トビー・ジョーンズ、ターニャ・ムーディ、トム・ブルック、クリスタル・クラークほか
配給:ウォルト・ディズニー・ジャパン
製作年:2022年
製作国:イギリス・アメリカ
原題:Empire of Light
©2022 20th Century Studios. All Rights Reserved.
部坂 尚吾
1985年山口県宇部市生まれ、広島県東広島市育ち。松竹京都撮影所、テレビ朝日にて番組制作に携わった後、2011年よりスタイリストとして活動を始める。2015年江東衣裳を設立。映画、CM、雑誌、俳優のスタイリングを主に担い、各種媒体の企画、製作、ディレクション、執筆等も行っている。山下達郎と読売ジャイアンツの熱狂的なファン。毎月第三土曜日KRYラジオ「どよーDA!」に出演中。
江東衣裳
http://www.koto-clothing.com