1990年代と古着
「ヴィンテージクロージング」といえば聞こえは良いですが、私が出会った当時はもっぱら「古着」と呼ばれていた時代。90年代が終わり2000年に差し掛かろうという時でした。バブルがはじけた90年代初頭、ファッション業界ではいわゆるDCブランドが終わりかけの時代でしたが、感覚的にはまだ世の中に溢れていたように思います。好きなブランドの服を着るのがトレンドであり、服にお金をかけることが当たり前の時代だったと思い返します。当時はインターネットメディアがなかったため、情報は雑誌で見つけるしかありません。「“MEN’S NON-NO”のページをめくりながら気に入った服を見つけ、マルイへ足を運ぶ」、自分もそんなふうに服と出会っていました。そして90年代後半になると、景気が停滞してきます。会社でも経費削減の動きが出始め、家庭でもだんだんと財布のヒモが固くなり始める頃です。
ユニクロ流行りの中、個性を求めて
ユニクロのフリースがブームになったのは正にこの頃で、1998年~2000年。世の中がデフレとなったことが後押しとなり、フリースは爆発的に売れました。ロープライスとカラーバリエーションはとにかくわかりやすかったのです。私もどんなものかと買ってみました。軽くてあたたかい商品力を感じる一方で、難点は外に出ると同じフリースを着ている人をそこかしこで見かけることでした。ある意味すごい社会現象です。服を好きな方なら分かるかと思いますが、やはりアイテムが他の人とかぶることには抵抗があります。かくいう私もそんな一人。人とは違った格好をしたい、そんな気持ちから、この頃から自分の服探しが始まります。服を探しに行ったお店には2つのタイプがありました。一つはセレクトショップ。有名どころの中でも好きだったのはトゥモローランドでしたが、より好きだったのは大手よりも比較的こじんまりとしたショップ。雑誌の後半のページに紹介されているようなお店を見つけては、週末に出かけてみるということをしていました。そしてもう一つが古着屋。これを知るきっかけとなったのは、会社の同僚。以前書いたコラム「コーディネートの要は靴。英国靴Church’sの魅力。」でも登場したイギリス靴の魅力を教えてくれた彼です。イギリス古着を皮切りに、フランス古着、アメリカ古着と、とにかく足で稼いで見まくりました。プライスは良心的で、何よりデザインが見たこともないものばかり。とても新鮮でした。ユニクロブームが世の中を席捲していた時、私にとって古着のマーケットは服を選ぶ大切な選択肢の一つだったのです。
ヴィンテージクロージングの魅力
ヴィンテージの魅力は今にはないデザインとシルエットです。そしてエイジング感。時を経て今に残っている服は、私達が扱う雑貨と同様、とても価値あるものだと思っています。大切に着られ現代に残った服に袖を通すと、それまで大事に扱っていた方たちの暖かな気持ちと触れ合うようです。雑貨を置いた空間に深みが増すのと同じように、ヴィンテージを取り入れたコーディネートには他の人とはひと味違う、その人らしさやオリジナリティを感じることができます。そういう方のコーディネートは、ぱっと見た時に、「あれ?」と何か違う魅力を感じるものです。
トレンドの服を選ぶことは、今の時代比較的やりやすいのではないでしょうか。雑誌やWEBでいくらでも情報は入手できますし、外に出れば実際にそれを着ている人を見ることができます。ヴィンテージを選ぶとなると少し事情が違ってきます。最近はヴィンテージ系の雑誌・メディアもありますが、現代の服のような大きなトレンドがあるわけではありません。服を選ぶ決め手は自分の感性。数あるデザイン・シルエットの中から、自分のアンテナを頼りに選んでいくことは、ヴィンテージクロージングを着る面白さだと思います。
選び方のコツ
ここでは私がヴィンテージクロージングを選ぶ時に気を付けているポイントをいくつかご紹介してみたいと思います。ヴィンテージの取り入れ方にセオリーはありませんが、「ヴィンテージを着たことがないんだけど、気になっている」方にとって、着るきっかけとなれば幸いです。1:ショップに足を運び、実際に着てみる
どこの国の商品を置いているかによってお店の雰囲気が違ってきます。ヨーロッパ系なのか、アメリカ系なのか。ヨーロッパ系でもイギリス系なのかフランス系なのか、というように。それを意識すると自分の好みの傾向が見えてきますし、数多く回るとショップに入っただけで、このお店には自分の好きそうな服があるかも、という勘が働くようになります。そして気になる服を片っ端から着てみることです。どんな服でも試着は当然ですが、特にヴィンテージはサイズもシルエットもすべてが一点もの。着てみないことには全くわかりません。ヴィンテージ系のショップでは、お店の方に試着したいとひと言伝えたら、そのあとは断らなくてもどんどん試着できる雰囲気を感じます。2:持っている服と合わせる
全身をヴィンテージで揃えるのも魅力ですが、やや頑張っている感やコスプレ感が出てしまうこともあります。まずは今持っている服と合わせることで、日常的にもヴィンテージを気安く楽しめるのではないでしょうか。そのためお店に行くときは、合わせたい服を着ていくことをおすすめします。そしてお店の方とも会話をしながら合わせ方を聞いてみてください。オーナーやスタッフの方のこだわりも聞けてとてもためになるはずです。3:コンディションに気をつける
