アート作品のように織物を紡ぎ出すデザイン・デュオ、Wallace Sewell インタビュー | BRITISH MADE

アート作品のように織物を紡ぎ出すデザイン・デュオ、Wallace Sewell インタビュー

2017.12.04

アートのバックグラウンドを持つ二人が、糸と布を用いて絵画のようにデザインを起こし、唯一無二のファブリックを生み出し続けるハリエット・ウォレスとエマ・スウェルの二人によるウォレス&スウェル(Wallace Sewell)。イギリスの織物工場で丁寧に紡ぎ出されるファブリックは、贅沢な肌触りや使い心地を備え、さらにその独創的な色使いや幾何学模様のデザインに魅了されるファンは、世界中で後を絶たない。顧客にバーニーズ ニューヨークやロンドン・アンダーグラウンド(地下鉄)、テート・ギャラリーなどが名を連ねていることも、ブランドの人気を証明する強力な手がかりとなるだろう。今回は、日本を訪問中の共同設立者、エマ・スウェル氏にインタビューをし、伝統とモダンを融合させた創作の背景について、幅広く話を伺った。
20171201_IMG_2377 エマ・スウェル(Emma Sewell)
ーテキスタイル・デザインに興味を持つようになったきっかけを教えてください。

大学では、共にアートを勉強していました。絵画のように模様や構図を創作でき、絵の具の代わりに糸と繊維を用いて色を混ぜ合わせ、生地の感触や見た目をコントロールしていく織布に関心を抱いていましたね。

ーお二人の出会いやご関係はどのようなものでしょうか?

私たちは、30年以上前にロンドンのセントラルスクールオブアート(Central School of Art)でテキスタイル・デザインを勉強していた時に出会い、その後ロイヤルカレッジオブアート(Royal College of Art)で修士号を取得しました。ロイヤルカレッジオブアートを卒業後、およそ2年間に渡ってスタジオをシェアし、その後Wallace Sewellとして最初のスカーフ・コレクションを発表することになりました。1992年にロンドンで行われたクラフトフェアでコレクションを立ち上げ、その時は、個人のお客様のみに販売しようと考えていたのですが、バーニーズ ニューヨークから注文をいただくことができたのです。その後、バーニーズへは毎シーズン新作を卸し、25年経った今もなお、注文をいただいています。
20171201_Harriet-&-Emma-portrait_0359 左がハリエット・ウォレス(Harriet Wallece)。
ー他にはないカラーリングや幾何学的なフォーマットなど、個性的なファブリックデザインのアイデアやインスピレーションはどこから生まれていますか?

大学を卒業後、私たちは別々の織物デザインに没頭していました。ハリエットは、機織りを使った独創的な構図を生み出し、インテリア用のファブリックを制作していました。私は、収縮する糸やツイストした糸を用いた織布の構図に惹かれ、ファッション用のファブリックを制作していました。とはいえ、バウハウスから学んだ色彩の理論や、独特な色調を駆使しながら珍しい仕上がりを生み出すことへの関心は常に共通していますね。また、糸の組み合わせや織りの模様で、デザインの中にコントラストや意外性を与えることも好きです。現在は、コレクション用にさまざまな分野のデザインに取り組み、機織りの研究も楽しんでいます。色彩や絵画の構図からインスピレーションを得ることが多く、そこから抽象的な幾何学模様を創作しています。
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ーブランドのコンセプトがあれば教えてください。

Wallace Sewellは、コンピュータに頼ることなく、手作業の機織り機に連結させた機械を用いて、独創的で意外性のあるファブリックを生産するという、シンプルなコンセプトを掲げています。審美的な観点においては、現代や前世紀のヨーロッパ・デザインから影響を受けた、イギリスのあらゆる伝統的な織物デザインの要素を組み合わせつつ、現代的な雰囲気を持たせています。

ー製造や生産方法はどのように行っていますか?

