英国を代表するメンズブランドとして世界のドレッサーから支持を受けるドレイクス。クリエイティブディレクターのマイケル・ヒル氏は、ブランドを牽引するドレイクスの最重要人物だ。前回はタイを中心に物作りの姿勢や意気込みをうかがった。その第二弾となる今回は、ドレイクスの新たなる試みである自社生産のシャツをメインにインタビュー。ファクトリーの重要性や、英国メイドならではのポイント、個性的なディテールのことなどなど。物作りの中核を担う人物が語るエピソードは、どれも興味深いものばかり。
—まずはドレイクスのシャツ作りにおける生産背景からお聞かせ下さい。
サマーセット(イングランド西南部)のシャツ工場であるクリーブ・オブ・ロンドンを私達の傘下に収めたのは2013年。もちろん、それ以前からもドレイクス名義のシャツを展開していましたが、それらのほとんどがイタリア生産でした。イタリアの工場が作りだすシャツは、確かにキャラクターもあって素晴らしいもの。しかし我々はこれまでにないユニークな物作りを志向していたのです。なによりもタイをひとつの柱とするブランドとして、タイとの相性を考えながらシャツ作りを進めていくことが大きなポリシーでした。それゆえに自社のファクトリーを持つことがやはり大事と考え、英国で工場を探すこととなったのです。我々が1977年創業であるのに対し、クリーブ・オブ・ロンドンは創業1975年で、歴史という意味では似たような存在。ただしクリーブ・オブ・ロンドンにはそのグループ企業としてレイナー&スタージェスというファクトリーも所属しており、そちらの創業は1913年。ある意味トータルで約150年という歴史ある生産背景を得ることになったのです。
—英国ファクトリーでの生産にスイッチし変わったこととは?
設備などに大きな投資を施し、30人程いる職人の生産体制も整えました。それにより理想的なフレキシビリティを手に入れることができたのです。つまり、イタリアなどでの外注の場合は、ひとつのサンプルでもその出来上がりに一ヶ月ほど待たなければならないこともあります。また、外部工場の場合は、先方の都合で私達の注文作業が後回しにされることもあります。しかし自分たちの国内ファクトリーであれば、サンプルの微修正の反映も非常にクイック。ゆえに短い期間のなかでトライ&エラーを納得いくまで繰り返すことが可能であり、本当に良いと思うシャツを作る為の基盤が構築できました。自分たちの経営であるから、工場のスケジュールが把握しやすいのはもちろんのこと。加えていくつかのOEM生産を手掛けているので、そのことによるノウハウも自分たちのシャツメイキングにフィードバックが可能です。つまり非常に多くのメリットが生まれたと言えるでしょう。
—30人の職人を擁するファクトリーというのは、英国のシャツ工場としてはトップクラスでしょうか?
上には上があるもので、私達のファクトリーはまあ中規模といったところでしょうか(笑)。たとえばグロスターシャー(イングランド南西部)にあるターンブル&アッサーのファクトリーなどは、確か80人くらいの規模だと聞いています。彼等は自分たちのブランドのシャツだけを作っているのがひとつのポイントです。しかし、我々はタイの職人が55人いますからね、トータルすると彼等に負けてないんですよ(笑)。まあ、それはジョークですが、彼等とはビジネスの立ち位置が違うので、比較することにあまり意味はありません。
—そんな英国ファクトリーにて作られるドレイクスシャツの特徴を、いま一度紹介していただけますか?
英国のシャツというとクラシックでどこかお堅いイメージもありますが、ドレイクスが目指すのは英国的なトラッドを維持しつつ、モダンな洒落感や快適な着心地を備えたもの。インターナショナルに活躍するビジネスマンたちに着てほしいと考えています。接着しない柔軟性に富むフラシ芯の襟は、快適さのひとつの象徴です。また、生地もハンドカットにより、微妙な曲線が首回りに優しくフィットするように考慮しています。使う素材にもこだわりを尽くすのがドレイクス流。コットンもソフトな高級品を、その他リネンやシャンブレーなど、週末を始めとした寛いだ時間の装いに適した素材も多数ピックアップしています。
—デザイン的にもドレイクスならではのディテールが随所に見られますね。
開放的なカッタウェイカラーに機能的なインバーテッドプリーツ、それにパンツからシャツが飛び出さないようやや長めの着丈にしてあるところも特徴です。また通常、フロントには7個のボタンを配置するのが一般的ですが、屈んだ際などにボタンとボタンの間が開かぬよう、間隔を狭めた8個ボタンを採用しています。インバーテッドプリーツをウエスト部分にて一旦ステッチングしていますが、それは腰回りにおいて身ごろがダブつかないための工夫。常にエレガントに着こなせる配慮も英国的な美観への追求と言えるでしょう。
—そのインバーテッドプリーツはドレイクス独自のディテールでしょうか?
