「靴磨きのプロに聞く、工程別磨きのポイント」 | BRITISH MADE

靴磨きのプロに聞く、工程別磨きのポイント

2018.06.16

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英国靴は付き合い方次第で10年、20年と履き続けることができるもの。長く付き合っていく過程で自分自身のファションやスタイルの一部となり、また信頼できる道具にもなり得る大切なパートナー。そんな英国靴と長く付き合い続ける為に必要なことの一つが日々のお手入れです。 今回は、靴磨き日本選手権大会3位の実力を持ち、静岡初の靴磨き専門店『Y’s Shoeshine』のオーナー兼靴磨き職人である杉村 祐太氏に靴磨きの工程別ポイントを解説していただきます。

1.靴磨きに必要な道具

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「左から順に使っていく道具になります。まず必要なのはホコリ落とし用の馬毛ブラシ。そして、汚れを落とすクリーナー、栄養を補う為のクリーム。それからクリームを革に浸透させる為の豚毛ブラシ、さらに鏡面磨きに必要なワックスと適量の水分を補う為のハンドラップ、仕上げ用の山羊毛ブラシ。クロスは鏡面磨きのみ表面が起毛されているものを使用し、それ以前の工程では比較的目が粗いものを使います」

2.最初のブラッシングは強すぎず、弱すぎず

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「最初に行なう工程は靴の表面についたホコリを落とすブラッシングです。ここでのポイントはブラッシングの強さ。馬毛ブラシで行ないますが、馬毛は豚と山羊の毛と比べて丁度中間に位置する硬さなのでブラッシングも中間の強さで行います。この後行なう豚毛のブラッシングの強さを10だとすると7くらいのイメージです。」

3.汚れ落としの際は同じ場所をずっと拭かない

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「革の汚れを落とすクリーナーを使う工程ではつま先からスタートし、前から後ろへ流れるように表面の汚れを一度拭き取ります。そしてもう一度、今度は革の中の汚れを取るイメージで同じようにつま先からかかとまで拭き取ります。しかし、クリーナーで汚れが取りきれない場合もあります。その際はローションを使用して再度汚れを拭き取ることもあります。クリーナーに関してはBrift H のTHE CLEANER 「SOFT」と「STRONG」を使い分けており、ローションはSaphirのレザーバームローションを使用しています。また、ここで使うクロスは綿100%で目がやや粗いものを使っています。」

4.クリームは指の腹全体を使い塗りこむ

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「使うクリームは染色力が強くないクリームを選ぶとシミなどが出来にくいので良いです。私はBrift HのTHE CREAMを使っています。茶系でクリームの色の濃さで迷った際は薄いもので試すことをオススメします。イメージする色が市販で無い場合は透明のクリームで希釈してイメージに近い色にすることもあります。靴はテンションのかかる箇所に多くクリームが入ることもありますし、またパーツが多い靴はパーツ毎にクリームの浸透度が違うなんてこともあるので指で浸透度を確かめながら塗りこみます。塗り残しが無いように指の腹全体を使い、細かい部分までしっかりとメンテナンスします。」

5.磨きムラを作らないブラッシング

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「指で塗ったクリームをさらに革へ浸透させる為にブラッシングを行ないます。ここでのポイントはムラ無く磨くことです。シュッと表面を擦るというよりも革へクリームをねじ込むというイメージで強めに磨きます。革に厚みがあるものはその中でも特に強く磨きます。使用するブラシは一番コシのある豚毛です。また、クリームの色が混ざらないように色毎にブラシを分けると良いです。基本は縦方向へ直線に磨く、届かない部分は円を描くように磨く、シワの向きを読んで磨く等々工夫すると全体をムラ無くブラッシングが行えます。」

