待望のシリーズ第3作『名探偵ポアロ:ベネチアの亡霊』 | BRITISH MADE (ブリティッシュメイド)

ブリティッシュ“ライク” 待望のシリーズ第3作『名探偵ポアロ:ベネチアの亡霊』

2023.09.15

名探偵ポアロ:ベネチアの亡霊
1947年、表舞台から去りベネチアで自適の生活を送るポアロのもとに、旧友である人気作家オリヴァが訪れる。幽霊があらわれることで知られる屋敷でハロウィーンパーティがあり、その後著名な霊能者レイノルズを招いて降霊会が行われるというのだ。そのトリック暴きを唆されたポアロは、オリヴァと共に催しへ参加する。尻目にかけるポアロや招かれたゲストの前で次々に怪奇現象が起き、ついに事件の幕が上がる。

ケネス・ブラナーが監督・主演を担うポアロも3作目を迎えてすっかり人気シリーズだ。『名探偵ポアロ:ベネチアの亡霊』は、アガサ・クリスティの長編60作目にあたる「ハロウィーン・パーティ」が原作で、初めて映画化された作品だ。原作の舞台はイギリスだが、映画の舞台はイタリアの水上迷宮都市ベネチアに変更されている。探偵=ポアロの方程式が成立するほど好きなキャラクターの一人だけあって数多の関連作品に目を通しているが、先に述べた変更点も相まってタイトルを目にしただけでは原作がまったく思い浮かばなかった。さらに、ホラー要素がここまで強い作品は過去には見られない。自身がホラー映画を苦手としているせいかもしれないが、不安を煽るようなカメラワークや演出はおぞましい。『オリエント急行殺人事件』、『ナイル殺人事件』の両作は、基本的に原作やすでに映像化された作品に忠実だったが、本作は原作からの思い切った変更が加えられておりオリジナリティ溢れる映画になっている。監督ケネス・ブラナーの色が強く出ており、意気込みを感じずにはいられなかった。

名探偵ポアロ:ベネチアの亡霊
ロケーションやシチュエーションが変更されればおのずと登場人物の変更も際立つ。特筆すべきは原作やドラマ版後期では、ヘイスティングスに変わる助手としての役割が多かったアリアドニ・オリヴァが初登場する点だ。オリヴァはアガサ・クリスティ本人を仄めかしているとされるキャラクターであり、ヒット作を量産しなければならない苦悩や、惰性で作品を世に出すことへの葛藤が表現されている。彼女を演じるのはエミー賞常連の女優であり、作家でもあるティナ・フェイだ。クリスティやオリヴァとキャリアを同じくする彼女ゆえにシンクロするところがあり、より現実味が溢れるキャラクターとなったに違いない。

以前このコラムで紹介したケネス・ブラナー監督作『ベルファスト』で、主人公の父親を好演したジェイミー・ドーナンは本作においても父親役を担っている。軍医として経験した苦い過去に苛まれながら、愛すべき息子と共に生きる最も印象深いキャラクターだった。そして、その父を献身的に支える息子レオポルド役を演じたジュード・ヒルの存在感も引けをとらない。ケネス・ブラナーと同じく北アイルランド出身で、ジェイミー・ドーナン同様に映画『ベルファスト』に出演している。今後ケネス・ブラナー作品の秘蔵っ子になるやも知れぬ神童だ。

名探偵ポアロ:ベネチアの亡霊 名探偵ポアロ:ベネチアの亡霊
悲惨な世界大戦を終えたとはいえ、未だ戦争の爪痕は各地に残っておりベネチアも例外ではない。本作に登場する登場人物の多くはその十字架を背負っている。かく言う主人公ポアロも戦争で辛酸を嘗めている。降霊会=インチキなペテンだと一蹴するのは簡単だが、そうまでしても故人と今一度交信したいと願う残された人々がいるのも事実だ。それは長引く紛争で多くの人々が家族を失い、路頭に迷う現代にも通じる。製作者のメッセージが込められているのではないかと感じ取れるほどの熱量を感じる映画だった。

デヴィッド・スーシェのポアロこそがエルキュール・ポアロだと信じてやまない筆者だったが、好きな俳優であるケネス・ブラナー扮するポアロにもはや愛着さえ湧いている。今となっては幕が上がるまで、まだかまだかと前のめりになるほど好きなシリーズ作品だ。来月からイタリアとトルコの旅に出るが、今回の舞台となったベネチアを外してしまった。“灰色の脳細胞”を働かせればそんな選択は万に一つもありえないと、きっとポアロに叱責されるだろう……。

「名探偵ポアロ:ベネチアの亡霊」
https://www.20thcenturystudios.jp/movies/poirot-movie3
*9月15日(金)全国劇場にて公開

配給:ウォルト・ディズニー・ジャパン
原題:A Haunting in Venice
監督:ケネス・ブラナー
脚本:マイケル・グリーン
製作:ケネス・ブラナー、リドリー・スコットほか
音楽:ヒドゥル・グドナドッティル
出演:ケネス・ブラナー、ミシェル・ヨー、ティナ・フェイ、ジェイミー・ドーナンほか
©2023 20th Century Studios. All Rights Reserved.
Photo&Text by Shogo Hesaka

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部坂 尚吾

部坂 尚吾

1985年山口県宇部市生まれ、広島県東広島市育ち。松竹京都撮影所、テレビ朝日にて番組制作に携わった後、2011年よりスタイリストとして活動を始める。2015年江東衣裳を設立。映画、CM、雑誌、俳優のスタイリングを主に担い、各種媒体の企画、製作、ディレクション、執筆等も行っている。山下達郎と読売ジャイアンツの熱狂的なファン。毎月第三土曜日KRYラジオ「どよーDA!」に出演中。
江東衣裳
http://www.koto-clothing.com

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