ロンドンとドーセットにある私たちのスタジオで、小さな手織り機を使って織物のサンプルを作り、織りの模様や色の組み合わせを試しながらデザインを作っていきます。その後、デザインの仕様書を作成し、織物工場へ送るのですが、その時に全ての糸と色を選定し、織物の構図を明確に伝えます。織物工場の職人たちは生地を織るまでデザインのヴィジュアルを見ることなく、ただ文字と数字の仕様書だけで製造していくのです!生地を織った後は別の工場に送られ、洗いとプレスをかけて完成させます。最終的には織物工場へ再び生地を戻して手作業でスカーフの形に裁断し、世界中の小売業者へと発送されます。

ー最終的に製品になった際に大切にしていることは何でしょうか。

色彩や糸の組み合わせ、独自の幾何学模様、そして美しい生地の感触から醸し出される、ブランドの“個性”ですね。
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ー英国製にこだわる理由や良さを教えてください。

私たちのデザインはとても複雑なので、それを職人さんたちに理解してもらうためにも、すぐに織物工場へ足を運ぶことができるように、イギリスで製造を始めました。イギリスの織物産業には長い歴史があり、私たちはそうした伝統的な技術との連携を望んでいましたし、イギリスのテキスタイル業界では未だにそれが可能なのです。織物工場で働く人々と関係を築いていくのも好きですし、海外の顧客たちも“英国製”であることを常に望んでくれています。

ーこれまでに様々なコラボレーションを行っていますが、そうした柔軟な活動はブランドにとってどのような影響を及ぼしていると思いますか?

これまでに手がけたコラボレーションやプロジェクトは、重要な展覧会の横で売られるテート・ギャラリーの特注スカーフから、ロンドンの地下鉄のシートに使われるファブリックのデザイン、ロンドンのジミ・ヘンドリックス博物館で使われるベッドカバーのレプリカなど、実に多彩です。さらに私たちは、家具用ファブリックの開発を手がけるDesigntexや、ライフスタイル・ストアWest Elmのゲスト・デザイナーとしても活動しています。たった4色という制限の中でデザインしたロンドンの地下鉄シートや、風景画から着想を得て、作品の本質を捕えたシンプルで抽象的なストライプ柄のスカーフ・デザインなど、どのプロジェクトやコラボレーションも、我々のデザイナーとしての幅を広げ、重点的な取り組みへと繋がっています。こうしたプロジェクトから学んだことは、常にWallace Sewellのデザインへと活かしていますね。
20171201_3913-large ‘Handel & Hendrix in London’ – THE LONDON HOME OF JIMI HENDRIX OPENS
Photo:www.wallacesewell.com
20171201_metro TRANSPORT FOR LONDON – CROSS RAIL
Photo:www.wallacesewell.com
ーブランドを運営する上で、最も醍醐味を感じる瞬間はどんな時ですか?

個人的な観点で作品を制作でき、ブランドを新たな方向へと発展させていくことができるのは素晴らしいことですね。まさに、アーティストとして創作活動をしているような感覚です。そして、自分たちが作ったスカーフを首に巻いている人や、地下鉄のシートを見かけた時には、今でも嬉しくて心が踊ります。

ーロンドンでお気に入りの場所やお店があれば教えてください。

ハリエットが好きな場所は、ロンドンのバッターシーパーク(Battersea Park)ですね。彼女は今、ドーセットに住んでいますが、子供達が小さい頃にはいつもこの公園に連れて行っていました。私はカムデンに住んでいるので、いつも近所のケンティッシュタウンハイストリート(Kentish Town High Street)でショッピングを楽しんでいます。そこには大きなブランドはほとんどなく、様々なカルチャーを反映した個人店や、小さな食料品店がたくさん軒を連ねています。

ーまた日本に対してどんなイメージをお持ちですか?

私はこれまでに2度日本を訪れたことがあり、伝統とモダンを組み合わせた、魅力的かつ刺激的な日本の文化に触れることができました。今回は、また日本へ戻って来ることができて、とても嬉しく思っています。ハリエットは日本を訪れたことがありませんが、日本の素晴らしいデザインにいつも感心していますね。
20171201_IMG_6208 20171201_IMG_6241 共に来日したマネージング・ディレクターのケイト・ウォルシュ(Kate Walsh・写真下)と創業100年を超える東京都新宿の富田染工芸にて染物体験。
ー最後にブランドが掲げる今後の目標などがあれば教えてください。

より多くのコラボレーションを行っていきたいですね。そうすることで、新たな方向性を見い出すことができますし、テキスタイルに関連したデザイン以外の分野へも表現を広げていけるかもしれません。

Interview Photo by Mio Matsuzawa
Text by Masayo Fukaya


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