6.乾拭きが鏡面磨きの仕上がりを左右する

20180612_stories7 強めにブラッシングをした後でも表面にはこれだけ余分なクリームが残っている。
「表面に飽和したクリームを拭う為に乾拭きを行ないます。ここで使うクロスも今までと同じものです。この工程でしっかりと乾拭きを行なわないと鏡面磨きの際に光りにくくなるだけでなく、余分なクリームがホコリや湿気を吸収してしまい、汚れやカビの原因になることもあります。先程のブラッシングで革の中に浸透させたクリームは落ちませんのでご安心を。表面を満遍なく、かつ強過ぎず拭うのがポイント。ここまでが一般的なシューケアの工程です。」

7.溶剤とロウ分の割合の感覚をつかむ

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「ここからは鏡面磨きの工程に入ります。まず使うのはワックス。私は新しいSaphirのビーズワックスポリッシュと少し使ったSaphirのビーズワックスポリッシュ、そしてBrift H のTHE WAXの3つを使い分けています。どう使い分けるかは正直感覚です。しかし、3つのワックスを使うのには理由があります。新しいSaphirのビーズワックスポリッシュは溶剤が多く、逆にBrift H のTHE WAXはロウ分が多いです。そして少し使ったSaphirのビーズワックスポリッシュは新品と比べ、溶剤が飛び丁度二つの中間的な立ち位置になります。この3つを革の特徴に合わせて配合して光らせていきます。」
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「溶剤が多いものはムラ無く均一に塗りやすいというメリットがありますが、逆に光らせるのが難しいです。ロウ成分が高いものは光りやすいですが、慣れないと光り方にムラが出てしまいます。均一にキレイに光らせるにはこの二つの絶妙なバランスが必要となりますが、結局のところ、この感覚は何度もトライをして自分自身で得ていく部分かと思います。ただし、これから鏡面磨きに挑戦する方にオススメしたいのは柔らかい(溶剤が多い)ワックスと硬い(ロウ分が多い)ワックスを交互に混ぜて使うとその感覚を早くつかみやすいのではないかと。まずは新品のSaphirのビーズワックスポリッシュとBrift H のTHE WAXの二つでトライしてみてはいかがでしょうか。」

8.よりキレイに光らせる為には

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ワックスの色は基本的には靴と同色をオススメします。どの色にも使えるナチュラルという透明も選択肢としてありますが、場合によっては曇ってしまうことがあるので同色がベターです。ワックスで光らせていく際に水も使いますがあくまで微量です。この水分調整を行なう道具としてオススメなのがハンドラップです。叩く強さで出る水の量が変わる為、少し慣れが必要です。しかし、使い込んでいけば適量の水分が取れるようになります。そして鏡面磨きに使うクロスは起毛感のある柔らかい綿がオススメです。」

9.仕上げのブラッシングは優しく

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「鏡面磨き後に使うブラシは一番柔らかい山羊毛です。軽く毛先に水をつけ、全体を優しくブラッシングします。鏡面磨きしている部分としていない部分を自然に繋げ、全体を整えます。豚毛のブラッシングを10とすると3~4くらいの強さで行ないます。」

10.仕上げの好みも千差万別

20180612_stories12 磨き終えたシューズがこちら。上品な光沢感をまとっている。杉村氏は普段からお客様の好みや服装、TPOに合わせて仕上げ方を調整している。
「セミドレスの服装をイメージして仕上げました。完全にスーツ用であればもっと光らせても良いかと思いますが、少しカジュアル要素のある服装でも合わせられるようにしています。」

プロに聞く靴磨きのポイントはいかがでしたでしょうか。 まずは英国靴と長く付き合う為に必要なお手入れの参考に。 そして靴好き、靴磨き好きの皆様は自分の好みに合った鏡面磨きを行なう為の参考にして頂けますと幸いです。

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杉村 祐太さん

高校生の頃、父の影響から靴を磨き始める。登校時はキャップトゥーの靴を履き、それを毎日磨いていた。そして大学、社会人を経て10年近く続けた習慣は、次第に周囲の“要望”へ変化する。2014年には活動を本格化させ、現店名を屋号として設置。2018年2月に静岡初の靴磨き専門店『Y’s Shoeshine』を開店。「World Shoe Shine Championship2019」で優勝。
www.ys-shoeshine.com/

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