靴磨きのプロが本音で語る、シューシャインの価値 [前編]|Brift H 代表 長谷川 裕也 × Mason & Smith 代表 John Chung | BRITISH MADE

靴磨きのプロが本音で語る、シューシャインの価値 [前編]|Brift H 代表 長谷川 裕也 × Mason & Smith 代表 John Chung

2018.09.06

Brift H 代表 長谷川 裕也 × Mason & Smith 代表 John Chung Mason & Smith 代表 John Chungさん(左), Brift H 代表 長谷川 裕也さん(右)
今やメンテナンスという習慣の枠を越えて、幅広い世代から注目を浴びているシューシャイン(靴磨き)。新たな靴磨きのイメージを構築したパイオニア的存在であるシューシャイナー(靴磨き職人)のBrift H 長谷川さん、そしてシンガポール初のシューシャインショップ Mason &SmithのJohnさん、新旧シューシャイン世界チャンピオンによる対談が実現。 今回は靴磨きの価値を題材に、お店にまつわるエピソードやシューシャイン市場、ビジネス目線の話まで、様々な切り口で語ってもらいました。前編、後編に分けてお届けいたします。

-まずはお2人が靴磨き職人になろうと思った経緯を教えて下さい。

長谷川 裕也 「お金を稼ぐ商売、ということで始めたのが元手の掛からない靴磨きでした。 私は二十歳の頃、日雇いのアルバイトで食い繋ぐ生活を続けていましたが3,4日仕事が無い日が続いてこれは本当にマズい…という時に閃きました。 始めてみたら新しい挑戦が出来るし、お客さまに必要とされている。 他には無い面白さや、やり甲斐があるなと感じて続けていました。」

John Chung 「私は2012年頃から、ヴィンテージ・フリーマーケットで自分が見つけた革靴を売って生活していました。ヴィンテージシューズは当然きれいに磨いた方が高く売れますよね。それがきっかけでシューシャインにも興味を持つようになり、YouTube等を参考に見よう見まねで始めました。 そして2014年にはマリーナベイ・サンズというホテルの専属シューシャイナーとして1年間働きました。そこで腕を磨き、翌年にMason & Smithをオープンさせました。」

20180906_stories2 Brift H代表の長谷川 裕也さん 2017年度 World Shoe Shine Championship 優勝

-お店では年間どのくらいの数を磨かれているのでしょう。

長谷川 「Brift Hの青山店だけですと年間約8,000足、月間にならすと約650足ですね。恐らく現在の需要を考えるともっと増やすことも出来るかと思いますが、1足1足丁寧に時間を掛けて磨くスタンスなので、このくらいが丁度良い足数だと感じています。」

John 「Mason & Smithは年間が約3,000足くらいです。シンガポールは亜熱帯という気候もあり、日本ほどまだ革靴を履くことやスーツを着る文化が浸透していませんが徐々にそういった需要が増えてきています。」

-ポリシーにしていることは何でしょう?

長谷川 「お店を始めてから10年間、カウンタースタイルというのがベースにあります。 靴磨き屋だけどサロン、ラウンジのような雰囲気を楽しみながら、靴好きが集える場所となるように“シューズラウンジ”としてやっています。また、『経年変化」するお店をコンセプトに、来る度に格好良くなっていくお店を目指しています。」

20180906_stories3 Brift H 青山店のウェイテイングスペースのテーブル。自身でレザーを張ったそう。靴と同じようにエイジングしていくお店をコンセプトにしている。
John 「Mason & Smithはシューシャインのみならず革靴のリペアやリカラー・修理・復元など、最初から最後まで一人の職人が細心の注意を払いながら、一貫したサービスをご提供することをコンセプトにしています。また、時代と共に、自分達のサービスも進化、変化できることをテーマにしています。オンラインショップや動画でのシューシャインレクチャーといった技術を公開している点も特徴の一つですね。また、IPadでのレジキャッシャーといったシステマティックな面も少しずつ導入していこうと考えています。」

20180906_stories4 Mason & Smith 代表 John CHUNGさん 2018年度 World Shoe Shine Championship 優勝
長谷川 「シューシャイン以外ではワークショップや企業へ靴磨きの研修に赴くこともあります。 しかし、あくまで対象となるのは1人1人のお客さまであってB to Cの関係性に重きを置いています。」

-開店当初から振り返ってみて、お客さまの層に何か変わってきたことはありますか。

長谷川 「僕は確実にありますね。色々な所があるのですが、まず10年前は1足1,500円でやっていました。 しかし当時はその値段ということもあり、とにかく沢山のお客さまに来ていただいて…日によっては朝、階段下まで行列が出来ることもありました。(笑)そんな特に、安定したサービスを提供する為にやむを得ず値段を上げたんです。そうしたら来店者数もやや落ち着き、来て頂くお客さまの層にも変化が生まれました。お金持ちというか、本当に靴が好きな人が集まるようになりました。値段を上げてから、磨く足数は減りました。しかしその時から、お店のサービスの価値が『ただのクリーニング』ではなくて、ちょっとしたイベントみたいなものに変化した気がします。今でも全国からわざわざうちまで来てくれる方もいらっしゃいます。そして革靴も段々嗜好品になってきている部分もあるかと思います。その根拠としてスニーカーブームがあるにも関わらず、20代の方で高級な英国靴を持ってくる機会が増えています。恐らくマインド的に『良いものを長く使う』というスタイルにシフトしてきていると思います。10年前には無かったインスタグラムやSNSの影響もあると思います。高くても頑張って買うという人が増えて、ものすごく良い傾向にあると思いますね。」

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John 「私もオープンした当初とは明らかにお客さまの層が変わったと実感しています。 まず持ち込まれる靴のグレードが変わりました。 当初は既製靴を磨くことが多かったのですが、ビスポーク・シューズ等も含む、より高級な靴を履かれるお客さまにも認知してもらえるようになりました。 また、最近だと自身がチャンピオンになったというのも少なからず影響していると感じています。」

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-Johnさんのお話にも出ましたが、お2人は世界チャンピオンになってから何か変わったことはありますか?

