ピッティのメイン会場ともいえる建物から中央広場をスナップ。各国のお洒落バイヤーが集まるイベントだけに、会場の雰囲気はかなり華やか。彼等のコーディネイトを見ているだけでも楽しい時間が過ごせる。
メンズスタイルの祭典として、各種メディアに取り上げられることの多くなったピッティ展示会。正式名称は「PITTI IMMAGINE UOMO」。地元イタリアを始め、英国を含むヨーロッパを拠点とする多くの実力派レーベルが最新コレクションを発表し、世界中のバイヤーがそれらを吟味することから“来シーズンのトレンドが分かる場”としても注目されるイベントだ。もちろん日本からも多くのファッション関係者が赴き、取材の傍ら人物スナップなどをアチコチで行っているのも恒例のこと。
各地から集まるファッションバイヤーは、言うまでもなく装いのテクニックもそれなりで、リアリティある旬な着こなしの好サンプルであることから、多くのジャパンメディアがフォトスナップを行ってきた。そして昨今ではそれをひとつの切っ掛けとして、“スナップされたい人々”が徐々に増殖し、ピッティ会場のメイン広場などはさながらコスプレ大会のような様相を呈しているのである。
まあ、お洒落の機運が盛り上がるのは結構なことだから、大いに賑わってほしいとメディア側の僕などは思っている。
さて、そんなピッティだが来季16-17年の秋冬向け展示会は(当然だが)この冬に行われる。今年は1月12〜15日が会期であり、ロンドンを経由しピッティ入りを予定していた僕は、お屠蘇気分もソコソコに日本を発たねばならなかった。
今回で第89回を数えるピッティだが、今回は珍しく初日から来場者も多く「景気は上向きか?」と感じさせるほどの盛況なスタートだった。ただしテロの影響もあってか、入り口のゲート付近やエントランスのパスチェックなどはいつもよりも厳重で、一種物々しい雰囲気を感じさせたのは印象的。
広場ではときおりブランド主催のパフォーマンスも行われる。写真は著名ブランドのマントをフィーチャーしたダンスパフォーマンス。フラメンコの音楽に合わせ、踊りながらマントをクルクルと操るダンスは圧巻のもの。
展示会場の一角にはアート作品もデコレーションされクリエイティブな雰囲気を作りだしている。今回はファインアートとモダンファッションの融合がテーマだろうか。
デザインもさることながら着こなし方の提案も絶妙
そもそもスタイルに大きなブレを見せないのが(大人の)メンズファッションの特徴だ。ある意味ここ数年はアーカイブやビンテージの見直しが大枠のトレンドになっており、そういう意味において数年来の“英国調”トレンドがいまだ継続中とも言える状況だ。大胆な打ち出しこそ見られないものの、微差で個性を主張しようとする各ブランドの繊細な努力が逆に目に付くように感じられた。とりわけ個人的に気になったのが、レイヤードによるフレッシュな洒落感作りの提案である。スーツなどクラシックかつ王道のアイテムにレザーライダース(!)を組みあわせたり、タイドアップのスーツスタイルにショールカラーカーディガンを合わせる着方などは、確かに鮮烈なルックスと言えるものだった。また、男性的な力強さにフォーカスする傾向も強く、ミリタリーやワークベースのアウターもあちこちで散見された。日本でもMA-1などのブルゾンが幅を利かせていることから、ミリタリーの流れを感じる人も多いだろうが、大人のファッションシーンでもそのトレンドが一部波及しているのだ。とあるブランドのブースにおいて、かなりガチなオフィサージャケット(主に軍の将校や士官が着用している制服)風の上着が展示されており、多くのバイヤーの注目を集めていたのも特徴的。
それほどにわかりやすいミリタリーデザインは少数派ながら、モスグリーンやオリーブカラーなど、カラーリングでミリタリー気分を表現するブランドは少なくなかった。ワークの派生としてかつて人気を博したカーゴポケットのパンツは、昨今ひと段落したかと思われたが、今季また多くのパンツブランドが6ポケットのパンツをリリースしていた。
リアルな軍もの? と思わせるほどの作り込みのオフィサージャケット。胸にチーフを入れるところがいかにもラテンの風情。
カーゴパンツが早くも復活の兆し。ただし、前回ブームのときよりもミリタリー・ワークの味わいが濃くなっている印象あり。
プライベートホワイト V.C.のブース
クリエイティブ・ディレクターのニック・アシュレイ
時代がついにプライベートホワイト V.C.に追いついた!? 実用的機能的かつスタイリッシュなウェアが満載。ブースを覗いたらクリエイティブ・ディレクターであるニック・アシュレイ氏自らがアテンド役となり、丁寧に各ウェアの説明をしてくれた。表情や動作もユーモアたっぷり。本当に素敵なオジサマです!