いえ、伝統的なテーラーの仕立て方のひとつでもありますし、ミリタリーウェアの応用でもあります。銃を撃つ姿勢を助けるために、こういったインバーテッドプリーツを施したシャツを見たことがあります。そのようなアーカイブを参考に、各ディテールをデザインしています。
—今季のドレイクスシャツにはカッタウェイカラーが多く見られます。この襟型がドレイクスの基本なのでしょうか?
襟はドレイクスのシャツのアイデンティティを物語る重要なパーツです。あまり大袈裟になりすぎず適度にシックに見えるデザインを心掛けています。現在、ファクトリーでは25種の襟型をストックしていますが、種類を増やすことは難しいことではありません。問題なのはそのなかでどれが一番ドレイクスブランドに相応しいか。色々考えた末に、現在はカッタウェイとボタンダウンをドレイクスのメインの襟型に決めています。
—英国的なセミワイドは作らないのでしょうか?
実は一番最初のサンプルがセミワイドでした。極めて伝統的な襟型は、確かに今見るとフレッシュですね。我々がOEMを引き受けているブランドのひとつに英国にて長い歴史を誇るハンティングをひとつのバックボーンに持つブランドがあります。そのブランドのために作ったシャツがセミワイドのものでした。
—昨今はイタリア製のシャツが日本を席巻していますが、イタリアンシャツと英国製のシャツはどのようなところに違いがあると考えますか?
イタリアのシャツにはフランボヤン(仏語=きらびやか)なキャラクターを備えているのが特徴的。しかし私達のシャツはそういったテイストのものではありません。英国とイタリアでは気候も環境も異なります。素材にしてもタフで堅実な印象のものが多いのが英国メイド。長く着続けることで味わいが増していきます。それと確実な縫製と安心感のあるルックスなど、英国製のシャツは派手さこそないものの、実用品としての深い魅力があると考えています。確かにドレスシャツのシーンのなかで考えると、イタリア勢の進出は目覚ましいものがあります。しかし少数だからこそチャレンジできることも多いと私達は信じているのです。現在、ドレイクスのタイは英国製ネクタイのひとつの象徴だととらえられています。シャツもまたそういったレベルにまで高めていきたいと思っています。
—ドレイクスはシャツとタイの両方を手掛けるブランドであることが大きなポイントかと思います。そういう点で、何か特別な取り組みはありますか?
現在さまざまなトライを続けています。モダンなシャンブレーシャツにクラシカルなプリントタイを合わせることを前提に両者を平行してデザインすることなどは、ドレイクスならではだと思います。また、リラックス感のあるシャツ&タイスタイルを提案しています。そういった他にはない提案を多彩に打ち出せるようこれからも努力したいですね。
—ロンドンは色々なスタイルが生まれる街。そのなかでドレイクスはどのポジションに位置するブランドだと分析していますか?