長谷川 「うーん、ジワジワと…来ている感じですかね。なんというか、仕事の話がドンドン大きくなっているというか。」

-オファー内容が大きくなっているということですね。

長谷川 「そうですね。特にコラボレーション系のオファーが大きな会社から来るようになりました。」

John 「私の場合、一番は顧客が増えたことですね。また、顧客からの要望で出張サービスも始めました。」

長谷川 「それって世界チャンピオンが家に来るぞ!という誇らしさ、自慢みたいなところが関係しているんでしょうか?」

John 「多分それもあると思いますね。前は私のことを知らない人がほとんどでしたし、仮に知っていたとしても取り分け大したことないだろうと思われていました。(笑)でもチャンピオンになってから、この技術を本物だと認めてもらえるようになったと思っています。」

長谷川 「ちなみにコラボレーションは増えていますか?」

John 「コラボレーションは私個人にではなく、Mason & Smithに来ることがほとんどです。例えば長谷川さん=Brift Hだと思いますが、Mason & Smith=Johnではありません。つまりブランドとしては私個人ではなく、お店がその役割を担っているのです。私がチャンピオンになることは=お店のブランド価値が上がるということになります。もし私がMason & Smithを離れたとしても、独立したショップとして皆様に支持されるのが理想ですね。」

長谷川 「なるほど…お店を離れることも考えているんですか?」

John 「今の所は考えていませんが、もし仮にそうなった場合でも、Mason & Smithがシューシャインとリペアの専門店として機能し、私自身はシューメーカーとしてビスポーク・シューズを作る、そんなブランディングを視野に入れています。」

20180906_stories9 Johnさん自身で制作したシューズ。
長谷川 「確かにBrift H=僕、というイメージは嬉しい反面難しい部分もあります。現場を離れられないので。 正直僕が店頭に居ないとお客さまが減っていってしまうのでないかという不安もあります。日本で成功しているシューシャインショップは僕と同じようにオーナーさんがメディアに出て、お店の看板になっている。その点、Mason & Smithはメディアに対してJohnさん個人の露出ではないから誰がやっているかはわからない。お店が立つ図式ですね。企業として大きくする上で大切ですよね。」

-確かに、日本では顔が無いと難しいところがありますからね。Johnさんはそれを意図的に考えてお店を作ったのですか?

John 「そうですね、最初から考えていました。また、Mason & Smithとしてやっているから誰が磨いても一律の値段になっていることは特徴の一つと言えるかもしれません。」

-お店の今後についてお聞かせ下さい

長谷川 「お店が10年経って、見えてきたこともあるのでお店をもっと増やしたいですね。現在は青山にBrift H、ショップインショップ、そして北海道にフランチャイズがありますが、ロンドンやニューヨークといった海外出店も視野に入れています。また、Brift Standといったセカンドラインの展開や世界の足元に革命をという自分のテーマに合わせてもっとパブリックなことも考えています。誰でも気軽に靴磨きを楽しめるような、かつビジネスとして成り立つ大きなことをしたいですね。」

John 「私は現在、ショップインショップという形式でお店を運営していますが、オンリーショップとして展開する準備を進めています。やはり独立したショップの方が自分たちの世界観を表現できますからね。 さらにはリペア専門のショップ、シューシャイン専門のショップ、ビスポーク・シューズ専門ショップといった形で各セクションの専門店を作れればと考えています。ビスポーク・シューズに関しては私自身現在修行中ですのでまだ時間がかかると思いますが。 その他にもアジア出店を視野に入れています。香港、タイといったアジアの国々はシューシャイン文化がヨーロッパに比べてまだまだ浸透していない。しかし潜在的な需要がかなりあると感じています。シンガポール同様、経済的にも大きなポテンシャルを持っています。シューシャインの楽しさを広めるというのも私の使命の1つですね。」

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気になる後編ではシューシャイン市場から英国靴文化まで深掘りしてお届けします!

■ 関連リンク
靴磨きのプロに聞く、シューシャイン 10の極意と素材・色別まとめ | Mason & Smith John Chungさん
靴磨きのプロに聞く、工程別磨きのポイント | Y’s Shoeshine 杉村 祐太さん
靴磨きのプロに聞く、道具の選び方と使い方 | THE WAY THINGS GO 石見 豪さん
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“靴磨き日本選手権大会2018”イベントレポート[前編]
“靴磨き日本選手権大会2018”イベントレポート[後編]


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長谷川 裕也さん

20歳の時に丸の内の路上で靴磨きを始めて、2008年に24歳で靴磨き専門店「Brift H(ブリフトアッシュ)」をオープン。汚れ落しから鏡面磨きに至るまでの職人技をカウンター越しに見せるスタイルで靴好きを魅了。「World Shoe Shine Championship2017」で優勝。
brift-h.com

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John Chungさん

ヴィンテージレザーシューズをリペアする情熱から、シンガポール初の靴磨きと靴修理専門店として「Mason & Smith」を2013 年に設立。伝統的な技術を背景に、革靴のリペアやリカラー・修理・復元など、最初から最後まで一人の職人が細心の注意を払いながら、一貫したサービスをご提供。革靴が持つ魅力を最大限に引き出します。「World Shoe Shine Championship2018」で優勝。
www.masonandsmith.com

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