英国ブランドには 追い風ともいえる流れ
さらにウェアのみならず小物でタフさとアーカイブ性を出すブランドも少なからず目に留まった。ジョセフ チーニー(以下チーニー)は昨年に続き、40年代の英国空軍のパイロットシューズをモチーフにしたアヴィエーターコレクションを発表。ワークや軍パンなどと相性良さそうなタフでクラシカルな一足は、ありそうで意外に無いデザイン。そのチーニーだが今季130周年を迎えるということで、特別ラストを発表していたこともニュースのひとつ。また、ワーク&ミリタリーの視点を持つブランドとして、今季とりわけ注目したい存在であるのがプライベートホワイト V.C.だ。オイルドのライダーズやピーコート風ロングコート、それにワークテイストのメルトンジャケットなど、どれも緻密かつ男心をくすぐるタフさと機能的ディテールを備えたウェアを多数リリースしていた。まさに今季の気分と合致する物作りは、今まで以上に話題になること確実であるはず。今回のピッティにおいて、ぜひチェックしておきたかったレーベルがドレイクスだ。去年、クリエイティブ・ディレクターのマイケル・ヒル氏にインタビューする機会があったことに加え、個人的に英国タイのファンであるから。ビンテージ機運が世界的に高まるなか、ドレイクスはどんな新作を出してくるかと思い訪ねてみたら、想像の二段上を行くステキなコレクションが展開されていた。ブースの入り口を飾るトルソーを見てもそれは明らかで、渋いプリントタイが種類豊富に並んでいた。豪奢なデザインのペイズリーや小紋タイが揃っており、日本での展開が待ち遠しくなるラインナップだった。その他ストールなども華やかに完備したブースには、大勢のバイヤーが押しかけており、ドレイクスの人気ぶりが伺えた。
今回はフィレンツェでの滞在期間を短めに設定したこともあり、駆け足でのピッティ巡りとなってしまった。そのため希望するブランドをすべて巡回することは叶わず、クラシック系ブランドのチェックが中心となった。そういった中で見えてきたのは“ビンテージ”“物作りへのこだわり”“男らしさ”といったキーワード。そう、すべてが僕好みのエッセンスだ。もちろん、今回見たものすべてが日本で展開されるワケではなく、それぞれのショップバイヤーが自分たちの判断にてアイテムをピックするのは言わずもがな。バイヤーがたとえ気に入ったとしても、オトナの事情で日本展開を見合わせざるを得ない場合も当然あるだろう。それでも今から来シーズンが待ち遠しいことに変わりのない僕なのだ。……あとは為替が今後どうなっていくのかということ。単純に円高がイイ!などと言えないワケだが、あまりに激しい円安傾向はお洒落ファンにとってチトつらい部分が正直ある。“円”の神様、どうか舶来好きとのご縁もお忘れなく!
チーニーのアヴィエーター。3代目ディック・チーニーが飛行士だった為、その時代のパイロットシューズを忠実に再現している。内ボア付きで保温性も十分だが、トゥの反り返りが強いラストと共に一部にオーバースペックとの指摘あり。日本展開ではその辺が改良されたモデルになると言われている。それも楽しみだ。
グリーンのヒールソックがポイントであるチーニーの130周年モデル。写真はフルブローグだが、上品な内羽式のプレーントゥも評判が良いとの情報も。確かにその方が汎用性の面でも優れている。
ドレイクスのブース入口
各国のバイヤーで賑わっていたドレイクス。古き良きブリティッシュセンスを詰め込んだプリントタイは必見の仕上がり。
英国ブランドだけがビンテージのプリントものに注目しているわけではなく、イタリアの実力派も今季はこんなタイをリリース。シャツの柄も実に攻めていてなんともお洒落!