モードを含めたストリートカジュアルと、その対極であるクラシックなドレススタイルのふたつが大きなロンドンのファッションシーンと言えるでしょう。ドレススタイルも昨今は細分化が進み、サビルロウでスーツを作るような人達とは別に、サルトリアスタイルをひとつのファッションとしてとらえる層も出てきています。共にスーツをユニフォームとしてとらえるのではなく、着飾るひとつの手段と考えているのがポイントです。ニュークラシックとでも呼ぶそれらの存在は確かに新しいムーブメントですが、今後増えるかどうかは分かりません。なぜなら世界的にメンズシーンは著しくカジュアル化の方向に流れていますので。そしてどのように自分たちをポジショニングしているかということですが、我々のショップロケーションがある意味ひとつの回答になっています。伝統的なスーツを扱うエリアにサビルロウがあり、そしてトレンドやモードを発信する場所としてボンドストリートがあります。ドレイクスのショップはその二つの通りを繋ぐクリフォードストリートに位置しています。クラシックとモダン、そして過去と未来。それらのエッセンスを繋ぐ存在として、ドレイクスを発展させていきたいと考えています。
Drake’sのアイテムは以下URLからご覧いただけます。
https://www.british-made.jp/fs/british/c/drakes
—まずはドレイクスのシャツ作りにおける生産背景からお聞かせ下さい。
サマーセット(イングランド西南部)のシャツ工場であるクリーブ・オブ・ロンドンを私達の傘下に収めたのは2013年。もちろん、それ以前からもドレイクス名義のシャツを展開していましたが、それらのほとんどがイタリア生産でした。イタリアの工場が作りだすシャツは、確かにキャラクターもあって素晴らしいもの。しかし我々はこれまでにないユニークな物作りを志向していたのです。なによりもタイをひとつの柱とするブランドとして、タイとの相性を考えながらシャツ作りを進めていくことが大きなポリシーでした。それゆえに自社のファクトリーを持つことがやはり大事と考え、英国で工場を探すこととなったのです。我々が1977年創業であるのに対し、クリーブ・オブ・ロンドンは創業1975年で、歴史という意味では似たような存在。ただしクリーブ・オブ・ロンドンにはそのグループ企業としてレイナー&スタージェスというファクトリーも所属しており、そちらの創業は1913年。ある意味トータルで約150年という歴史ある生産背景を得ることになったのです。
—英国ファクトリーでの生産にスイッチし変わったこととは?
設備などに大きな投資を施し、30人程いる職人の生産体制も整えました。それにより理想的なフレキシビリティを手に入れることができたのです。つまり、イタリアなどでの外注の場合は、ひとつのサンプルでもその出来上がりに一ヶ月ほど待たなければならないこともあります。また、外部工場の場合は、先方の都合で私達の注文作業が後回しにされることもあります。しかし自分たちの国内ファクトリーであれば、サンプルの微修正の反映も非常にクイック。ゆえに短い期間のなかでトライ&エラーを納得いくまで繰り返すことが可能であり、本当に良いと思うシャツを作る為の基盤が構築できました。自分たちの経営であるから、工場のスケジュールが把握しやすいのはもちろんのこと。加えていくつかのOEM生産を手掛けているので、そのことによるノウハウも自分たちのシャツメイキングにフィードバックが可能です。つまり非常に多くのメリットが生まれたと言えるでしょう。
—30人の職人を擁するファクトリーというのは、英国のシャツ工場としてはトップクラスでしょうか?
上には上があるもので、私達のファクトリーはまあ中規模といったところでしょうか(笑)。たとえばグロスターシャー(イングランド南西部)にあるターンブル&アッサーのファクトリーなどは、確か80人くらいの規模だと聞いています。彼等は自分たちのブランドのシャツだけを作っているのがひとつのポイントです。しかし、我々はタイの職人が55人いますからね、トータルすると彼等に負けてないんですよ(笑)。まあ、それはジョークですが、彼等とはビジネスの立ち位置が違うので、比較することにあまり意味はありません。
—そんな英国ファクトリーにて作られるドレイクスシャツの特徴を、いま一度紹介していただけますか?
英国のシャツというとクラシックでどこかお堅いイメージもありますが、ドレイクスが目指すのは英国的なトラッドを維持しつつ、モダンな洒落感や快適な着心地を備えたもの。インターナショナルに活躍するビジネスマンたちに着てほしいと考えています。接着しない柔軟性に富むフラシ芯の襟は、快適さのひとつの象徴です。また、生地もハンドカットにより、微妙な曲線が首回りに優しくフィットするように考慮しています。使う素材にもこだわりを尽くすのがドレイクス流。コットンもソフトな高級品を、その他リネンやシャンブレーなど、週末を始めとした寛いだ時間の装いに適した素材も多数ピックアップしています。
—デザイン的にもドレイクスならではのディテールが随所に見られますね。
開放的なカッタウェイカラーに機能的なインバーテッドプリーツ、それにパンツからシャツが飛び出さないようやや長めの着丈にしてあるところも特徴です。また通常、フロントには7個のボタンを配置するのが一般的ですが、屈んだ際などにボタンとボタンの間が開かぬよう、間隔を狭めた8個ボタンを採用しています。インバーテッドプリーツをウエスト部分にて一旦ステッチングしていますが、それは腰回りにおいて身ごろがダブつかないための工夫。常にエレガントに着こなせる配慮も英国的な美観への追求と言えるでしょう。
—そのインバーテッドプリーツはドレイクス独自のディテールでしょうか?
