英国の男性にとって、メガネ、傘、靴は三種の神器といえます。特にメガネは視力を矯正する器具という一義的な存在理由を超えて、スタイリングを完成形へと導き、人となりを確固たるものにする装置としての役割を果たします。ここでは、第二次大戦時の政治家から、稀代のミュージシャン、さらには最近の映画にも登場したスパイにいたるまで、3人の英国人と彼らのメガネに着目していきたいと思います。
今でも人気の「偉大な英国人」が愛したメガネ
ニカラグアの切手に描かれたウィンストン・チャーチル
第2次世界大戦で英国を勝利に導いたウィンストン・チャーチルは、2002年にBBCが行った「偉大な英国人」投票で1位に選ばれるなど、現在も国民的人気を誇っています。シャンパンはポル・ロジェ、葉巻はロメオ・イ・ジュリエッタ、車はロールス・ロイス、シャツはターンブル&アッサー、スーツはヘンリー・プールといったように最上のものを愛した目利きの人としても知られ、英国紳士の代表格として語り継がれる存在です。そんな彼の愛用品のひとつが、英国で1777年に創業したC.W.ディキシー&サンのアイウエアでした。7人の英国王や王女も愛用したという名門ブランドのものです。 自筆の似顔絵にもメガネを描いた男
アゼルバイジャンの切手に登場したジョン・レノン。
コンゴの切手に描かれたジョン・レノンも丸メガネ姿。
ジョン・レノンといえば、メガネがトレードマーク。サインに添える自分の似顔絵にもメガネを描き入れていたほどです。おなじみの丸メガネを掛けるようになったきっかけは、1967年の映画『ジョン・レノン 僕らの戦争』だとされています。当時の英国では、NHS(National Health Service)という保険制度のもと、国民は申請すると無償でメガネを配給してもらえたそうです。兵士の役を演じる際、ジョン・レノンは国から無償で配られる丸メガネを小道具として用いたのです。そのメガネを国に供給していたのは、ロンドン郊外で1932年に設立されたアルガワークスという老舗のメガネ工場でした。 息子のショーン・レノンも丸メガネがお似合いです。
スパイ映画にもメガネが欠かせない
©2015 Twentieth Century Fox Film Corporation
カトラー・アンド・グロスは、1969年に創業した老舗中の老舗。
こちらは、2015年に公開された映画『キングスマン』のワンシーン。ロンドンのサヴィルロウにあるテーラー、キングスマンの職人を演じたのは『英国王のスピーチ』におけるジョージ6世の役で英国アカデミー賞主演男優賞を受賞したコリン・ファース。キングスマンがテーラーというのは表の顔で、実態はどこの国にも属さない世界最強のスパイ機関であるという設定が英国好きにはたまらない映画となっています。ビシッとダブルのスーツを着こなしたハリー・ハート役のコリン・ファースが掛けている黒縁メガネは、カトラー・アンド・グロスのもの。ちなみにキングスマンのトップであるアーサーの役は、名優マイケル・ケインが演じています。マイケル・ケインといえば、彼がスウィンギング・ロンドンのアイコンだった時代(1960年代)にオリバー・ゴールドスミスを掛けていた姿が想起されますね。 カトラー・アンド・グロスは、1969年に創業した老舗中の老舗。
Michael Caine (1965) by David Bailey © Camera Eye Ltd.
1965年に撮影されたマイケル・ケイン。細身のスーツに骨太なオリバー・ゴールドスミス。
1965年に撮影されたマイケル・ケイン。細身のスーツに骨太なオリバー・ゴールドスミス。