-初めて手にした革靴と、その馴れ初めを聞かせて下さい。
吉村 「確か当時高校3年生の頃ですね。今から約10年以上前の話になります。 高円寺の古着屋でヨーロッパ系のヴィンテージを多く取り扱うお店があって、そこで初めて買った本格的な英国靴がチーニーでした。 スエード素材の内羽根ブローグモデル、古着なのでカウンターライニングの印字は消えてしまっていたのですが、恐らく木型は6184ラストだったかと思います。まず最初の出会いがそれでした。そこから革靴にのめり込み、これまでに約30足ほど履いてきて、その内の10足はチーニーでしたね。」
チーニーの設立年を冠した1886ラストを採用したロングウィングチップモデル“YELVERTOFT”
-その当時、なぜ英国製の靴に興味を引かれたのでしょう?
吉村 「元々、スニーカーが好きで特にアディダスが好きだったのですが、中でも西ドイツ製のものを探していました。あの年齢的なムーブメントもあると思いますが、漠然と自分の中で拘りのあるものを探し求めていたんだと思います。 そこで革靴もしっかりしたものが欲しいな、と思い調べに調べ『革靴なら聖地ノーザンプトン』というルーツに辿り着いたのです。」-そこでチーニーを選んだ理由はなんでしょう?
吉村 「当時選んだ理由としてはノーザンプトンのシューメーカーとして、著名ブランドや有名セレクトショップのOEM生産を手掛けていたからという要素が強かったですね。 つまり、それに見合うモノの良さとクオリティーを持っていたから選ばれていたということです。 チャーチも当時から気になっていた存在ですが、ただ高校生の身には合っていないと思って…生意気なんじゃないかと敬遠していました(笑)。 あと、個人的にはチーニーのチャーチを支える影的な立ち位置というのも気に入っていました。」「その後大学へと進み成人式を迎えるのですが、そうすると一式揃えるじゃないですか。 スーツ、ネクタイ、シャツ…どれも最初の一着だけど、どうせなら永く着たい。 ある程度の品質のものを揃えた時、入学式の時に買った革靴を合わせたら『ダメだ!』となったんです。 そんな時に英国製のものが良い、チーニーだ、という選択肢が自然と頭に浮かびました。」
-運命的な再会ですね!
吉村 「なんとなく不思議な縁を感じましたね。 どうしても欲しくなって、成人式の前々日くらいまでずっと探していました。 ようやく理想のものを探し当てたのが当時ユナイテッド・アローズが別注していたストレートチップ。 セミスクエアトゥ、ガッツリとついた無骨なウィーリング(ウェルトの目付け)、あの瞬間思い描いていた古き良き英国靴そのものでした。 残念ながら理由あって、現在手放してしまいましたが、誰かに大切に履いてもらっていると良いですね。」-思い入れのある1足はありますか?
「1足に絞ると、どれかはなかなか選べませんが…。 COMOLI × チーニーのWネームのサイドゴアブーツは最近で1番思い入れが強いですね。 プロダクトとしてはもちろん、様々な側面で今の“ジョセフ チーニー”というブランドを体現していると思います。 今まであった話のようにチーニーといえばドレスシューズが求められているんですよ。 木型やモデルも比較的ドレスの方が多いです。 ただ、個人的にはワーク・ミリタリーといったカジュアルなスタイリングがほとんどで、ドレスシューズを履くシーンは限られています。 そういった人に向けて、このブーツのような選択肢も提案できるのがチーニーの強みの1つです。 特にこのモデルは4436ラストという最も歴史のある、英国軍に供給されたミリタリーラストという実績のある木型を採用しています。 このような幅の広さと技術・歴史的背景を持つチーニーだからこそ、ドレス・カジュアル問わず、またプロダクトの面からも、様々なニーズに答えることが出来るんだと思います。 同じ4436ラストを使用した“CAIRNGORM 2R”というモデルは、人気が高まっているのを感じます。」 4436ラストにコマンドソール、ナチュラルウェルトを採用し、伝統とデザインが調和された“COMOLI 2016”。英国に対し日本はアスファルトが多いことから「日本の街」を意識してブラックのスエードにデザインされた。
