主人公である脚本家アダムは、ロンドンのタワーマンションで暮らしている。12歳で両親を失って以来、天涯孤独だ。ある日、彼は両親をモチーフにした作品を執筆する傍ら、幼少期に過ごした町に足を運んだ。かつての自宅付近を散策していると、ひとりの男に出会う。それは紛う方ない父の姿であり、いざなわれた自宅には母の姿さえあった。30年ぶりに両親と再会したアダムは、嬉々として実家へ通うようになった。そんなとき、彼のマンションの部屋の前に酩酊した男ハリーがあらわれる。
彼の心の有り様、たとえば、郷愁に駆られ過去に救いを求めて生きている点や、刻々と過ぎる日々や孤独に怯えているが、閉塞感を打開する方法がわからない様子にいたく共感した。アダムと同世代なせいか、劇中に登場する音楽や、レコードで音楽鑑賞をする点にノスタルジーを感じずにはいられなかった。35mmのフィルムで撮影された質感もきっとそうだろう。夜や暗いシーンが目立つが、そのシチュエーションをうまく活かした色使いや画面構成が際立っている。
毎度毎度だが、本作のようにオリジナルやリメイクなど関連作品が複数ある場合、その時代背景まで鑑みるとより知見を広げるきっかけになる。近頃は、自身の倫理観にそぐわなければそれに携わった者までもすべて否定する風潮がある。たとえば同じ題材でも時代や制作者が変わることによって表現や解釈が変わってくるのは至極当然だ。考え方が異なっているからといって、歪曲して自身の都合の良いように切り取ったり、そのすべてを否定するのは軽率だ。真意を読み解くように努めなければならない。幸いにも映画は、多くの感覚を味わえ、その時代の社会を疑似体験できる数少ない媒体だ(本作においては第六感さえも刺激されるかもしれない…)。話が横道に逸れたが、ぜひとも映画をそういった助けとして用立てて欲しい。
そういえば、主人公アダムは、年季の入ったハリントンジャケットを着用する姿が板についている。お馴染みのジャケットだが、襟を立てずに寝かしつけている点が興味深い。さあ、一体いつ襟が立つのかと着目してしまった。こういう細かな設定もアンドリュー・ヘイならではの演出かと慮らずにはいられなかった。
『異人たち』
https://www.searchlightpictures.jp/movies/allofusstrangers
4月19日(金)より全国公開
配給:ウォルト・ディズニー・ジャパン
©2023 20th Century Studios. All Rights Reserved.
キャスト:アンドリュー・スコット, ポール・メスカル, ジェイミー・ベル, クレア・フォイ監督:アンドリュー・ヘイ
原作:「異人たちとの夏」山田太一著(新潮社刊)
部坂 尚吾
1985年山口県宇部市生まれ、広島県東広島市育ち。松竹京都撮影所、テレビ朝日にて番組制作に携わった後、2011年よりスタイリストとして活動を始める。2015年江東衣裳を設立。映画、CM、雑誌、俳優のスタイリングを主に担い、各種媒体の企画、製作、ディレクション、執筆等も行っている。山下達郎と読売ジャイアンツの熱狂的なファン。毎月第三土曜日KRYラジオ「どよーDA!」に出演中。
江東衣裳
http://www.koto-clothing.com