英国的なコーディネイトに欠かせないシャツの選び方や合わせ方について、嗜好品研究家/ジャーナリストの井伊正紀さんに伺った。シャツのルーツ、伝統に基づく本来のスタイルを井伊氏の私物を使って解説。より深い英国シャツの世界を理解するのに役立てていただきたい。
シャツ shirt は古代英語の「スキルト」 scyrte から来ています。古くは、ヨーロッパにおける“シャツ”とは“肌着(下着)として解釈されていたため。ジャケットやコートなどの“上着”やウエイストコートに隠れ、衿部分と袖口しか見えないものでした。そのため、身頃から衿を取り外せる、ディタッチト・カラーが1827年頃にアメリカで誕生。全体丸ごと洗濯するのは大変ですが、衿のみなら日常的に洗えて清潔感を損なわない!という発想です。かつてのロンドンは煤煙(スモッグ)の影響で、外出すると煤で服が汚れてしまうという背景も関係しているのだと思います。
今の日本におけるシャツ、スーツやジャケットを合わせ、タイドアップする前提の“ドレスシャツ”は、一般的に“ワイシャツ”とも呼ばれていますよね。これは、かつての(明治時代)外国人が言った“ホワイトシャツ”を“ワイシャツ”と聞き間違えたことが発端。そして、このホワイトシャツこそがシャツの最上級。着る人を美しく凛とさせ、フォーマルスタイルのお約束であるブラック&ホワイトのコントラストが映える一枚。クリアな白さを維持させるため、水と大気が汚染されていないロンドン郊外で洗濯する、カントリーウォッシングという方法が19世紀初頭に生まれたほどです。
ホワイトシャツよりデイリーなのが、ホワイトカラーシャツと呼ばれるもの。衿と時にはカフスのみ白で、ボディにストライプやチェックといった柄、色が入っているタイプです。シワを目立たなくする効果があり、アメリカ発祥とされています。カジュアル寄りですから、ナイトシーンには不向き。厳密には日中だけ着るのが本当なんですよ。こういった基本を踏まえ、目的に合わせたシャツ選び、付随して付けたい小物、着こなし方などをレクチャーいたしましょう。
クレリックシャツと呼ぶ方もいらっしゃいますが、正解はホワイトカラーシャツです。衿とカフスのみホワイトなのが特徴。ドレスシャツの中でも遊びが効いていて、アイテムとしては色鮮やかなイメージを醸します。伝統的に夜は着用せず、デイタイム限定だということを頭に入れておくべきでしょう。
■ディタッチト・カラー
シャツは上着に隠れて衿と袖口しか見えないもの。ならば毎日洗濯するのは衿だけで良いはず! という考えから生まれました。実にアメリカ発祥らしい合理的アイデアです。欧米では19世紀から第二次大戦前までドレスシャツの主流に。
■ホワイトシャツ
ホワイトカラーシャツは昼限定ですが、こちらは昼夜OKの万能型。右の一枚は2005年製のオーダーメイドでして、随所に私のこだわりを反映していただきました。ひとつが比翼仕立て。給仕、ボーイならともかく、高貴な人はボタンが見えているシャツをあまり着ません。ディナースーツに合わせる場合も、縫い目の目立たないシャツが理想。その流れを汲んだ、いわばフォーマルの略式といったデザインなのです。
六つ穴ボタンにステッチをクロスさせてと指定。比翼仕立てのうえ、第一ボタンもネクタイで隠れてしまいますから、完全に自己満足の域ですね。ただ、他人にすぐ気付かれてしまうこだわりは無粋。なるべく目立たず、注視すると違うなってくらいがお洒落の真髄かと。あと、オーダーは第二ボタンの位置が重要です。アスコットタイのバランスを大きく左右しますから。
フレアになっているシングルカフが、エレガントなブリティッシュスタイルかと。ドレスシャツに多く採用されているダブルカフス=フレンチカフス(糊が薄い略式)にしなかったのは、折り返す必要がないほど硬く糊付けするのが本式なので。
左脇腹付近にイニシャルも刺繍しています。好みの場所で良いのですが、基本は目立たないところへ。当時ダンヒルのイメージ&プレス リレーションズ ダイレクターを務めていたヤン・デベル・ドゥモンビーと一緒に作ったので、二人お揃いの箇所にしました。
私が好きなのはウイングカラー。フォーマルという意味では広く着用できる形です。いろんなネクタイと相性が良いのも魅力。現代的装いが好みならレギュラーカラーを。
*後編では「シャツの合わせ方」「シャツの着こなしを引き立てる小物使い」をお届けします。
シャツ shirt は古代英語の「スキルト」 scyrte から来ています。古くは、ヨーロッパにおける“シャツ”とは“肌着(下着)として解釈されていたため。ジャケットやコートなどの“上着”やウエイストコートに隠れ、衿部分と袖口しか見えないものでした。そのため、身頃から衿を取り外せる、ディタッチト・カラーが1827年頃にアメリカで誕生。全体丸ごと洗濯するのは大変ですが、衿のみなら日常的に洗えて清潔感を損なわない!という発想です。かつてのロンドンは煤煙(スモッグ)の影響で、外出すると煤で服が汚れてしまうという背景も関係しているのだと思います。