いえ、伝統的なテーラーの仕立て方のひとつでもありますし、ミリタリーウェアの応用でもあります。銃を撃つ姿勢を助けるために、こういったインバーテッドプリーツを施したシャツを見たことがあります。そのようなアーカイブを参考に、各ディテールをデザインしています。
—今季のドレイクスシャツにはカッタウェイカラーが多く見られます。この襟型がドレイクスの基本なのでしょうか?
襟はドレイクスのシャツのアイデンティティを物語る重要なパーツです。あまり大袈裟になりすぎず適度にシックに見えるデザインを心掛けています。現在、ファクトリーでは25種の襟型をストックしていますが、種類を増やすことは難しいことではありません。問題なのはそのなかでどれが一番ドレイクスブランドに相応しいか。色々考えた末に、現在はカッタウェイとボタンダウンをドレイクスのメインの襟型に決めています。
—英国的なセミワイドは作らないのでしょうか?
実は一番最初のサンプルがセミワイドでした。極めて伝統的な襟型は、確かに今見るとフレッシュですね。我々がOEMを引き受けているブランドのひとつに英国にて長い歴史を誇るハンティングをひとつのバックボーンに持つブランドがあります。そのブランドのために作ったシャツがセミワイドのものでした。
—昨今はイタリア製のシャツが日本を席巻していますが、イタリアンシャツと英国製のシャツはどのようなところに違いがあると考えますか?
イタリアのシャツにはフランボヤン(仏語=きらびやか)なキャラクターを備えているのが特徴的。しかし私達のシャツはそういったテイストのものではありません。英国とイタリアでは気候も環境も異なります。素材にしてもタフで堅実な印象のものが多いのが英国メイド。長く着続けることで味わいが増していきます。それと確実な縫製と安心感のあるルックスなど、英国製のシャツは派手さこそないものの、実用品としての深い魅力があると考えています。確かにドレスシャツのシーンのなかで考えると、イタリア勢の進出は目覚ましいものがあります。しかし少数だからこそチャレンジできることも多いと私達は信じているのです。現在、ドレイクスのタイは英国製ネクタイのひとつの象徴だととらえられています。シャツもまたそういったレベルにまで高めていきたいと思っています。
—ドレイクスはシャツとタイの両方を手掛けるブランドであることが大きなポイントかと思います。そういう点で、何か特別な取り組みはありますか?
現在さまざまなトライを続けています。モダンなシャンブレーシャツにクラシカルなプリントタイを合わせることを前提に両者を平行してデザインすることなどは、ドレイクスならではだと思います。また、リラックス感のあるシャツ&タイスタイルを提案しています。そういった他にはない提案を多彩に打ち出せるようこれからも努力したいですね。
—ロンドンは色々なスタイルが生まれる街。そのなかでドレイクスはどのポジションに位置するブランドだと分析していますか?
モードを含めたストリートカジュアルと、その対極であるクラシックなドレススタイルのふたつが大きなロンドンのファッションシーンと言えるでしょう。ドレススタイルも昨今は細分化が進み、サビルロウでスーツを作るような人達とは別に、サルトリアスタイルをひとつのファッションとしてとらえる層も出てきています。共にスーツをユニフォームとしてとらえるのではなく、着飾るひとつの手段と考えているのがポイントです。ニュークラシックとでも呼ぶそれらの存在は確かに新しいムーブメントですが、今後増えるかどうかは分かりません。なぜなら世界的にメンズシーンは著しくカジュアル化の方向に流れていますので。そしてどのように自分たちをポジショニングしているかということですが、我々のショップロケーションがある意味ひとつの回答になっています。伝統的なスーツを扱うエリアにサビルロウがあり、そしてトレンドやモードを発信する場所としてボンドストリートがあります。ドレイクスのショップはその二つの通りを繋ぐクリフォードストリートに位置しています。クラシックとモダン、そして過去と未来。それらのエッセンスを繋ぐ存在として、ドレイクスを発展させていきたいと考えています。
Drake’sのアイテムは以下URLからご覧いただけます。
https://www.british-made.jp/fs/british/c/drakes