Mason & Smith 代表 John Chungさん(左), Brift H 代表 長谷川 裕也さん(右)
新旧シューシャイン世界チャンピオンによる必見の対談後編。Brift H 長谷川さん、そしてシンガポール初の靴磨き店 Mason & Smith ジョンさんの2名をお招きし、靴磨きの価値をテーマにお話していただきました。
後編となる今回はシューシャイン市場と英国靴文化を深掘りしてお届けいたします。(前編はこちらから。) -今度はシューシャイン市場の話を伺いたいと思います。まず日本の市場はいかがでしょう?
長谷川 裕也 「日本では自身でシューシャインを行う方がすごく増えましたね。僕が2年前に本を出したのですが、その頃から世の中に靴磨き本が増えていった印象があります。そういった影響もあり、僕のお店ではシューケア用品の売り上げが増えました。更に昨年のシューシャイン世界大会を皮切りに、今度は日本国内での全国選手権が開催されるなど、広がりを見せています。紳士靴そのものよりも靴磨きというジャンルが今熱くなっているなと感じています。インスタグラム等のSNSでも若い方が頻繁に靴磨きに関する投稿を行っているのを見て、幅広い世代に浸透していると感じています。」-プロだけではなく、一般の方もシューシャインをする機会が増えていると。
長谷川 「そうですね。とは言っても『靴ってこんなに光るんだ!』という靴磨きの奥深さを知らない方が、まだまだ沢山居るので、この流れはまだ継続し、シューシャインのマーケットはもっと大きくなると思います。だからこそ今、セカンドラインでもある駅直結のBrift standといったより気軽に靴磨きが体験できるショップにも沢山のお客さまが来てもらえているんだと思います。」-シンガポールではいかがでしょう?
John Chung「開店当初、シンガポールでは国内需要がほとんどない状態でした。当時のお客さまの層は、海外から来られる方が多かったです。しかし最近ではシンガポール国内のお客さまも増えました。前にもお話しましたが、持ち込まれる靴のグレードも高級なものが多くなったのも印象的ですね。シンガポールでもビスポーク・シューズや高級革靴をお持ちになる人が増えたという傾向でもあるでしょう。」-現在、シンガポール国内と海外のお客さまの割合はどうでしょう?
John「以前は来店されるお客さまの7割程度が海外からの方でしたが、今では国内が6割、海外が4割と比率が逆転して国内需要が高まってきています。」-大きな変化ですね!ジョンさんのお店以外にも、プロのシューシャインショップは増えているのですか?
John 「あるにはあるのですが、比較的カジュアルなお店がほとんどですね。お店を持っていたとしても小規模のスタンド、その他は人の集まる場所でチェアーを置いてそこで磨く感じです。価格帯も非常に安く、日本円でだいたい1,000円くらいです。」長谷川 「意外としっかり取りますね。(笑)」
-プロの職人にシューシャインを頼むメリットとはなんでしょうか?
長谷川「忙しいビジネスマンの方が、靴を磨く時間を買うという点ですね。手間や時間をお金で買おうという方には、やはりプロの靴磨き職人に頼んだ方が良いとは思います。それに、靴磨きが好きな人でも90%の完成まで持ってはいけるのですが、最後の10%の部分でプロとの差は絶対に出るんですよ。毎日靴を磨いている僕らなら、その残りの10%を埋める事が出来る。ほんの僅かな差ですが、本当に大きいと思います。」John「私も長谷川さんとほとんど同じですね。まずは磨く手間と時間をお金で買えるメリット、そしてプロとしてノウハウが一般的な人よりも、もちろんあるので色の加え方、艶の出し方等など、私達が一番詳しいという自負があります。プロの職人が靴を磨くというメリットは皆さんが思っている以上に大きいと思います。」
-その反面、自分自身で靴磨きを行うメリットはありますか?
長谷川 「そうですね、手入れをすることで愛着も湧いてきますし、靴って普段マジマジと見ることはあまりないと思います。 自分で磨いた時に『あれ?ここが凹んでいるな。』とか『結構ぶつけているな…。』とか小さな変化の気づきから、歩き方の特徴やくせ等を知ることも出来ます。そもそも自分の靴なので自分で手入れをするのは当たり前という考え方もありますが。(笑)」John「これも全く同じです。(笑)それに加えて手入れをすることで、自分の好みとかにも気づけるのもメリットではないでしょうか。どういった木型や形が好みなのか、靴を磨きながらよく見てみると、自分自身のスタイルを知ることができます。」
長谷川 「私は普段のメンテナンスなら自身でやるのが良いと思います。月1回は自分でやりつつ、年1回にはプロの職人に磨いてもらう、というのが僕は良いバランスだと思います。僕らプロをうまく利用して、永く愛用してもらえれば嬉しいですね。」
-靴との良い付き合い方とは?
長谷川 「まず、数は持ちすぎない!(笑) 履ける足数を持つことが大切だと思いますので、個人的には多くても20足が上限ですね。その代わり選りすぐりの靴で、定期的にメンテナンスして愛してあげることが大切。逆にちょっとやそっとの傷でも気にしないというメンタルも必要かもしれません。 そもそも靴って足を保護するものなので。常にビカビカというのも、もちろん良いですが、それよりかは多少のシミや傷を許してあげるくらいのおおらかな気持ちで履くのが健全で、気分の良い付き合い方かなと思います。」John「私も靴は履ける足数を持つことに同感です。そしてちょっとの傷はあまり気にしないほうがストレスにもなりません。一番好きな靴にはデリケートになっても良いですが、それ以外の靴は気にしないものを選ぶ、というのも良いでしょう。靴は履いてからの気持ちが大事。靴は履いてこそ靴、という感じですね。」
-ありがとうございます。最後に、英国靴の文化で共感することはありますか?
John 「まず靴づくりの歴史が長い。靴の質や拘り、文化は世界に周知されています。そこまで歴史のある国はアジアではもちろんのこと、ヨーロッパでも中々ありません。そしてなにより、個人的にイギリスの靴が好きです。ビスポーク・シューズ含め、やはりクラシックスタイルというところにつきますね。永く使える、時代が流れても普遍的なデザイン。それらは何にも代えがたい英国靴の魅力です。」長谷川 「発祥の地というのは大きいですよね。すなわち「オリジン」であるということは “変わらない”良さがありますよね。 あとは雨が多いのにロンドンって靴磨き屋さん自体があまり多くない。それが反面、靴との付き合い方を自然にしている気がなんとなくしますね。その根拠として、街中では靴が綺麗な人にあまり出会わないですからね。(笑)」
新旧シューシャイン世界チャンピオンによるシューシャイン対談いかかでしたでしょうか。本対談が皆様に、長くものを大切にしていくというシューシャインの価値をより知っていただく1つのキッカケなれれば幸いです。 ぜひ前編も合わせてご覧ください。
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