年代物であるがゆえに気を付けたいのはそのコンディションです。ヴィンテージなので、当然完全な状態ではないと思います。いわゆるデッドストックと呼ばれるものが高価なのはある意味仕方がないことですね。購入前に全体的にチェックしてみてください。穴あき、しみ、退色、など。穴あきの面積が小さければコストはかかりますがリペアできる範囲です。また、しみ・退色などは程度の差にもよりますが、裏地であれば表地ほど気にならないと思います。そういう点を考慮すると選択肢も広がると思います。ヴィンテージクロージングの取り入れ方
1:ジャケット/アウター/トラウザース
ジャケット・アウターにヴィンテージを取り入れることはわかりやすいです。見た目の印象が変わるいちばんのアイテムです。またヴィンテージのトラウザースは比較的ゆったりとしたシルエットにバリエーションがあるアイテムです。そこを楽しんでいただきたいです。できればベーシックな色やデザインが見つけられれば言うことはありませんが、少し難しいかもしれません。全体的に落ち着いた感じの色合いや、やや派手な色でも面積が小さかったり、自分自身が好きな色であれば馴染みやすく着やすいでしょう。 左:落ち着いたブルーグレーのコーデュロイジャケット 右:真冬にふさわしいヘビーウェイトのアイリッシュツイードジャケット
試着の際にサイズに気をつけると、長く付き合える服に出会えると思います。正直なところジャストサイズを見つけることは、なかなか大変です。トップスでは、肩幅・身幅・袖丈のリペアは可能ですがややコストがかかります。ご注意ください。ボトムスではウエスト・丈。これはリペアしやすいポイントです。直して着ることもぜひ考えてみて下さい。余談ですが、私はサイズ選びの難しさを経験した後、フィットした服に出会った時「これは自分のための服だ!」と感じて、逆になんとか着こなしたいと、頭をフル回転して自分の持っている服とのコーディネートを考えました。この経験はとてもためになりました。そしてヴィンテージを着る楽しさだと感じています。
2:小物
更に取り入れやすいアイテムとしては小物があります。ややメンズ寄りのアイテムですが、ストールやネクタイなど、目に入る面積の小さいものから入ると違和感なく身に着けられるのではないでしょうか。それでいて、少し見たことのないデザインや生地感だと、見た目にはとても新鮮に映ると思います。ー 注目すべきストール
この時期の寒さではマフラーは手放せませんが、秋から冬に入るような時期、もしくは春先には、少し薄めの生地を使ったヴィンテージストールが、実は自分らしさを出せる頼れるアイテムです。カジュアルではマフラーと同様に首に巻けばいいですし、ドレス系であれば、ジャケットとシャツの間に入れるととてもクラシックな雰囲気を作れます。タイドアップならより一層ドレス感が演出できそうです。 左:巻いてもコンパクトなヴィンテージストール 右:ジャケットの中に入れてドレス感を演出
ー 薄めのネクタイ
これも年代によりデザイン・生地の厚み・長さなど様々なのですが、現代のシャツに合わせるとしたら、70年代のもの(70年代のタイは比較的大きく肉厚のものが多い)以外であれば、合わせることができると思います。おすすめとしては生地が薄めのもの。ノットが小さくできることで、クラシックな雰囲気が出てきます。そしてシャツとの組合せにもよりますが、ヴィンテージのカラーバーやタイバーなどのアクセサリーも使えるようになります。 ヴィンテージタイにはタイバーやカラーバーをあしらいクラシックな雰囲気で
同じ服を長く楽しんでいくことは、どんな時代でも、どんな国でも等しく持っている価値観だと思います。ファストファッションの登場でその感覚は薄れたかもしれませんが、逆に短く着てすぐ手放すことが普通にできてしまう今だからこそ、長く着ていく良さを改めて大切にしたいと思います。ヴィンテージクロージングは正にそんな服です。 「今」だからこそ、「昔の服」「今の服」をミックスしながら取り入れることができるわけです。ある意味とても贅沢なことではないでしょうか。そんなスタイリングをぜひ楽しんでみてください。
富澤利彦
靴・服好きが高じ30代に初めて渡英。以来、会社員時代はずっとブリティッシュスタイル。ファッションから広告・雑貨にも興味は広がり、2016年から妻が始めた「Antiques Harmonics」に本格的に参加。新旧の英国モノを毎日楽しむ日々を過ごしています。
Antiques Harmonics
(アンティークス・ハーモニクス)
いつものファッションを“背伸びしないで新鮮に変える”Men’s/Ladies’アクセサリーをはじめ、企業ノベルテイ、ステーショナリー、レアな鉄道・Royal Mailグッズまで幅広くセレクト。「イギリスらしい/デザイン性がある/くすっと笑える」そんなココロを豊かに満たしてくれるアイテムたちを探し当てては、マーケットや蚤の市、イベントで販売しています。皆さまとお会いできることを楽しみにしております。
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