3代に渡ってニットウェアを製造してきた、Alastair Mackinnon(アラステア・マッキノン)は、スコットランドのグラスゴーにMackinnon International Knitwear社を設立。1981年に「Macalastair(マカラスター)」ブランドを発表。英国らしい高級ニットを中心にした製品は世界的に愛されています。マカラスターは、伝統的なハンド・フレーム(手横編み機)製法を得意としており、秋冬のニットウェアでは、世界遺産に指定されたニュー・ラナークのミルズで紡績された糸を使用しています。
まずはニュー・ラナークというスコットランドでも数少ない世界遺産の地を目がけて車を走らせました。 スコットランドの最大都市、グラスゴーから南東へ50km ほどに位置するラナーク(Lanark)は、サウス・ラナークシャー(South Lanarkshire)にある、人口1 万人に満たない小さな街です。グラスゴー空港からは車で40分ほど、高速道路をM8からM74と南東方面に走り、出口9からは一車線の道A72をひたすら進みます。距離が長く信号もないワインディング・ロードを、軽量でハンドリングの良い車で走るのは実に気持ちがよく、イングランドで例えるならコッツウォルズの道路環境に匹敵するようなドライブ好きにはたまらない道が続きます。車を走らせていると、突然古い城跡などが現れ、スコットランドにいることを気付かされると同時に、スコットランドという国がもつヘリテージの奥深さを改めて感じます。
ラナークは、元々、中世のマーケット・タウンとして栄えた街。今では他のスコットランドやイングランドの地方の街と変わらない風景があり、普通のハイストリートのお店も並んでいますが、その名残もあってか時々マーケットの屋台も並ぶそうです。あいにく訪れた日には屋台に出くわしませんでしたが、やはりマーケット・タウンだけあって、周囲の街からの交通の繋がりがよく、(地方都市だからと安心していたのに)中心地はかなりの交通渋滞で、街を通過するのに一苦労ありました。
街の中心では、ラナーク・ミュージアム(The Royal Burgh Of Lanark Museum)やセント・ニコラス教会(St. Nicholas Parish Church)などの重厚な建物が目を引きます。
教会の壁面には、スコットランドの英雄、ウイリアム・ウォレスの石像が、堂々とした体躯を見せてくれています。他にもラナーク周辺には、ウォレスの城跡など、ウォレスに関わった遺跡が点在しています。
駐車場に車を停め、水の流れる音を目指して徒歩でスロープを下っていくとクライド河を流れる気持ちの良い水の音が聞こえてきます。このエリアはいくつもの建造物群にわかれて構成されており、まず目に入ってくるのは、紡績工場であった建物。ほかにもRow(ロウ)と呼ばれるブロックで、従業員の宿舎や、学校などの施設も併設されています。
18世紀末に、スコットランド人のディヴィッド・デイルと、イギリス人のリチャード・アークライトの共同経営で建設されたこの紡績工場は、のちに実業家であり社会主義者のロバート・オーウェンが自身のオーウェン主義を実践する場となります。多才なる社会主義者、共にアーツ&クラフツ運動で有名なウイリアム・モリスやジョン・ラスキンにも共通する、オーウェンの理想郷。オーウェンの主義については深くはここでは触れませんが、オーウェンが『不当な搾取からは能率の良い生産が生まれない』『ニュー・ラナークの最大の宝は、子供たちである』と唱えたように、当時のニュー・ラナークでは、労働力として工場で働かされていた子供達全員に教育を与えるために、学校が開設されました。その影響もあって、ニュー・ラナークの子達の識字率は、当時スコットランドで最も高かったそうです。
まずはニュー・ラナークというスコットランドでも数少ない世界遺産の地を目がけて車を走らせました。
ラナーク・ミュージアム
セント・ニコラス教会は1774年に建設された建物ですが、塔の上に設置された鐘は、The OldChurch of St. Kentigern にあったものを教会が完成された際に移したものだそう。この鐘が製作されたのは、なんと1110年。世界的にも最も古い鐘の一つとして知られ、日曜日の礼拝時には、今も美しく周囲に鳴り響いています。 教会の壁面には、スコットランドの英雄、ウイリアム・ウォレスの石像が、堂々とした体躯を見せてくれています。他にもラナーク周辺には、ウォレスの城跡など、ウォレスに関わった遺跡が点在しています。
セント・ニコラス教会
賑やかな中心街を抜け出して運転すること数分、街道は新緑の緑に包まれます。世界遺産の街、ニュー・ラナークに到着です。
この日は汗ばむほどの陽気で、イースター・ホリデーの時期だったこともあり、観光客も多く、その中には日本人の家族の姿もちらほらと見ました。ニュー・ラナークと日本の繋がりは意外に古く、1920年代から日本人の見学者たちが、当地を訪れています。1934年には、横浜の五島茂教授が、オーウェンに関する文献の標準目録を絵編集した、との記述があります。
ニュー・ラナーク・ミルズの原動力になっているのが、クライド河の水力です。右手に大きな水車を見ながら視線を左前方に移すと、遠くに美しい河の段差が見えます。これが『クライドの滝 (Falls of Clyde)』です。滝と呼ぶには、日本人の感覚では少々抵抗がありますが(笑)、周囲の木々の緑に包まれ、滝の音とハーモニーを奏でる鳥の声を聞いていると、直感的に理解できる自然の美しさがここにはあります。
周囲を散策していると『この滝からもう少し奥まで歩いてきます。バードウォッチングが趣味なので』と語る地元の老夫婦に出会いました。
この美しい自然の中で紡績工場が建てられたのは1786 年。今もニュー・ラナークの地で紡績されるウール糸を使用し、1981 年に誕生したブランド「マカラスター」。滝の流れを眺めていると、伝統的なニッティングやクオリティーの高さもさることながら、ゆっくりとした刻みで流れる時間から生まれるマカラスターの製品には、人が身につけるものや環境に対する優しさの思想が時を超えて今も詰まっていることを実感しました。ニュー・ラナークがもつ特別な空気は訪れた人を魅了し、そこで暮らすことの意味を知っている人々によって受け継がれているのです。