今の日本におけるシャツ、スーツやジャケットを合わせ、タイドアップする前提の“ドレスシャツ”は、一般的に“ワイシャツ”とも呼ばれていますよね。これは、かつての(明治時代)外国人が言った“ホワイトシャツ”を“ワイシャツ”と聞き間違えたことが発端。そして、このホワイトシャツこそがシャツの最上級。着る人を美しく凛とさせ、フォーマルスタイルのお約束であるブラック&ホワイトのコントラストが映える一枚。クリアな白さを維持させるため、水と大気が汚染されていないロンドン郊外で洗濯する、カントリーウォッシングという方法が19世紀初頭に生まれたほどです。
ホワイトシャツよりデイリーなのが、ホワイトカラーシャツと呼ばれるもの。衿と時にはカフスのみ白で、ボディにストライプやチェックといった柄、色が入っているタイプです。シワを目立たなくする効果があり、アメリカ発祥とされています。カジュアル寄りですから、ナイトシーンには不向き。厳密には日中だけ着るのが本当なんですよ。こういった基本を踏まえ、目的に合わせたシャツ選び、付随して付けたい小物、着こなし方などをレクチャーいたしましょう。
目的を持ったシャツの選び方
ドレスシャツスタイル DAY編
■ホワイトカラーシャツクレリックシャツと呼ぶ方もいらっしゃいますが、正解はホワイトカラーシャツです。衿とカフスのみホワイトなのが特徴。ドレスシャツの中でも遊びが効いていて、アイテムとしては色鮮やかなイメージを醸します。伝統的に夜は着用せず、デイタイム限定だということを頭に入れておくべきでしょう。
■ディタッチト・カラー
シャツは上着に隠れて衿と袖口しか見えないもの。ならば毎日洗濯するのは衿だけで良いはず! という考えから生まれました。実にアメリカ発祥らしい合理的アイデアです。欧米では19世紀から第二次大戦前までドレスシャツの主流に。
■ホワイトシャツ
ホワイトカラーシャツは昼限定ですが、こちらは昼夜OKの万能型。右の一枚は2005年製のオーダーメイドでして、随所に私のこだわりを反映していただきました。ひとつが比翼仕立て。給仕、ボーイならともかく、高貴な人はボタンが見えているシャツをあまり着ません。ディナースーツに合わせる場合も、縫い目の目立たないシャツが理想。その流れを汲んだ、いわばフォーマルの略式といったデザインなのです。
六つ穴ボタンにステッチをクロスさせてと指定。比翼仕立てのうえ、第一ボタンもネクタイで隠れてしまいますから、完全に自己満足の域ですね。ただ、他人にすぐ気付かれてしまうこだわりは無粋。なるべく目立たず、注視すると違うなってくらいがお洒落の真髄かと。あと、オーダーは第二ボタンの位置が重要です。アスコットタイのバランスを大きく左右しますから。
フレアになっているシングルカフが、エレガントなブリティッシュスタイルかと。ドレスシャツに多く採用されているダブルカフス=フレンチカフス(糊が薄い略式)にしなかったのは、折り返す必要がないほど硬く糊付けするのが本式なので。
左脇腹付近にイニシャルも刺繍しています。好みの場所で良いのですが、基本は目立たないところへ。当時ダンヒルのイメージ&プレス リレーションズ ダイレクターを務めていたヤン・デベル・ドゥモンビーと一緒に作ったので、二人お揃いの箇所にしました。
ドレスシャツスタイル NIGHT編
よりドレッシーさが求められるシチュエーションでは、ホワイトシャツとブラックタイのペアで。衿の形を選ばないややナロウなボウタイがオススメです。ボタン留めではなくオニキスのスタッズを使っているのもポイント。プリーツ入りの方がドレッシーとされていますが、どちらかというとアメリカンスタイルなんです。第二次大戦以降に流入した、米国の省略された洋装が影響しています。私が好きなのはウイングカラー。フォーマルという意味では広く着用できる形です。いろんなネクタイと相性が良いのも魅力。現代的装いが好みならレギュラーカラーを。
スーツスタイル
昼間のアクティブタイムにおすすめなスタンダードスタイルです。ホワイトカラーシャツにタイ、ウエイストコートをプラスして。ウエイストコートとはアメリカでいうボタンベスト。オフホワイトを挿すことで、クラシカルな雰囲気にまとめました。ポケットハンカチーフはシャツやネクタイのカラーとシンクロさせると間違いがないでしょう。オフタイムスタイル
オフは私の中で変装のようなもの。思い切り遊ぶのが好きです。ホリゾンタルテール、ストレートカットなどと呼ばれる、すそ出しに向いたシャツが最適です。かつてのドレスシャツを象徴するシルク素材や、中世の趣を残すボタンの数。クラシカルな雰囲気もほんのり入れられると素敵かと。ちなみにオリーブグリーン系は英国人が嫌う色。あえてサブカルチャー的に取り入れました。*後編では「シャツの合わせ方」「シャツの着こなしを引き立てる小物使い」をお届けします。