アメリカファッションを経て、英国靴に出会うまで
アメリカのホームドラマ『パパ大好き』(1960年)のワンシーン ©MeTV.com
―ファッションを好きになったきっかけは何ですか。永田:だいぶ昔の話になりますが、兄から「これ、いいんだよ」って、古着をもらっていました。ファッションに最初に興味を持ったのはその頃かなと思います。また、当時はアメリカのホームドラマが放送されていて、それにも影響を受けました。
―何というドラマですか。
永田:『パパ大好き(原題:My Three Sons)』(1960年)や『ビーバーちゃん(原題:Leave it to Beaver)』(1957年)とか。アメリカの家庭の子どもたちが着ている服が欲しいなと思いましたね。
―なるほど。永田さんのファッションの原点はアメリカにあるんですね。
永田:はい。なので、若い頃はアメリカ西海岸のファッションに憧れて取り入れていました。ヒッピー(※1)とかですね。ジーパンを履いて自由なスタイルでやっていました。でも、もっとおしゃれをしたいと思ったとき、やはり東海岸のファッションが魅力的に映り始めたんです。それで少しずつ東海岸のファッションに移っていきました。アイビールック(※2)とかですね。
※1 ヒッピーは、1960年代後半から1970年代にアメリカで登場した文化。既成の価値観に縛られず、”愛、平和、自然”を愛する自由な生き方を求めた人々を指す。このスピリットがファッションにも影響しており、ルールに捕らわれない、自由な着こなしが特徴。
※2 アイビールックは、1950年代にアメリカ東海岸にある名門私立大学の学生やOBの間で広まっていたファッションをもとに誕生した紳士服のスタイル。1960年代に日本でも流行。
1960年代のプレップスクールやアイビーリーグの大学キャンパスでは、スキニーレップタイやマドラスジャケット、白のオックスフォード ボタンダウンシャツが流行っていた。『Brooks Brothers: 200 Years of American Style』より
Drake’s(ドレイクス)は、オックスフォード ボタンダウンシャツにストライプのレップタイを合わせるなど、アイビールック定番のアイテムを取り入れ、“ブリティッシュアイビー”スタイルを生み出している。2021年ルックブックより
―ヒッピーからアイビールックまで、アメリカファッションを堪能された青春時代ですね。永田:ええ。そして、アイビールックに触れるということは、その源流であるイギリスのファッションにも近づくということになります。私は20代で初めてイギリスの商品に触れましたが、それがチャーチの革靴です。
―何というモデルですか。
永田:「チェットウィンド(※3)」という内羽根ウィングチップのスエードです。
※3 チェットウィンドは、「ディプロマット」や「コンサル」と並んで、チャーチの3大ドレス靴と称される名作。元英国首相トニー・ブレアやピアース・ブロスナン演じるジェームズ・ボンドが愛用していた革靴としても知られる。
―アメリカファッションを楽しまれてきて、イギリスのファッションはどのように映りましたか。
永田:トータルすると、すごく真面目ですね。前職でイタリアの服を仕入れていたことがあるのですが、イタリアでは本来はしたらダメなこと――革を洗ってみるとか――を平気で試していました。一方イギリスでは、そういう冒険はあまりしません。だからこそ、流行に関係なく、いつでも着られる服に仕上がるのでしょう。昔買った服や靴を今でも着ることができるというのは安心しますよね。
―確かに。流行り廃りがないというのはイギリスファッションの魅力の1つですね。
革靴を履いて、良い格好をして、良いお店へ行くこと
永田:店頭にも立つので週4日くらいです。
―永田さん定番のスタイルは何ですか。
永田:カジュアルということだとデニムが中心です。あとはミリタリーパンツとかでしょうか。ここ4年ほどお気に入りのジョセフ チーニー「エイボン C」(写真上)などは、デニムと合わせても、ミリタリーパンツと合わせてもキレイめなスタイルになるので重宝しています。秋冬ならツイードやウールの洋服とも合わせられるかなと思っています。
―最近、リモートワークなどで革靴を履く機会がなくなったという話をよく耳にします。永田さんはいかがですか。
永田:いろんな理由で革靴を履かなくなったという人は、革靴があまりお好きじゃないのかなと思うんですよね。革靴が好きな人なら、リモートワークで履かなくなっても、休みの日に履いて出かけたりすると思います。
―革靴の良さはどんなところですか。
永田:デザインにもよりますが、オンオフ使えるところは魅力的です。スニーカーにはそれができませんから。あと、革靴を履くと気分がちがいます。また、どこかに出かけるとき、革靴のほうがいつもよりワンランク上の場所に行けたりするのもいいですね。
余談ですが、40年くらい前にアメリカに旅行したことがあります。その頃は「アメリカに行くなら汚い格好をしたほうがいい」と言われていました。キレイな格好をするとスリやひったくりに遭って危ないからでしょうね。ところが、いざ汚い格好で行ったら、良いお店に入っても誰も相手にしてくれない。お金は持っていて、ちゃんと買うんだよと言っても、接客さえしてくれないんですよ。やはり良いお店に行きたいなら、スニーカーより革靴を履いて、それなりの格好をすべきなのだと学びました。
―苦い経験でしたね。
永田:だから一番楽なのはハワイですね。短パンでもちょっといいレストランになら入れますからね(笑)
―アロハシャツが正装なんて素敵ですよね(笑)ところで、日本でも同じような経験はありますか。
永田:日本だと、昔は店員に気に入られないと洋服を売ってもらえない、ということはありましたね。
―え!?店員が売らずに追い返しちゃうんですか!?