カントリーコレクションに採用される木型である事から、英国カントリーウェアとして周知されるモールスキン、コーデュロイパンツとも相性が抜群だと語る。
「伝統的ある英国紳士、なのに柔軟な対応もできる。
ただの既製靴シューメーカーではなく、実に幅広い提案ができるというアイデンティティがあるからこそ、最前線で活躍する実力派ブランドとのコラボレーションも可能なんだと思います。
自分は古着が入口でしたが、同じように若い人には、ここを切り口にドレスシューズを選ぶこともあるのではないでしょうか。
『最初に買ったチーニーの靴が良かったから、ドレスシューズも同じブランドを選びたい。』と世代を超えて、英国靴を楽しめるきっかけを与えてくれていると思います。」-ちなみに普段革靴とはどのような付き合い方をしていますか。
吉村 「正直に言うと怒られるかもしれませんが、あまりメンテナンスはしていません(笑)。 しっかりとしたメンテナンスはTPOで求められた時くらいです。 普段は風通しの良い所に干したり、ナチュラルフレッシュナー(除菌・消臭・防カビ効果のあるスプレー)を施す程度で最低限のことしかしていません。 シューツリーを入れるのも個人的には少し抵抗感があります。 もちろん日々のメンテナンスとしては良いのですが、長期間シューツリーを入れて保管すると、せっかく自分の足型に馴染んでいるのに戻ってしまう気がして勿体なくて。 基本的に、ストレスの無い付き合い方をしています。」「ただ、スエードシューズだけはしっかりブラッシングしますね。 表革はクリームでいくらでも誤魔化せますが、それに比べてスエードは汚れや傷も戻しにくいので、それだけは本当にしっかりやっています。 でも綺麗過ぎるより、やや毛羽立っているくらいがちょうど良いなぁなんて思います。 思い返せば、最初に手にしたチーニーがスエードだったこともあり、自分の好みは今も昔も何も変わっていないなと思います。」
-最後に、イギリスや英国靴にまつわるコトがあればお聞かせ下さい。
吉村 「英国靴、というよりチーニーの話になりますが。 自分が20歳の時はチャーチのセカンドラインという先入観があったものの、今は全く別です。 2009年に1つのブランドとして独立し、完全に生まれ変わった印象です。」「常にアップデートしている姿勢が製品にも現れていて、自分が持っていた10年前のものと比べるとアッパーに、高品質なカーフレザーを生産しているウィンハイマー社のボックスカーフを採用するなどクオリティアップも積極的に行っています。 また、靴だけでなく、イギリスの路面店においてもクラシックなイメージを保ちつつ、華美になりすぎないモダンな空間を演出しています。 伝統と革新が共存するイギリスの文化を体現しているブランドだと思います。」
ウィンハイマーのカーフをアッパーに採用したBEAMS F別注のフルブローグモデル“EDWARD”。パーフォーレーションやステッチカラーといった細部にも拘りが反映されている。
吉村 「チーニーの歴史は大きな転機が少なくとも2回あるんです。1960年代にウィリアム・チャーチの父であるジョン・チャーチがブランドを買収します。その後1999年にプラダグループによってチャーチと共に買収されるのですが、2009年に息子であるウィリアムと共同経営者の手によってブランドを買い戻し、チーニーは1シューメーカーとして独立を果たすのです。まるで映画のようなストーリーを持ち、昔ながらの英国靴を深く知る、その血を受け継いだ人達が作り続け、今もなお選ばれているブランドって革靴に限らず滅多に無いんじゃないかと思います。頑なに変化に応じない英国ブランドがある一方で、古き良き革靴を知り、高いクオリティと柔軟性を併せ持つ“英国靴の良心”とも呼べるブランド。それこそが自分の知るチーニーの魅力です。」Thanks 5th Anniversary|ブリティッシュメイドの5周年を記念したコラボレーションアイテムが登場。
BRITISH MADE
英国ブランドに特化した輸入総代理店、渡辺産業の直営店。"Stories of British Life"をコンセプトに、「英国のライフスタイルから生まれるモノやコト」をお届けしているお店です。