永田:ええ。昔は洋服の店が今ほど多くなかったので、店員がみんなの憧れでした。お客さんたちはどうにか店員に認められようと、革靴を履いておしゃれをして、覚悟を決めて店に行っていたんですね。
―すごい!お客さんも店員もおしゃれにかけては本気の時代だったんですね。
永田:でも、今の時代は逆で、店員がお客さまに気に入っていただかないといけません。お客さまに選んでいただけるように、革靴を履いて良い格好をして、やはり覚悟を決めてお店に立っています。
最近のお気に入り ジョセフ チーニーの革靴3足
JOESEPH CHEANEY – AVON C
―こちらが、永田さんが4年ほど愛用されているジョセフ チーニーの「エイボン C」ですね。こちらの革靴の魅力は何ですか。永田:フルブローグ(=ウィングチップ)であり、ドレスシューズにも使われている木型を使用しているので、オンオフ両方で、どんな天候でも使えることが魅力かなと。あと、シボ革×フルブローグという革靴が珍しかったんですよね。
―どんな天候でも履けるというのは、雪でもですか。
永田:雪でも雨でも履きましたね。むしろ天気が悪いから「エイボン C」を履いていっちゃおうと。
-長靴みたいですね(笑)
永田:そう、長靴みたいです。どんな天候でも履けるから旅行にもいいですよ。現地の天候を気にしないで履けますからね。あと、出張にもいいですね。雨が降っても、雪が降っても問題ないし、革靴だからスーツにも合わせられます。
―そう聞くと無敵の靴に思えます!
永田:1つだけ弱点をあげるなら、コマンドソールに砂利が入ることかなあ(笑)京都のお寺とか歩くとね、ソールの間に小砂利が挟まっちゃってね。それだけは取り除かないといけません。
永田:「ケンゴン Ⅱ R」より「エイボン C」の黒のほうがキレイめなスタイルに合うと思ったからです。
あと、これも余談ですが、昔は「黒い靴=ドレス靴」というイメージがあって、デニムでも何にでも合わせられるのは茶色い靴のほうだと思っていました。だから、仕事でイタリアに行ったとき、イタリア人が白いパンツに黒い靴を合わせていたのが新鮮でした。それで自分も、そういう風に合わせてみようと。
―白いパンツに黒い革靴、かっこいいですね。
永田:ええ。その頃は黒い靴を持っていなかったので、黒い靴いいね、と思って「エイボン C」を買いました。
JOESEPH CHEANEY – AYR C
JOESEPH CHEANEY – EARLS R
―こちらも永田さんが4年ほど愛用されているレースアップのショートブーツですね。ジョセフ チーニーの「エア C」(写真上)と「アールズ R」(写真下)。永田:最近は「エア C」を履く機会のほうが多いかな。
―「エイボン C」もですが、「エア C」もシボ革ですね。シボ革の靴が最近のお気に入りですか。
永田:そうですね。汚れもさっと落ちるし、革が足に馴染みやすく、見た目よりずっと履きやすかったので気に入っています。ただ、それでもシボがないブーツも欲しかったので「アールズ R」を買いました。
―永田さんは何足くらい革靴を持っていますか。
永田:昔はもっと持っていましたけどね、今は少なくなりました。20足くらいかな。
―20足ですか!?すごい!!
永田:革靴好きの人なら、昔のものを捨てないのでもっと持っていますよ。今回、お見せしているのが、20足の中で一番履いている3足です。
―20足を全部ケアするのはたいへんですよね。
永田:シューシャイナーの方にお願いするような、本格的な靴磨きは頻繁にはできていませんよ。私の場合は、一度、本格的に磨いてワックスを付けたら、あとは日々のブラッシングですかね。
最後に、ブリティッシュメイド銀座店の魅力を教えてください!
永田:まず、銀座という街が個性的です。敷居の高い良いお店が多いので、街全体に高級感があります。そして、昔ながらの良いお客さまがたくさんいらっしゃいます。
―銀座店スタッフの皆さんはどういう方ですか。
永田:責任感があるスタッフが多いと思います。一生懸命やろうという姿勢があるので、サービスも良いと感じていただけると思います。自分でも他のスタッフの接客の仕方など真似したいところです。
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BRITISH MADE
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